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ウルル登頂 最初で最後の挑戦!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久米 靖(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
東京からオーストラリア・シドニーまで約10時間。シドニーでフライトを乗り継ぎ、さらに3時間半。
翼は徐々に高度を下げ始めた。
眼下には見渡す限りの赤茶けた荒野が広がっている。そしてそこに威容を放ってそびえている巨大な一枚岩。
エアーズロックだ! ついに来たのだ!!
 
ボクは旅行会社の法人旅行部門に勤めている。
ある法人から「オーストラリア旅行の企画を立てて欲しい」という依頼があった。
旅行の時期は、2019年2月。南半球は季節が逆なので、現地は真夏だ。
 
シドニー、ゴールドコーストなどを含めた何本かのツアーを作り始めた時、ある事実がボクの心をくすぐった。
「地球のへそ」とも言われる巨大な一枚岩、【世界遺産】エアーズロック。その岩への登山が、2019年10月をもって永久に禁止になることが決まっていたのだ。
 
エアーズロックは先住民・アボリジニの言葉では「ウルル」と呼ばれている。ウルル一帯が彼らの「聖地」であることに配慮しての決定だった。
ツアーの実施は2月。その8カ月後にはもう登れなくなる……。
「提案してみよう」という気持ちが沸々と湧いてきて、抑えることができなくなっていた。
 
だが、実際にツアーを組み立てていくと、様々な困難とリスクがあることが分かった。
 
第1に、フライトの問題だ。
エアーズロックへは直行便がない。広大なオーストラリア大陸のほぼ中心になるため、上述のようにとんでもなく長いフライトになる。
 
第2に、気温の問題。
真夏のエアーズロックでは最高気温が40℃にもなる。焼け付くような日射しと高い気温のため、多くの登山客が熱中症にかかるのだ。
 
第3に、(これが最大の問題なのだが)登山できる確率が極めて低いこと。
ただそこに行けば簡単に登れるわけではなく、様々な条件が整って初めて登れるのだ。その条件とは、以下の通りである。
・天気予報での気温が36℃未満であること。
・風速が、秒速13メートル以下であること。
・雲が頂上より下に降りてきていないこと。
・3時間以内に雨が降らない予報であること。
・先住民より文化的な理由による禁止の要請がないこと。
 
2月は風の強い月であり、気温も40℃を超えるため、登れる確率はなんとたったの17%!!
オーストラリアの手配業者に聞いても、「まあ、2月は無理でしょうね」という回答である。
心が折れそうになったが、それでも出すだけ出してみようと思い、行程を練った。
 
プレゼンで複数のコースを提案したが、「エアーズロック」については上記の3つのリスクを十分に説明した。
 
翌日、法人の幹事会の方から連絡があった。
「全員一致でエアーズロックのプランに決まったよ!」
「え、あ、でも……、ご説明したように登れない確率の方がはるかに高いんですよ……」
「うん、それでもいいの。なかなか行けるところじゃないからね。登れなくても、みんなエアーズロックを近くで見たいんだよ」
「あ……」
大きな希望に包まれた瞬間だった。
 
それから数ヶ月の準備期間を経て、ボクは添乗員として20数名のお客様とともに、この地にやってきたのだ。
ツアーの後半は他の都市を回るため、エアーズロックの滞在はわずか2泊。つまり、登頂のチャンスは1回しかない。
 
現地で出迎えてくれたガイドさんに聞くと、昨日も一昨日も登れなかったそうだ。
「多分、明日もまず無理だと思いますよ。ウルルのふもとを巡るツアーにご案内しますね」
急速に気持ちが萎えていく。
 
到着の翌日。いよいよ登山の日。
朝7時前。一縷の望みをかけて、バスでエアーズロックの登山口へ向かった。行ってみないとわからないのだ。
仮に条件が整っても、登山口が開くのは7時~8時の間だけ。8時以降に登り始めると、下山が昼近くになり、熱中症のリスクが高まるからだ。
 
登山口が近づいた時、バスの車内に誰かの大きな声が響いた。
「ああっ! 人が登っている!!」
(まじかっ!?……)
車窓から見える岩の尾根に、確かに人影が見える! 車内は大きなどよめきに包まれた。
 
いよいよ登山を開始!
最初からいきなり這って登るほどの急坂が、100メートル以上続く。
 
そして次には、約500メートルに及ぶさらなる急坂が待っている。斜度は30度~40度。直角に近いのではないかと思うほどの傾斜だ。ここを鎖を伝ってゆっくりと登る。
左右両方が谷へ落ち込んでいる細い尾根で、手を離せば滑落しそうだ。実際にエアーズロックの登山では、これまでに37名の死者が出ている。
 
ボクが先導する形で、両手で鎖をしっかりつかみ、一歩ずつ慎重に慎重に足をふみしめて登った。お客様もすぐ後から数珠繋ぎになっている。鎖を揺らすとその振動がそのまま前後に伝わってしまうため、なるべく揺らさないよう気をつける。
 
幸いなことに、太陽はまだ山の反対側にあって、登っている箇所は日陰だった。
景色を見る余裕もなく、約30分ひたすら登り続けたところで鎖が途切れ、平になっている展望台のようなところへ到達した。
 
その時、山の反対側から登ってきた太陽が赤茶けた大地を照らし始めた。
そこには、これまでの苦労や不安がいっぺんに吹き飛ぶような素晴らしい眺望が広がっていた!
 
まるで大地に突き刺さっているかのような、赤く光る岩肌。
何一つさえぎるものがない、紺碧の青空。
そして、赤茶けた大地と青空の間には延々と続く地平線……。
果たして、これまでに地平線を見たことがあっただろうか……?
 
ここまで一緒に登ってこられたお客様も同じ気持ちだったに違いない。
「ここまで来られたのねえ~、夢みたい……」
女性の方の言葉にみな頷き、しばし景色を眺めることのみに没頭していた。
 
だが、頂上はまだ先だ。
エアーズロックは、頂上までは往復約2時間の行程。ここは中間地点に過ぎなかった。
お客様の大半はここまでで満足されたようで、そのまま下山され、残った数名の方とボクとで頂上を目指すことになった。
 
そこから頂上までは、道筋を示す白い点線が引かれている。これまでのような急坂はなくなった替わり、頂上までは大きな岩のうねりをいくつもいくつも乗り越えなければならなかった。
 
時にはお互いに手を携え、時には高低差をジャンプで乗り越えるのを助け合いながら、ひたすら登り続ける。
すでに高く昇った太陽が容赦なく照り付け、岩に手をつくと火傷しそうに熱くなっている。
2リットル用意した水は、すでに半分以上を飲んでいた。
 
岩と岩の間から時折見える地平線を心の糧にして、何十個目かの大きな岩のうねりを越えたとき、ついに見えたのだ。頂上の印が!
それは頂上に建てられた記念碑だった。
 
その場所から見えた景色は、一生忘れられないものとなった!
360度の広大な大地! そして360度の地平線!!
一緒に登頂したお客様とも文字通り手を取り合って、喜びを分かち合った!
 
「久米さんのおかげですよ! ありがとう!」
お客様の言葉が身に染みた。
 
冷めやらぬ興奮と、一生忘れ得ない景色の記憶とともに、ゆっくりと下山を始めた。
その日の登山客の中では、ボクたちが一番最後に山を下りたようだった。
ボクたちが通りすぎた後で、警備隊員が登山口の扉を閉じ、鍵をかけた。
 
振り返って眺めた巨大な岩は、元の静かで厳かなたたずまいを取り戻していた。
ボクは心でそっとつぶやいた。
「ありがとう、ウルル……」
 
 
 
 
***
 
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2021-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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