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メディアグランプリ

恐怖の警察沙汰を笑って思い出せるようになったのは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:須賀泉水(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「早く来てください! 空き巣に入られました! 1時間ほど出かけていただけなのに、家の中がぐちゃぐちゃになっていて、何を盗られたのかわかりません。えっと、それから、それから……」
 
「落ち着いてください。警察官がもうそちらへ向かっています。何も手を触れず、おうちの中はそのままの状態でお待ちください」
 
緊急電話の110番がなぜ110なのか。
覚えやすい。かけやすい。そして、番号が決まった当時に使われていた回転ダイヤル式の電話で「0」が戻るまでに気持ちを落ち着かせる意味がある、などと聞いたことがあります。
 
私が人生で初めて110番通報をしたのは、プッシュ式の電話からでした。
手が震えていても、なんとか3桁くらいなら間違えずに押すことができます。
でも、最後の0を押せたと同時に「事件ですか? 事故ですか?」と聞かれ、気持ちを落ち着かせる余裕はなく、一気に現状をまくしたてたのでした。
 
子どもたちとご近所のファミレスで食事をして帰宅すると、玄関の鍵が開いていました。
「あらやだ、鍵閉めずにでかけちゃったみたい」
口に出して言いながらドアを開けると、目に飛び込んできたのは異常に散らかった室内。
 
「こんなに散らかして出かけたっけ?」と、また口に出してみて初めて、そうではないことに気が付きました。
 
視界に入る家具の全ての引き出しが開いている。空き巣だ! 家の中にまだ犯人がいるかもしれない。
と、やっと理解した私の現在地は玄関。靴は履いたまま。
気づけばそこに、5歳の長男がいませんでした。
 
とっさに頭に浮かんだのは、先に家の中に入った長男が、中に潜んでいる犯人に人質に取られてしまった映像。首元にはナイフが突きつけられています。
それなのに私は恐怖で足がすくみ、息子を助けに行くことができません。
 
「お願い! 出てきて! お願い!」と叫ぶと、手を洗っていただけの長男が洗面所から出てきました。
無事でいてくれた息子と、私と手をつないだまま立っていた娘の二人を両脇に抱え、肉食獣から我が子を守る母猿さながら、犯人を威嚇するかのような奇声を発しつつ、家の中を見て回りました。
 
巡回の結果、どうやら空き巣犯はもう家の中にはいない様子。
私は、引き出されている引き出しをさらに引き出し、通帳は残されているのに現金がない! 七五三の写真のデータが入っているデジカメもない! など確認してから110番通報をしたのでした。
 
「おうちの中はそのままで!」と指示された時には、空き巣に荒らされた部屋をさらに私までもが荒らした後。
事件が起きたらすぐ通報、という当たり前のことができない精神状態だったのだと思います。
 
こんな言い訳をしてでも、当たり前の精神状態ではなかった、と言い切りたい理由があります。
それは、息子が命の危険にさらされているかもしれないと思ったのに、体が動かず助けに行くことができなかったから。
 
荒れた室内を見ながら、110番通報をしながら。
空き巣に入られたことよりも、私はいざというとき命がけで我が子を守ることができない母親なのか? という思いが頭を離れなかったのです。
 
警察が到着し、テレビドラマで見るような鑑識作業を、子どもたちは目をキラキラさせて見ていました。私はそんな彼らに後ろめたさを感じながら、ただその場にいることしかできません。
 
作業の結果、犯人はベランダから侵入して玄関から逃走。靴のサイズは27センチ。盗られたものは返ってこないと思っておいてください、との簡単な報告。1時間ほどで鑑識作業を終え、警察官は帰っていきました。
 
「え? もう帰っちゃうんですか?」
 
誰に言っているんだか……なセリフでお見送りした後、静かな時間が訪れます。
鍵の部分だけ割られたベランダの窓ガラスを見たとき、やっと涙が出てきました。
そこには、いざという時に子どもを守れない情けない私が映っていたから。
 
「頼りない母でごめんね……」
 
すると子どもたちはいつもよりテンション高く、「お巡りさんすごかったね!」「泥棒さん靴のままおうちの中歩いてたね!」などと、明るく私にまとわりついてくれました。
弱っている母親を、なんとか励まそうとしてくれたのだと思います。
まるで、傷ついた気持ちに包帯を巻いてもらっているような気持ちになりました。
 
母親失格という悲しみの沼に沈みそうなところを、救ってくれたのは子どもたち。
守られているのは私の方でした。
 
空き巣に入られて、私の中に残った感情はただ一つ。
子どもたちへの「ごめんね……」だけでした。
 
二度とこのような機会があってはいけないのだけれど、もし万が一、また子どもが危険な目に遭ったときは、命に代えてでも守って見せる。私にはそれができる。
両脇に子どもを抱えたときの勇ましい我が姿を思い出し、自分にそう言い聞かせながら子育てしてきたように思います。
そうしないと、何度も母親失格の沼に足を取られそうだったから。
 
幸い、そんな機会は訪れないまま、子どもたちは成人してくれました。
 
私は命がけで子どもを守ることがでるのか? という問題について。
これでリベンジとさせてもらおう。もうこの自信のなさを手放させてもらおう。
そのきっかけにさせてもらえる出来事がありました。
あの時無事でいてくれた長男が、車の免許を取ったのです。
 
若葉マークの息子が初めて運転する車の助手席に座る。
自分の心臓のドキドキが聞こえてくるほどのスリルは、命がけ気分を味わうのにぴったりです。
 
「母親だからこそ、ここに座っていられると思わない?」と、なぜか偉そうな私に。
「送迎して欲しいだけやろ!」と、笑いながら返してくれる息子。
 
「違う違う! 命がけで運転の練習に付き合ってるのよ!」
 
子どもたちが無事に成人してくれたこと。
長年抱えた気持ちを手放したくて、適当なことを言って開き直る私を笑って許してくれる大人になってくれたことに感謝しながら、カチッと締めたシートベルトを両手で強く握りしめる助手席で。
あの時ガラス窓に映った自分を見て泣いたことを懐かしく思い出し、「ごめんね」の気持ちを「ありがとう」に変えることができました。
 
しかし、息子が運転する車の助手席は、マジで怖い。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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