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禁酒させるために妻がとった恐ろしい行動

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:橋本潔(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「明日からやめるよ」
そう妻に言いながら、私はソファに体を預けながら缶ビールを飲んだ。
 
結婚した当初。
私には飲酒する習慣がなかった。
アルコールが飲めないわけでもなければ、嫌いでもなかった。
就職で会社員としていた頃、同僚や顧客とよく飲んだ。
それでも習慣にならなかった。
 
習慣になったのは、結婚して10年目、転職した年だった。
従業員との親睦会。
同業者との交流会。
顧客への接待。
など、仕事で飲む機会が増え始めた頃だ。
「これまで酒を飲んでも大丈夫だった、だからこれからも大丈夫」
そう信じて、飲酒には気をつけていた。
 
その信念。
いつの間にか消えていた。
その原因。
考えなければ、わかりもしなかった。
わかるのは、1日の飲酒量、体重、血圧だけだ。
1日に、ビールなら500ミリ缶が4本以上。
体調が良ければ、さらに2本増し。
体重は転職時より、プラス20キロ。
最近、腹が出てきた。
血圧はいつも正常値140を軽くオーバー。
健康診断はいつも要注意の指摘を受けた。
 
妻は私が飲んでいるところをみると、いつも小言を言った。
「飲みすぎないで」
「先生に言われたでしょう、もう少し気をつけてよ」
「ズボンのウエストを直す私の身になってよ」
 
妻があれこれ小言を言うたび、私は口癖のように言い返した。
「大丈夫、明日やめるから」
「これを最後にするから」
「本当に明日になったらやめるから、あと1本」
その翌日。
同じことを繰り返す。
 
「本当にやめよう」
そう何度も思ったが、やめられなかった。
自分の意思ではどうにもならなかった。
飲酒を止めることができなかった。
アル中になると思っても、やめられなかった。
 
体重がプラス30キロになった日。
妻が私をドライブに誘った。
私が運転席に乗ろうとしたら、妻が制した。
「今日は私が運転するから」
そう言って、運転席に座り込んだ。
私は助手席に座り、妻に聞いた。
「どこに行くの」
妻は答えず、アクセルを踏んだ。
 
妻が運転を始めて2時間が経過した。
私は行く先を聞いても、妻は答えない。
さらに2時間が経過した。
妻が車をとめた。
景色のいい場所でもなければ、カフェでもない。
貸し倉庫店だった。
 
妻が歩き出した。
私はその後ろについて歩いた。
妻が倉庫の前で止まった。
「ここ、私が借りている倉庫なの。ちょっと開けてみて」
妻が倉庫を借りていることは一切知らなかった。
私は倉庫のシャッターを一気に押し上げた。
開けた瞬間。
「なんじゃ、こりゃ」
 
倉庫の中には無数のゴミ袋の山。
中身は多数の空き缶。
私が愛飲している銘柄だった。
ゴミ袋は倉庫の天井に届くほど、多数積み上げられていた。
驚く私を見て、妻が言った。
「言ってもやめないから、見てもらおうと思ったの」
妻は、私が飲んだビールの空き缶を捨てず、ここまで運び込んで、倉庫に放り込んでいたらしい。
 
妻が私を手招きした。
「隣の倉庫も開けて見て」
開けると、同じように空ビール缶が詰まったゴミ袋。
そこは、まだ、収納する余地があった。
妻が言った。
「ここはまだスペースがあるから、ゴミ袋は入るけど。ただ、あなたがやめなければ、もう一つ倉庫を借りようと思うの。でも、運び込むのも面倒になってきた。だから、もう何も言わない。好きなだけ飲んで」
そういって、妻は私の前にビール缶を差し出した。
妻が見せる笑顔に、怒気のこもった声。
私は妻に頭を下げて、言った。
「今からビールやめます」
 
私は、妻に財布を預けて、歩いて帰ることにした。
財布を預けたのは、途中で酒を買わないためだ。
歩き始めて1時間。
体が悲鳴をあげ出した。
膝が痛い。
吐いた息がくさい。
流れる汗が臭い。
息が上がる。
やめられない。
財布がないから交通機関を利用できない。
身分証明証を携帯してないから、お金が借りられない。
気分が滅入って諦めそうになると、妻の顔と、あの倉庫の中が目に浮かんだ。
「飲酒、やめると決めたんだ」
そう言い聞かせて、体が痛くても歩き続けた。
 
あの一件から1年が経過した。
禁酒は今も続いている。
仕事で飲酒する機会は避けられない。
もう大丈夫。
酒が目の前にあっても、自然と手を伸ばさなくなった。
 
私は妻に聞いた。
「なぜ、倉庫まで借りて、空き缶を集めていたんだ」
妻はこう答えた。
「やめると考えて言ってもそうしないのなら、あなたは無意識に何か別のことを考えていると思ったの。でも、そんなの、あなたにはわからないでしょうし、私にもわからない。目に見えるものでもないし。なら、それを少しでも形にして目に見えるものにしたら、ちょっとは考えて、控えてくれると思ったの」
 
無意識。
その存在を感じ、意識もしなければ、目にも見えないもの。
それを形にして、見せて、行動をおこさせる。
 
私は妻の聡明さに頭が上がらない。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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