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メディアグランプリ

きっかけはメモの欠片達だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:福田 乃子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「えっ! そんなことまで覚えてくれているの?」
 
患者さんがすごく驚いた様子で言う。嬉しさを含んだ表情をして。
歯科衛生士である私は、患者さんに「歯磨き指導」をしている。
その時に患者さんから、そう言われることがあるのだ。
だがそれは「歯磨き」に関する話ではなく、全く歯科とは関係のない「雑談」の内容の事が多い。
その言葉の後は、患者さんは楽しそうに、私に話しかけてくれる。
 
健康の話。趣味のカメラの話。自分で漬けた梅干しの話。
一人旅での冒険談。ラジコンヨットの話など。
 
人それぞれ違う。世代も違えば、性別も違う。趣味も好みも、何もかも違う。
その全てを事細かに覚えるには、1回話しただけでは無理だ。
そこまで細かく記憶しきれない。
そんな私の手助けをしてくれるのが、「メモ」だった。
 
 
「何事においても、メモを取るのがいいよ」
 
20歳の時に私にそう教えてくれた人がいた。弁護士の先生だった。
亡くなった父のお墓を改葬するかどうかで、親戚と揉めた時に知り合った。
その時はまだ人生経験も浅く、発言機会が少なかった私に、役割を与えるようにそう教えてくれたのだ。
 
「言った、言わないで、人間は必ず揉める。だから状況を把握するためにも、細かくメモを取っておくのがいいよ」
 
揉めている人間達は、発言を繰り返すほどヒートアップしてくる。
何を言ったか、何を言われたかを、はっきりとは覚えていないことが多い。
だから私は「書記」のつもりで、詳細にメモを取るようにした。
そのメモが役立って、結局は裁判にはならずに揉め事は収束したのだった。
 
そこから、私は「メモを取る」という癖を、意識的につけるようにした。
 
 
その後、住んでいた地域で「マンション建設反対運動」が起こる。
大手の不動産会社が高層マンションを建設するというのだ。
だがそのマンションが建設されると、太陽の光が当たらなくなる人達がほとんどだ。
不動産会社が地域説明会を開催するという知らせを受けて、近所の住民達は怒りの形相で会場に集まっていた。
 
当時21歳だった私は、その会場にいる住民達の中で最年少だった。
父が亡くなり、母と兄は仕事に出ていて、当時参加できるのが私だけだった。
とりあえずは参加をして、適当に話を聞いていればいいやと軽く考えていた。
 
だが私は練習と癖づけを兼ねて、細かく「メモを取る」ようにしてみた。
 
すると、説明会が終わった後、まだ興奮冷めやらぬ住民達は、あることに気付く。
「誰か、今のやりとりとか議事録を、メモした人はいないか?」
一番高齢であり、かつ住民反対運動のリーダーである町会長がそう言った。
冷静になってきた時、自分達は発言をすることに夢中になっていて、記録を取り忘れたことに気付いたのだった。
 
私はしっかりメモを取っていたため、内容を把握していた。
だが「最年少のくせに生意気なことを言って……!」と言われるような気がして、手を挙げることをためらった。だが、勇気を出してみた。
 
「あの、私メモを取っていたんですけど……」
 
その言葉で、皆の視線が一気に私に集中する。怖いと感じた。
だが、次の瞬間にはその予想を180度覆す反応が返ってきた。
 
「若いのに偉い! それを文字に起こしてきてくれないかな?」
 
怒られることもない。もちろん年齢も関係なかった。「メモを取る」ことで褒められたのだ。
私はしっかりと記事録を作成し、住民反対運動の書記係として、その運動の最後まで主要メンバーとして活動することとなった。
 
 
それまでは「おはようございます」と挨拶程度しか交わしたことの無い人達だった。
世間話などもすることもない。関わりを持ったことも無い世代の人達だ。
 
だが、この反対運動を通じて、いろいろな世代の人と茶飲み友達になった。
さらにはこの1年後にこの地域から引っ越すことになるのだが、その時には町内会のみんなで「お別れ会」を開いてくれた。花束まで頂いた。
 
 
「メモを取る」
 
その行動は、ただ単に情報を整理するだけではない。
使い方によって、多くの人と知り合うこともできるし、または私個人を認識してくれることで、仲良くなるきっかけになることもある。
 
 
まるでカレーのようだ。
まずは「メモ」という名の、多くの種類のスパイスを集めてくる。
そのスパイスをどう組み合わせるか、すなわちどう処理するかで、出来上がるカレーが変わってくるのだ。
 
それはスパイスの足りないパッとしない不味くなったカレーのように「聞きたがりの人」と思われるか。
はたまたスパイス同士がうまく絡んで引き立て合っている美味しいカレーのように「友人」や「信頼関係を得る」という事になるのか。
メモの使い方、料理の仕方次第で、味も結末も大きく変わってくるのだ。
 
どうせなら美味しいカレーが食べたい。
そのためには、スパイスをうまく集め、それを正しく混ぜ合わせないといけないのだ。
 
 
先日、こんな体験をした。
 
「あなたにオススメのハブラシを持ってきたよ! 使ってみて!」
 
患者さんからハブラシのプレゼントを貰った。20年も歯科衛生士をしているのに、初めての経験だった。
 
だがこれはいつもメモを取って、たくさん話をする事で、患者さんが私のことをしっかりと認識してくれた証拠だ。
たかがハブラシだが、私には宝物ぐらいの価値があるように感じた。
 
 
そんな予測もしないものになるかもしれないからこそ、今日も私はメモを取る。
あなたもそんなメモを取るようにしてみませか?
 
その小さなメモ1つが、大きな何かに変わるきっかけを教えてくれるかもしれませんよ。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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