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メディアグランプリ

ある平凡なヤドカリの話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:miwa(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
そうだ! 引っ越しをしよう!
 
姉と住むのを条件に、東京の学校へと送り出してもらえたものの、ずっとずっと、関西にも関西人にも恋い焦がれていた。
 
東京の静かな電車内で、ひときわ目立つイントネーションの会話。
周りは眉をしかめていても、私だけは耳をそばだて、「そうそうそう!」と見ず知らずの会話に入って行きそうな勢い。
 
あの、人懐っこい親しみやすさや、冗談やツッコミを折り混ぜて、なんでもないようにさらっと返す根っからのサービス精神。
私には、虜にならない理由がなかった。
 
学生時代からなんだかんだと理由をつけては、芦屋に住む同郷の親友を訪ねて泊めてもらい、関西を全身で浴びてエネルギー満タンにして、 また東京に戻っていた。
 
けれど、それじゃもう全然充電が足りなくなってきて、赤ランプが点滅し始めたのを合図に、その親友一人だけを頼って、自転車で会える距離に単身で越してきた。
 
初めは、右も左も、地理感さえもわからず手探りで、恋い焦がれたあらゆる関西人に手を借りながら生活の基盤を作ってゆき、紆余曲折ありながらも、13年何とかやってこれたお気に入りの部屋を、今回引っ越すことに決めた。
 
理由は、犬や猫の”預かりボランティア”をする夢が日に日に増してゆき、それはペット飼育可の物件でなければ実現できないからだ。
 
飼育委員に立候補するほど動物好きだけれど、一人暮らしでフルタイム勤務の自分には、自身の将来さえわからないのに、軽い気持ちで命の責任は取れない自覚だけはしっかり持ち合わせていたので、休日を利用しては電車に乗り、保護施設での犬の散歩や猫と遊ぶボランティア、掃除や身のまわりのお世話を何年にも渡って数ヶ所で続け、目の保養と触れ合いたい欲を満たしていた。
 
だが、もう一歩進んだお手伝いがしたい!
そう思い立ったら猪突猛進、じっとはしていられない。
実家で飼ったことのある犬猫同様、イノシシも四つ足だ。
お世話する未来は描けないけれど、動物はおしなべて尊い。
 
賃貸物件が入れ替わりだす秋口からネットを徘徊し、気になった部屋を問い合わせて、実際に不動産屋へ出向く。
 
内覧のために訪問日を予約したにも関わらず、当日、その3部屋とももうありませんと言われて、全く別の物件を紹介されたこともあるし、見たい物件はコレ! と決まっていても、どの不動産屋でもまず渡される記入用紙に、現在の住所、氏名、電話番号、職業などの基本情報を、ペンを動かしてツラツラ書き込んでゆく。
 
そこから先の自筆文字数はぐんと減り、転居時期、家賃上限~下限(管理費・共益費込又は別)、エリア(立地環境)、間取り、築年数、方角(向き)、駅からの徒歩分数、階建(何階建の何階)、ユニットバス又はセパレート、エレベーターの有無、オートロックの有無などの希望項目は、一見びっしりあるように感じるが、チェックボックスがあるのでサクサク進められる。
 
家賃は、毎月の固定支出にあたるので、湯水のごとく使える人は別として、一般的に第1優先になると思うが、次の優先順位を、外的要因の《エリア(駅近)》を持ってくるか、内的要因の〈間取り(面積)〉を持ってくるかで、探しかたはかなり異なってくる。
 
駅から遠くなればその分、間取りは広くなる利点はあるが、駅から近い方を優先すれば、必然的に間取りは狭くなる。
フルタイムの一人暮らしであれば、ここは一番悩むポイントではないかなぁと思う。
 
いくつもの不動産屋で、先ほどの記入項目欄を埋め、担当者が家賃相場やエリアなどの説明をしてくれた上で、大体同じ質問を投げかけられ、それに同じ回答を繰り返しているうちに、ここは譲ってもいいかもな、ここは自分のキーポイントだなと、希望的観測もジワジワ現実味を帯びてきて、的が絞れてゆく。
 
が! 残念!!
 
ここまでのユラユラ優雅な遊びは、ペット飼育可物件を探していない人のものだ。
 
実際、どこに出向いても、紹介できる物件が少なくて申し訳なさそうに対応してくれて、ある不動産屋が教えてくれたのは、飼育の種類が犬の場合は物件全体の2割、猫になるとさらに減って1割になり、その理由として、猫は壁などを引っ掻くイメージが先行するため、大家さんはそれを恐れているそうだ。
 
犬と猫、どちらの”預かりボランティア”をするかは決めていなかったが、改めてこんなに少ないのか、、、と絶望的になってしまい、詳細に希望を書けば書くほど、自分の首を絞めているのだとも理解した。
 
けれど、次の部屋も、今の部屋のように愛おしみながら、丁寧に、できるだけ長く住みたい!
 
不動産屋相手に何度も何度も自分の理想を声に出し、そんなのないですよと顔に書かれながらも諦めずに希望を言い続けた結果、言霊の力だと思える完璧すぎる部屋が見つかったのは春先で、その奇跡(もはや執念)に不動産屋も「この家賃でこの条件の部屋……あるんですね!」と驚いていた。
よって、実に半年もの時間をかけて探していたことになる。
 
その部屋に入った瞬間、ここに冷蔵庫を置いて、ここでテレビを見ながらくつろいで~と、もう一人の動いてる自分が残像となってヒューッと現れ、そこで何年も暮らしているかのような姿が容易に想像できた。
 
スピリチュアルな感度はないが、窓から差し込む光や抜けていく風が、「ウェルカム!」 と嬉しそうに歓迎してくれているようにも感じられた。
 
翌週に引っ越しが決まり、鍵を借りて「これからよろしくお願いします」と入口で声をかける。部屋も私も、まだよそよそしい。
 
ちょうど春のお祭りの準備で、方々から太鼓の練習の音や元気な掛け声、当日を楽しみにしている子供たちの笑い声を聞きながら、この地域ではそんな行事も待っているのかぁと、まだ見ぬ暮らしにウキウキし、拭き掃除の手は鼻歌交じりでリズムを刻み、気づいたら予定よりもずっと早く終わっていた。
 
引っ越し当日、あれもこれも、私のまるっと全てを受け止めてくれた部屋、その中でも一番よく居た場所から全体を眺める。
 
拭き掃除と荷造りが済んで、引っ越し業者を待っている部屋はシンと静まり返り、あぁそうだここを離れるのだとやっと実感が湧き、私もあらたまって正座する。
 
これまでの感謝の気持ちを部屋全体に向けて語りかけていたら、泣きそうになった。
いや、嘘をついた。正直、ちょっと泣いた。
 
どの部屋も、角度を変えて写真におさめてから1つひとつ扉を閉め、最後に深々と一礼して玄関の扉を閉めた。
次にこの扉を開ける人は、どんな人だろう。
 
新しい部屋へ引っ越す機会が訪れるとしたら、あなたは、どんな部屋に住みたいですか?
 
思い描いた時は架空であっても、その”想い”は叶うと、私は本気で信じている。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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