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新米PTA会長が入学式で本気の挨拶をしたら、本気の「いいね」を返された件について


*この記事は、「実践ライティング特別講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

「実践ライティング特別講座」文章を書く前にするべき7つのこと

記事:タマひろし(実践ライティング特別講座)
 
 
「……本日は誠におめでとうございます」
 
令和3年4月9日、私は娘たちが通う中学校の入学式で、PTA会長として挨拶をした。
 
 
私が、この中学校のPTA役員になったのは令和元年の4月のことだった。
長女が入学した際に、当時のPTA会長から誘われたのだった。
 
PTA。みなさんはPTAに対してどのようなイメージがあるだろうか。
一部の保護者たちのエゴ。委員会を押し付け合うイメージ。関わりたくないもの。
それぞれのイメージがあると思う。どちらかというとポジティブなイメージよりも、ネガティブなイメージがあるかもしれない。よくわからないという方も多いのではないだろうか。
私もそうだった。保護者達による組織ということはわかっていたが、PTAがどのような組織であるのか、何をするのか、どんな役割を果たしているのか、よくわかっていなかった。
 
仕事も、仕事以外も忙しかったため、PTA役員になっても、みんなの「手伝い」がどこまでできるかわからないと思った。しかし、会長から「できることをやってくれたらそれでいいから」という言葉に後を押されて、入ってみることにした。初年度は、何人もいる副会長のひとりを任せられた。
 
いざ入ってみると、PTA活動は実に楽しかった。なんだろう、例えて言うならば、大人の部活のような感覚だった。役員の方々はとても気持ちのいい方が多かった。子どもたちのために、地域のために、学校や先生のために。そして何より自分たちのためにという、無理のない自然な姿勢が見られた。PTA初心者の私も、数ヶ月すると、温かなPTA役員会にすっかりと馴染んでしまった。これなら今後も続けていこうと思った。
 
年末を前に、PTA会長に呼び出された。体育館の裏に呼び出されるなんて、高校生の時以来だった。呼び出された場所に向かうと会長がいた。その隣に母の会会長もいた。なんだろうかと訊ねると、次年度のPTA会長になってほしいという打診であった。自分にはとても務まらないと断ったが、普段お世話になっているPTA会長と母の会会長に押し切られる形で、とうとう引き受けることになってしまった。自信はなかったが、お世話になった分は頑張らないといけないと思った。
 
その後、コロナが広まった。学校は休校となり、PTA活動も全て中止された。卒業式はなんとか行われたが、あんなにも活躍されたPTA会長の出席は感染防止の観点から許可されず、挨拶は書面のみのものとなった。令和2年度が始まったが、コロナの感染が広がったことから入学式すら行われず、休校が続いた。
 
このような中、令和2年4月に書面で開催されたPTA総会で、私はPTA会長として承認された。書面決議では反対されるはずもなく、私は静かにPTA会長となったのだった。
本来ならば、保護者の前で行うはずだった挨拶はなかった。もちろん承認の拍手を受けることもなかった。
 
あれだけ覚悟を決めてPTA会長となったのだが、PTAの活動はなかなか行えなかった。朝のあいさつ運動、地域のスポーツイベントなど、コミュニケーションをとる機会は感染防止の観点からいずれも中止せざるを得なかった。
運動会や文化祭などのイベントは、形を変えての開催となった。保護者の参加どころか、保護者には入校すら許可されず、私達に出番はなかった。夏を過ぎた頃から、LINEやZoomでのオンライン役員会をするようになった。グループLINEよりは、いくぶん情報を伝えやすくなったが、お互いすぐには慣れず、話し合いにくさがあった。冬頃には、役員の間でも関係がギスギスしていたようにも感じた。それでもオンライン飲み会を開いたり、感染が落ち着いた合間にリアルな役員会を挟んだりしたことで、どうにか年度末には、よい関係が取り戻せてきていた。
その一年間で、私たちができた活動は、例年に比べたらあまりにささやかだった。それでも、私達は卒業生の記念品をみんなで選んだ。来年の役員を誘い、役員案を作成した。なかなか先が見えず、またコミュニケーションが取れない中であったが、懸命にもがいてきたのだ。
 
そして迎えた令和2年度の3月。私はPTA会長として卒業式に招かれた。例年であれば招かれたはずの地域の方々の姿はそこになく、私はたったひとりの来賓として席に座った。感染対策の観点から、私が挨拶をすることは叶わなかった。校長からの紹介で生徒の前で一礼をした。マスク越しに一生懸命、大きな笑顔を作って彼らの卒業を見守った。
 
そして、4月となった。令和3年度が始まった。新年度が始まって間もなく、学校から電話があった。コロナの感染はまだ予断を許さない状況に合ったが、入学式では感染対策を前提に短い挨拶をすることが許された。
式典でのPTA会長としての挨拶……ふと気がついた。運動会は無かった。卒業式でも挨拶は無かった。新米PTA会長である私にとって、これが生徒や保護者に向けての初めての挨拶の機会なのだった。
何を伝えようかと考えているうちに、この一年間を思い出していた。難しい状況にあっても、なにかできることはないかと知恵を絞りあった仲間がいたこと。できないことがたくさんあっても、少しでも生徒たちに楽しい学生生活を送らせようと工夫をこらしてくださった先生方。大変なはずの状況なのに、できることをめいっぱい楽しむたくましい子どもたち。
 
自分なりに一生懸命に考えて、文章を練った。少しでも伝わればいいなと思ったが、伝わらなくても仕方ないとも思っていた。式典の挨拶といえば、つまらないものの代名詞だ。伝えたいこと、伝えたい思いはたくさんあったが、「感染防止の観点」から、私の挨拶に与えられた時間はわずか3分間。ウルトラマンのようにヒーローになれるかはわからないが、一生懸命に保護者代表として挨拶をしようと思った。
 
その日は朝から晴れていた。空には真っ青な青空だった。まだ桜も残っていた。新入生がスタートを切るのにふさわしい日だなと思った。
私は約束の時間に学校に向かい、校長と打ち合わせをした。そして、体育館に案内された。
校長の挨拶の後、いよいよPTA会長の挨拶が回ってきた。
私は壇上に上って、新入生とその保護者に向けて言葉を述べた。
 
 
「中学校PTAを代表いたしまして、心からお祝いを申し上げます。
新入生の皆さんは、今日から晴れて、この中学校の一員となりました。
今朝、真新しい制服に袖を通して。中学校の正門をくぐって。
もう小学生ではないんだなと実感したのではないかと思います」
 
視線を上げると、大きめの制服に袖を通して並ぶ新入生の顔が並んでいるのが見えた。
どの顔も真剣にこちらを見ていた。彼らの緊張がひしひしと伝わってきた。
 
 
「中学校生活は、楽しいことや得意なことばかりではないかもしれません。つらいことや大変なことがあるかもしれません。
苦しいことは自分を成長させてくれますが、そのような時には前を向くのが苦しくなります。足元ばかり見てしまうかもしれません。それでも構いません。
とにかく毎日、一歩でいいから前に進みましょう。そうすると、気が付いた時にはとんでもなく遠くまで進んでいるものです。一日一日を大切にしてください」
 
この一年間を思い出しながら。苦しかった時期を思い出しながら、自分自身に語りかけるようにして言葉を続けた。
 
「どうぞこの三年間。中学校での生活を楽しみ、味わってください。私たちも、皆さんが中学校生活を満喫できるよう、私達はかかわっていきます」
 
……緊張する中、笑顔を絶やさずに挨拶を伝えきった。
新入生の表情を見回した後、祝辞をまとめた紙を目の前の机においた。
一礼して席に戻った。
 
伝わったかはわからないが、やりきった思いだった。
 
式典が終わった後、ひとりの保護者がこちらに向かってきた。少し急ぎ足だった。
どうやら私に何か言いたいようだった。何かやらかしたかな……そう思ったが、この場では私はPTA会長だった。せめて堂々としていようと思った。
 
私の目の前まで歩いてくると、その保護者が私の目の前で止まった。
 
「今日の挨拶、とっても良かったです。すごく感激しました。正直、式典の挨拶って、どれも同じようで、今日も期待していなかったんですけど……。今日は最後までしっかりと聞いていました。ありがとうございました」
 
彼女はにこやかにそう言った。
 
嬉しかった。
心の底から嬉しかった。
 
正直、私「も」期待していなかったのだ。
せめて、挨拶を聞いてくれていれば嬉しいと思っていた。
まさか、こんなフィードバックを受けるなんて思ってもいなかった。
だって、誰かがこんなふうに言葉を返すところを見ていなかったから。
言葉を返されないのが当たり前だと思っていたから。
 
 
コロナになってから、私たちは本当に言葉を出さなくなった。
だって、それが正しいと言われていたから。
どうしても伝えないといけないときだけ、必要なときだけ、声を出すようにと言われ続けてきたから。
 
そしてどうなっただろう。
コロナの危険も相まって、我々の言葉は危機を知らせる言葉ばかりになってきている。
一方で、悪くないこと、いや良いことは、わざわざ言葉で伝えないことが多くなっていないだろうか。無言でいることで承認を表すことに、だんだん慣れてきてはいないだろうか。
 
その一方で、自分自身が無言でおかれることに、私たちは慣れているだろうか。周囲が無言なままでいる時に、私たちは見放された気持ちになったり、無視されたという気持ちになったりしないのだろうか。
私は苦しく感じる。ここにギャップがあると感じるのは私だけだろうか。
 
会話をしにくくなった現在、SNSが盛んに行われるようになった。メールとは違って、文字だけではなく、顔文字やイラスト・写真・スタンプなども使えるSNS。記録が残って便利な反面、言外の意味などはやはり伝わりにくい。
そんなコミュニケーションギャップを埋めるために開発されたのが「いいね」ボタンだ。このボタンのおかげで、私達はつい最近までは、SNSでも割合よいコミュニケーションが取れていたのではないかと思う。
 
しかし、このコロナ禍でSNSだらけになってしまった。職場でも社内SNSが導入された。職場では、確認の意味で「いいね」ボタンを使うようにと規則が定められた。既読スルーが社会現象化していたLINEでも「いいね」ボタンが実装された。
あちこちで「いいね」ボタンが押されるようになってしまった。「いいね」ボタンが乱用された結果、すっかり「いいね」の価値が下がってしまったように感じられる。みなさんはどうお感じだろうか。
 
 
今、私は知っている。
本気で「よかったよ」と伝えることが、どんなにその人を勇気づけるか。
 
いいなと思ったら、素敵だなと思ったら。
その気持ちをそのまま。自分なりの言葉で伝えてほしい。
 
その言葉は、目の前の人を幸せな気分にして、また別の人を幸せにするだろう。
その幸せの波紋は、遠くまで広がっていくだろう。
 
胸に広がる感動を、そのまま言葉にしよう。
その言葉こそが、今の私たちにとって、「本当に必要なもの」なのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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