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値付けの奥深い世界

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:みつしまひかる(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
きっかけは、何でもないことだった。
 
引っ越し先に、ちょっとオシャレなパン屋があった。
入ってみると、食パン1つとってもいろんな種類があり、壁には各材料についての産地が示されている。酵母の種類までいくつかあるのだから驚きだった。
そして値段も少々驚きだった。僕がイメージする1.5倍~2倍の値段が書いてあったからだ。
 
僕はクロワッサンが好きで、よく新しいパン屋を見つけては、中を見て、クロワッサンで品定めする。
買う価値がありそうか。
生地層は見た目パリッとしているか、エッジが立っているか。
経験上、見た目で満足しないと、食べてみてもおいしくない。
だから真剣に観察して、期待できそうとなれば、買ってみるのだ。
少しばかりひるんでしまうような、そんな値段であっても。
 
ここでふと立ち止まる。
値段ってどうやって決めているんだろうか?
 
経済学の超基本で言うと、需要と供給のバランスで値段が決まるという。
でも、本当にそれだけだろうか?
 
もちろん、値下げをしたら需要が上がり、値上げをしたら需要が下がるというのは非常に納得しやすい。
僕がじゃがりこが好きだからと言って、今の値段から1,000円に値上げされたら買わない、てか買えない。
秋元康氏はそれでも買うそうだ。
こう思い浮かべてみると、需要-供給のバランスで値段が決まるというのは、このケースでは当てはまる。
 
では一方で、同じ大きさのクロワッサンでも、A店は120円、B店は250円と違う場合はどうか。
需要-供給のバランスだけでは、少し納得しがたい。
そう、値段には、材料費だけでなく、場所を含めた店舗費、人件費、利益、消費税なども加算される。
製造原価はもちろん、販売にかかる費用、そして利益をちゃんと確保しなければ、商売どころか生きていくこともままならない。
つまり、原価算定方式という考え方もまた、重要だ。
 
じゃがりこについて、原価が結構安いと仮定してみよう。
この仮説が正しい場合、原価のわりに値段が高いということになる。しかしそれでも人気が高いのは、他に似た商品がなく、じゃがりこでしかそれに対する需要を満たせないのかもしれないのだ。
あのカリカリっとした食感を生み出すための製法が難しく、他社では再現できないのかもしれない。
 
こう考えてくると、需要-供給の原則に立つ場合は、いわゆる「価値」という言葉となじみが良さそうだ。
満足感と言い換えてもよい。
それを手に入れることで得られる満足に釣り合う代金を渡す。
 
一方で、冒頭に触れたオシャレなパン屋で言うと、原価算定方式のように感じられる。
材料にも並みならぬこだわりが宿っていることが窺い知れるからだ。
 
したがって、「価値」と「原価」の2つの観点のうち、望ましくは両方、少なくとも片方に満足/納得できれば、代金を渡して商品を受け取ることになるだろう。
 
最近、マーケティングの講座を受講していて値付けが気になっている。
僕は一会社員であり、自身でビジネスをしているだけではないのだけれど、ますます不透明・不確実になっていく世界を目の当たりにしていると、自ら稼ぐスキルがないと生きていくのも危ういんじゃないかという危機感が年を追うごとに高まっているからだ。
安くしすぎても高くし過ぎても持続可能性が得られないというジレンマがあり、どこに適切な価格帯があるのかは試行錯誤して見出すほかはないだろう。
 
「価値」と「原価」の2つは、僕が働く製薬業界では基本的な観点だ。
アメリカでは、医薬品の価格「薬価」は製薬企業が自由に決められる。一方で、日本では公定薬価制度といって、政府が薬価を決めるのだ。
その決め方を簡単に説明しよう。
 
薬は、効果があり、なおかつその効果が発揮される仕組みがわかっているからこそ薬足りえる。
新しい薬の薬価が決められる際には、過去に類似薬があるか、つまり同じ仕組みで効果を発する薬があるかないかでまず仕分けされる。類似薬があれば、その1日分の薬価が参考にされる。さらに、新薬が優れたものであれば、上乗せされた薬価(=補正加算)がつくことになる。
そう、「価値」だ。
少し逸れるが、新薬の対象となる患者数が少ない場合(日本国内で5万人以下)もまた、補正加算として薬価に上乗せされる。薬の開発には多大なお金がかかる。対象患者が少なければ製薬企業はビジネスにならないと判断し、その開発を行わないかもしれない。そういった状況を防ぐ配慮だ。
 
一方で、類似薬が過去になければ、参照する薬価もないことになり、この場合は製造原価が基準として用いられる。材料費だけではなく、それまでの研究費や労務費も原価に計上されるのだ。
 
近年、医療費の高騰がしばしばメディアで取り上げられている。
その一例ががん治療薬の「キムリア」だ。
薬というと、飲み薬や塗り薬、あるいは貼り薬などを思い浮かべるかもしれないが、これは静脈に投与する薬で、その主要成分はなんと細胞だ。それも、患者から免疫細胞を取り出し、改変して、がん細胞と戦わせる新しいタイプの薬である。
スイスの大手製薬会社ノバルティスが開発し、2019年5月、日本でも公的医療保険の適用が開始された。
その薬価はなんと1回あたり3349万3407円である。医療保険適用の薬としては、過去最高額だ。
 
がん治療としては、手術、化学療法(抗がん剤)、放射線治療が長年用いられてきて、近年「がん免疫療法」がそれに加わった。「キムリア」もここに分類される。
 
「キムリア」をつくる流れを簡単に説明しよう。
患者から血液を採取し、血液中にある、免疫細胞の一種であるT細胞を集める。
集めたT細胞に対して、無毒化したウイルスを使って遺伝子を導入する。導入した遺伝子には改変したたんぱく質(=キメラ抗原受容体=CAR)の設計図が入っており、T細胞はCARを作り、CARの一端は細胞表面に提示、もう一端は細胞内部に提示したCAR-T細胞となる。このCAR-T細胞を培養して増やし、品質検査を経ると「キムリア」となる。
このCARの表面に提示した側は、がん細胞の表面に提示されたタンパク質(=抗原)に結合する抗体であり、内部に向けられた側はCAR-Tを活性化させ、結合したがん細胞を攻撃させる役割を担う。
つまり、患者本人の細胞を集め、兵士に育て、体内に戻し、がん細胞を狙い撃ちにするという画期的なタイプだ。
この製造工程の複雑さは、従来の薬のそれとは比較にならない。何しろ患者ごとに調製する必要があり、かつ細胞という”生き物”を扱うので管理も厳格であり、なおかつT細胞の強さは各個人でも異なるため、強さについても調整するという管理が必要になる。
さらには患者が治療を受ける医療機関と「キムリア」製造施設との間でT細胞の空輸も入るのだ。
 
これらの観点が各項目に盛り込まれ、3349万円もの薬価が設定された(1000円単位は四捨五入)。
①製品総原価(原材料費、労務費、研究開発費など)・・・2363万円
②営業利益・・・414万円
③流通経費・・・68万円
④消費税・・・229万円
⑤補正加算・・・277万円 ((①+②+③+④)×45%×0.2)
なお、⑤補正予算には、①製品総原価の開示度に応じた加算係数0.2が乗じられている。この開示度とは製品総原価のうち、薬価算定組織で開示が可能な部分の割合であり、これが50%未満である本薬剤では0.2が適用されている。
したがって、原価算定式ではあるものの、ブラックボックスになっている部分が大きいのは少々残念である。なお、これが開示度80%以上であれば代わりに1.0が乗じられ、薬価は約4400万円になる。
 
さて、ノバルティスは、キムリアを投与する患者数を2つの疾患を合わせて年間で最大200人超と推定している。薬価算定時に示した試算では、ピーク時の国内対象患者数は216人、売上高は72億円との予想だったようだ。上記の薬価算定ではこの患者数の少なさにも応じて加算された。
 
ただあくまで、「原価」を元に計算された流れではあるけれど、個人的には、「価値」も同時に含まれているように感じる。
「キムリア」は2種類の血液がんの治療で承認された。
「CD19陽性B細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)」および「CD19陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」で、それぞれ日本国内の患者数は約5000人と約2万1000人と言われており、とても少ない。
これまで化学療法や放射線治療が使われてきて、効果が得られるケースもあるが、数割のケースで再発する。その場合、患者負担が大きく、また合併症で命を落とすリスクのある骨髄移植が行われる。骨髄移植すら効かない場合、生存期間が1年を切るようだ。
このような治療手段がなくなった患者が「キムリア」の対象である。
 
では効果はどうかというと、B-ALLでは8割、DCBCLでは5割超の患者においてがん細胞が消失するとのこと。また、このような効果が得られた場合、生存期間は1年以上に達するようだ。また、どうも患者は子どもであるらしい。
 
なお、保険適用となると、当然ながら税金から支払われることになる。一般的な薬であれば、患者数が非常に多いため、薬価がキムリアに比べてずっと低くても、患者数×薬価としてみた計算額はキムリアに近くなることもあるようなので、単純にキムリアを批判するのも少し違うかもしれない。
また、製造工程が複雑であるため、劇的な薬価値下げは望めないかもしれないが、段階的に下がっていくだろう。例えば、同じくがん免疫薬である「オプジーボ」は、2014年に保険適用された際、100ミリグラム約73万円、年間約3500万円(患者一人当たり)という薬価がついた。が、その後、段階的に値下げされており、今では100ミリグラム約15万5千円、当初の2割近い値段までになった。
 
また、サービスについても、「価値」と「原価」の考えが当てはまりそうだ。
僕は大学生になったあたりから、首こり、肩こり、腰痛に悩まされるようになった。
世の中を見渡せば、整骨院(柔道整復師)、整体院、エステ、カイロプラクティックなどがあり、昔からお世話になってきた。ここで整骨院であれば、保険適用であるのでかなり安上がりになる。
ただ、今までの経験では、保険がきかないカイロプラクティックなどのほうが高い効果が得られており、結果として僕は値段が安くて効果もそこそこの前者ではなく、値段が高くて効果も高い後者に行くようになった。
 
このように、モノでもサービスでも、「価値」と「原価」の観点で満足/納得させることができることが取引において望ましいと思われる。
 
さて、こんなことを考えて、先ほど買ったクロワッサンを頬張ってみると、期待通り、バターが香ばしく軽やかな風味で、歯を立てるとサクッと乾いた音がして舌には甘みが広がった。
ビンゴ。
買うときにはひるんだものだけれど、その値段に見合うものだった。
クロワッサンがおいしいパン屋は、他のパンもおいしい(あくまで個人の経験です)。
値段が少々高かろうと、きっと満足させてくれる。
 
やはり「価値」、つまりは満足度って大事だなーというのが結論である。
 
 
 
 
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2021-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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