キャンプ嫌いが日帰りキャンプに連れて行かれたら
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:張川裕稀(ライティング・ゼミ10月コース)
「今週末キャンプに行かない?」
そう声をかけてきたのは同棲している彼氏だ。
正直キャンプはあんまり興味がない。というよりむしろあんまり好きじゃない。
だって火起こしは面倒くさいし、ゴミはたくさん出るし、虫はうじゃうじゃいるし、服は汚れるし、寒かったり暑かったりして居心地が悪すぎるからだ。小学生の時の野外実習なんて、ボーイスカウト出身のヤツに顎で使われて最悪な思い出しかなかった。
ただ、今週末は大した予定もなかったので「う〜ん」と否定も肯定もしない返事をしておいた。
彼は「よし! じゃあ決まりね!」と言って満面の笑みになった。彼はこの返事を肯定ととったようだ。仕方ない。連れてかれてやろう。
キャンプ当日、彼は両手を広げたくらいの大きさのアクリルボックスを2つ抱えて、車に積み込んでいた。「中に何が入ってるの?」と聞くと、「キャンプ道具が入ってるんだ」と返ってきた。一緒に住んでいるのに、こんなにキャンプ道具を買い込んでいると思わなかった。というか彼だって元々キャンプなんか興味なかったはずだ。一体どんな風の吹き回しなんだろうか。
車でキャンプ場まで2時間ほどかかるらしい。途中で今日のキャンプ飯の材料を買うことにした。スーパーの食材売り場で彼は「豚汁の具材」と書いてあるパウチを買い物かごに入れている。それから、味噌やら豚肉やらおやつを買い込んで、早速キャンプ場へ出発した。
助手席から見える景色は、住宅街からだんだんと畑や田んぼばかりの道になっていき、最後は山道になっていった。まだ紅葉までは時間がかかるが、山の尾根に生える木々たちは、少しずつ葉を黄色や赤色に染め始めていた。午前中の活き活きとした太陽の光に照らされて、木々の彩りはより一層美しく感じられた。
キャンプ場に到着し、指定された場所に荷物を持っていくと、そこには誰もいなかった。なぜなら彼も有給休暇をとって、平日の金曜日に来たからだ。家族連れもいなければ、カップルや友達の集まりもいなかった。本当に私と彼の2人だけだった。辺りはシーンとしている。キャンプ場は貸切だった。
でも、すぐ隣には小さな川が流れていて、川のせせらぎが良いBGMになってくれた。周りには木がまばらに生えている。上を見上げれば、雲ひとつない真っ青な空に、黄色くなり始めた木々が負けじと重なっている。風が強く吹くと、葉がそれに応えるようにしてひらひらと舞い降りてきた。この大自然も貸切だと思えば、逆に運が良かった。
早速椅子とテーブルを組み立てた。お、なんかキャンプらしくなってきたぞ。すでに12時近かったので、すぐに豚汁作りに取り掛かった。
彼はアクリルボックスからキャンプ用カセットコンロを取り出した。なんと。あの忌々しい火起こしをしなくても良いのか! それから取手が折りたたみ式になっている鍋を取り出した。コンパクトでそんなものが入っていることに気づかなかった。その鍋をカセットコンロの上に置いて早速豚汁の具材を炒め始めた。
キャンプといえばもっと面倒くさくて、手間がかかることをやってナンボだと思っていた。でも、今はキャンプ専門店に行けば、こういう便利グッズがたくさんあるらしい。
豚汁はあっという間に出来上がった。それから彼はカバンからラップに包まれた何かを取り出した。鮭フレークとネギの混ぜご飯で作ったおにぎりだった。私と彼は豚汁とおにぎりを無心で食べる。豚汁の味は少しだけ薄かったかもしれない。でも、大自然を感じながら味わう豚汁は、今まで食べたどの豚汁よりも美味しかった。正直、少しだけ肌寒かったけれど、豚汁のおかげで体が温まった。自分たちで作った豚汁を外で食べるという体験に心までほっこりした。
それから、彼がこっそり家で握ってくれたおにぎりも美味しかった。鮭とネギという具材が豚汁と相性が良くて、あっという間におにぎりを食べてしまった。豚汁は2杯も飲んでしまった。
「こういうところで料理すると、ハエとか虫がたくさん寄ってくるんだけど、今はもう大分寒くなったから虫が全然来ないね」と彼が言った。キャンプといえば夏のイメージだったけれど、夏にキャンプをしてしまうと、虫が大量にたかってくる。「キャンプは秋とか冬にやるのが一番いいんだよ」と彼が言う。ふむ。また一つ勉強になってしまった。
よく耳を澄ますと、聞いたことのない鳥の声が聞こえる。いや、鳥じゃないかもしれない。川のサラサラとした音を聞きながら、目を瞑って思いっきり呼吸をすると、澄み切った空気が肺にいっぱい入ってくる。いつも小さな家で吸っている空気とは全く違う味がする。次に息を吐くと、今まで体の中に溜まっていたうっぷんが全部出ていったような気がする。
あれ? キャンプ、いいじゃん。
深呼吸をしていると、急にほろ苦い芳醇な香りが鼻をくすぐった。ハッとして香りのする方向を向くと、彼がコーヒーを淹れてくれていた。私は走って香りの元に向かって飛びついた。それから、おやつで買ったチョコを食べながらコーヒーを啜った。コーヒーを飲みながら、ボーッと大自然に体を委ねる。
普段、アスファルトの上ばかりを歩いて、小さなスマホやパソコンの画面ばかりを見て過ごしていた。身の回りの人間関係に愚痴をこぼし、仕事に悩み、SNSの中の流行や話題に着いていこうと必死だった。
でも、ここにはそのどれもない。
今、大自然に囲まれながらぼーっとする。何も考えない。いや、何も考えられないのだ。いつもはグルグル巡らす思考も今日はおやすみだ。時間がいつもよりもゆっくり、ゆっくりと流れる。子供の頃は未熟で分からなかったけれど、大人になった今、大自然の中でゆっくりと流れる時間は贅沢な幸せだと思った。
帰りの車の中、一日中外にいたはずなのに頭がスッキリして、いつもより深く呼吸ができている気がする。「実は俺、先週実家の家族と日帰りキャンプに行ってきたんだよね。それがあまりにも楽しくて、すぐキャンプ用品揃えちゃったんだ」と彼が言う。そういえば先週彼は家にいなかったような気がする。なるほど、急にハマったのはそういうことだったのか。でも、ハマっちゃった気持ちも今ならよく分かる。
「今日は誘ってくれてありがとう。キャンプ、すごく楽しかった。真冬になる前にまた行きたいからさ、来週またキャンプしない?」
彼は「ハァー!?」と言いつつも満足そうに笑っていた。
***
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