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メディアグランプリ

ベテラン体験ダイバーのススメ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ごろ子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
海底に身を沈めて酸素ボンベで呼吸しているあなた。そのボンベから酸素が送られてこなくなったら……。初めてボンベを背負って海に潜る時、きっとみんな一度はそんな恐ろしい想像がよぎるのではないだろうか。そしてそれを振り払って、新しい世界を手に入れるのだ。
 
初めてダイビングを申し込んだ時、私は自分がカナヅチであり、元々水が苦手である事が完全に頭から抜け落ちていた。信じがたいが、それほど沖縄旅行に浮かれていたのだ。学校の水泳もずっとサボってきたくせに、きれいな海の底が見たい、と何とも気軽に参加してしまった。それに気づいたのは何と装備を付けて海に入った後だった。
 
初心者は始めに船から海の中に続く梯子につかまり、海面近くで呼吸の練習をする。吸って吐いて、吸って吐いて、ただそれだけを約5分間。それが済んだら梯子の先から伸びる長いロープを伝って海底まで下りて行くはずだった。海の中は異様にしんとして、聞こえるのは自分が空気を取り込むシューっという音、吐き出すボコボコという音だけだ。足の下はずっと先まで青暗い。シュー、ボコボコ、シュー、ボコボコ。自分の呼吸に集中するうちに、鼓動の音がやけに大きく感じられるようになってきた。無かったはずの不安がどんどん膨らんできたのだ。あれ? 勢いでここにいるけど、海底で何かあったらどうなる? ていうか、こんなボンベに命を預けて大丈夫なんだろうか。鼓動はどんどん速く、大きく。無意識に呼吸も早くなり、気づいたらまるでボンベの中にもう酸素が残っていないみたいに必死に吸っていた。呼吸が乱れすぎて苦しい。ダメだ! 私は梯子をデッキに向けて登っていた。
 
もうすぐデッキというところで後ろからスタッフに腕をつかまれた。
「どうしました⁈」
急に一人だけ梯子を上がり始めたのである。向こうもびっくりしただろう。
「怖いです!」
「……怖いんですか……?」
 
私は軽いパニック状態になっていたのだが、とりあえず水の中から脱出し、デッキに上がれたことで安心した。……私、泳げなかったんだよなと我に返る。こんな所まで来て機会もお金も無駄にするのはすごく嫌だ。でも怖くて、とてもじゃないけど下まで行けそうもない。私は一緒にデッキに上がってくれた女性スタッフにギブアップを伝えた。勿論私は残念だが、何だか私以上にその彼女はがっかりとして見えた。
 
他の参加者が海に消える中、ポツンとデッキに残る私。少しの時間が経って、さっきの女性スタッフは予想外にも私を説得し始めた。
「本当に潜りませんか?」
それからはずっと、ダイビングは泳げなくてもできる、ボンベは故障しない、万一したとしてもスタッフが自分の物を渡せる、と。こう言っては何だがめちゃくちゃしつこいのだ。私は最初は困っていたが、一方で、この人のモチベーションは何なんだろうと思い始めた。参加者本人がやめておくと判断し、すでにボンベも下ろしているというのに。
「私が付いてますから」
私は、だんだんこの下には本当に逃しちゃいけないものがあるのかもと思い出していた。この人は本当に下の世界を私に見せたいんだ。世話を焼いてまで連れて行きたいんだ。
 
私はボンベをもう一度背負っていた。もう一度ゆっくりと梯子の途中まで下り、今度は彼女と向かい合って両手をつなぎ、吸って、吐いて。まるでラマーズ法の様だったが不思議なことに彼女と目を合わせて呼吸をしているうちに自分がリラックスしてきているのが分かった。行きましょう、行けますね? という彼女の無言の合図でゆっくりロープを伝って海底に下りていく。油断すると怖くなってしまいそうだが、彼女の背中だけをしっかり追う。そして海底が近づいて、その様子がはっきり見えた時、私の恐怖は完全に消えた。
 
沖縄の海の水やサンゴや魚は、海外のダイビングスポットと比較しても本当に美しい。その美しさは画像や映像でだってそれなりにリアルに味わえるのかもしれない。ただ、その中に身体を浮遊させた時に感じられる、自分が溶けてしまいそうな自然との一体感はやらないと感じられない。少なくとも私は他の何でも感じたことが無かった。私は今、ベテラン体験ダイバーである。というのも、その後ライセンスを取る訳ではないが、またそれを味わいたくなる度、数年に一度体験ダイビングで潜っているのだ。ダイビングは道具もお金も必要なハードルの高い遊びだと感じる人も多いかもしれないが、そんな潜り方もありなのである。
 
私に新しい経験と新しい感覚を与えてくれた、あのしつこく誘ってくれた女性スタッフに感謝である。そして彼女から与えてもらったものはもう一つ。自分の良いと信じるものを真摯に伝えれば、その姿勢は迫力を帯び、そっぽを向いた人だってその気にさせられるのだという事実である。
 
 
 
 
***
 
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2021-07-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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