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メディアグランプリ

打ち上げ花火は人類の公用語


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:笠原康夫(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
(この度の熱海伊豆山地区の土砂災害において甚大な被害に遭われた関係者の皆様に謹んでお見舞い申し上げます)
 
「熱海で打ち上げ花火でも見ながら、ゆっくり息抜きしませんか?」
今から20数年前、こんな営業トークで必死に勧誘していた。
新卒で勤めた繊維商社での営業活動のひとコマ。
7月の熱海会場花火大会の時期に合わせて、熱海のホテルを貸し切り、小売店向けに毎年3日間の卸販売会を開催していた。小売店のオーナーを熱海まで連れ出し、連日飲めや歌えやの接待漬けで大きく売上げを稼ごうという昭和チックな主旨の販売会。
 
当時、営業担当だった私は、1社でも多く、自分の取引先を勧誘してより売上げを稼ごうと馬車馬のように働いていた(働かされていた)。
 
いざ、販売会が始まると、連日深夜まで宴席、接待麻雀が続く。まさに体育会系のノリの会社だった。私の性格は決して接待は得意ではない。
 
営業成績を上げるために熱海の花火をネタに勧誘するが、実は熱海の花火は見たこともなかった。
見たことも関心もない花火をネタに勧誘することは、心のどこかで自分に嘘をついているようで罪悪感さえあった。
決して口には出さなかったが、我慢をしていた。本音は苦痛だった。
 
かれこれ6年くらい、こんな思いを我慢していた。
気づくと、熱海の花火自体にネガティブな印象を持つようになり、熱海のことを無意識に遠ざけるようになっていた。
 
□  □
 
30歳の時、転職をした。
熱海の呪縛からは解かれたが、その後も、私にとって熱海は鬼門のような場所でずっと封印していた。
 
それから15年が経ち、妻の趣味に付き合ってスキューバダイビングを始めた。
近所のダイビングショップを通じて、定期的に伊豆方面の海に出かけることが多くなった。
5年前の夏、そのダイビングショップがダイビングと熱海の花火観覧のイベントを企画してくれた。
 
「熱海の花火かぁ」正直、熱海というキーワードに気乗りしなかったが、妻に誘われるまま参加することにした。
 
イベント当日、集合場所には10名前後のダイバーが集まった。
皆、初顔合わせ。私も妻もどちらかというと人見知り。移動の車中もダイビングの最中も皆それぞれに交流することもなく過ごした。
 
ダイビングを終え、陽が沈み、いよいよ花火観覧の時間がきた。
観覧用のボードに乗り込んだ。ボートで沖合に出て、船上から花火を観覧する。
乗合船には30人くらいが乗船していた。老若男女の日本人に2割くらい外国人旅行者も混じっていた。
 
花火が始まる頃にはどこから集まってきたのか、50隻近くのボードが熱海湾に集まっていた。
 
いよいよ花火が上がり始めた。
いつも見ていた町中で見る打ち上げ花火は遠くに眺めるものだったが、この日の打ち上げ花火は違った。真上を見上げる花火だった。頭の上から降ってくるような花火だった。
こんな間近で見たことがなかったので圧巻だった。あまりの迫力に言葉も失ったまま、しばらく呆然と眺めていた。
 
一緒に乗り合わせていた人たちも国籍を問わず、老若男女を問わず、花火に魅了されて、歓喜していた。
 
すると乗り合わせていた20代の男性二人組が花火に向かって乾杯の発声をした。「カンパーイ!」
すると周りのカップルも老夫婦も外国人もみな、つられるように「カンパーイ」を連呼する。
次々に乗客30人の「カンパーイ!」がこだました。
お互いのグラスを重ね合わせ、肩を組む勢いでみんなが一体となった瞬間だった。
 
花火の力が、言語の壁を越えて、年齢を越えて見ず知らずの人の壁を越えて、まるで公用語のように一体感を生み出した。
 
本当に美しいもの、すばらしいもの、人の心を打つものに、もはや言葉は要らない。
 
□  □
 
花火が終わり、ボートが岸に戻る頃には、私の心境は一変していた。
この20数年にわたってくすぶっていた熱海に対するわだかまり、20年前、自分に偽っていた後ろめたさがこの花火で一気に吹き飛んだ。
ただ繰り返し、咲いては散っていく花火の様を見ているうちに、胸に詰まっていたわだかまりが、ほんの一睡の他愛もないことのように思えた。そして不思議と気持ちが晴れてきた。
 
花火の起こりを調べてみると、どうやら花火には鎮魂の意味もあるとのこと。
慰霊や疫病退散、送り火、迎え火の一種とも言われる。
 
人それぞれ、花火との向き合い方は千差万別だろう。
 
この夏は日本国内において、打ち上げ花火を見られる機会は極めて少ないだろう。
来年の今頃は花火が打ち上がる空の下、みんなで歓喜できることを待ち望んでいる。
その時は、外国人観光客も戻ってきているだろう。彼らと一体になって思いっきり、一緒に楽しんでみたい。
それを期待して、この夏はもうしばらく辛抱しよう。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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