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メディアグランプリ

何もすることがないより、忙しい方が幸せだと思う理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深谷百合子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
「毎日残業で大変でしょう? 体に気を付けて下さいよ」
打合せが終わって会議室を出るとき、取引先の人が私の横に座っていた先輩社員に声をかけた。
 
「ありがとうございます。でも、作りたくても作るものがなくて、仕事が無かったあの時の方が辛かったですよ。忙しいけれど、仕事がある今の方が断然いいです」
そう答える先輩社員の横で、私は「そういうものなんだ。でも、その気持ち、ちょっとわかるかも」と思っていた。
 
時代はバブル全盛期。バブルで景気がいいうえに、工場で製造していた製品は空前の大ヒットを記録していた。生産が追いつかない状態が続き、工場はいつも残業して対応していた。毎週のように社員の募集をかけ、協力会社に人員の確保を依頼しても人手不足は解消しなかった。
 
私は入社したばかりだった。当初は2週間と言われていた製造実習が、人手が足りないという理由で1ヶ月に延長され、その実習がやっと終わって、総務部門に配属されたばかりだった。入社してくる社員への対応や、製造部への人員配置などで、総務部門の社員も毎日のように残業していた。
 
「仕事が無かった頃って、どんな感じだったんですか?」
会議室から出て事務室に戻りながら、私は先輩社員に聞いてみた。
 
「ビデオデッキの規格戦争で負けちゃったでしょう? うちの工場はそれしか作ってなかったから、作るものがなくなってね。それで、他の工場で生産したブラウン管テレビの倉庫がわりになっていたりしたんだ。だから、その管理をしたりしてたんだよ。でも、本当にやることがないから、工場の前の芝生の草むしりを毎日していたなぁ」
「草むしりですか!」
「そう。毎日工場に来て、麦わら帽子かぶって皆で草むしり。毎日何をしているんだろう? って思ってね」
「そうでしたか。それなら、今の方が断然やりがいがありますね」
「何もすることがないって、本当に辛いんだよ。今は確かに忙しくて大変なんだけど、充実しているよね」
 
私は先輩社員の「何もすることがないのは辛い」という言葉に大きく頷いていた。私がこの工場に就職する前、1年ほど「何にも属していない」時期を過ごし、社会に役立っているという実感を持てない経験をしていたからだ。
 
大学卒業後、大学院への進学を志したものの合格せず、1年の浪人生活を送った。翌年合格したが、母の入院をきっかけに実家に戻り、結局一度も大学院で学ぶこともなく中退した。
 
母の看病をしている時期は、何とか元気になってもらいたい一心で、食事の介助やリハビリの付き添いなど毎日病院で1日を過ごした。お見舞いに来てくれた人たちが、「えらいわね」と声をかけてくれるのも嬉しかった。ところが、母が退院し、病状が落ち着いて以降、家で何をするともなく過ごす日が続いた。たまに会う高校の同級生たちは、仕事にも慣れてきた時期で、皆生き生きとしていた。
 
「証券会社に就職したあの子、信じられない額のボーナスだったらしいよ」
「えー、そうなの? いいなぁ。私は製造実習が終わって、今は販売実習してるんだよ」
 
そんな話を聞いても、私はどこか上の空だった。バブル時代の華やかさも、ずっと家にいる自分には無関係だった。
 
「私はこのままどうなるのだろう?」
不安と焦りで、つい母に八つ当たりをして後悔することもあった。
 
そんなモヤモヤを抱えた私のことを気にしてくれた人がいて、その人のおかげで、私は両親に自分の気持ちをきちんと話すことができた。そして、就職することにしたのだ。当時毎週のように新聞に入っていた「社員募集」の折り込みチラシを見て面接に出かけ、この工場に就職したのだった。
 
その後、一時仕事から離れていた時期はあったけれど、25年以上の期間を私は会社員として過ごした。定時で帰った日は、その内どれ位だっただろうと思う位働いた。根っからの仕事好きというのもあったし、やりたいことが沢山あったから、残業も苦にならなかった。でも、それ以上に私を突き動かしていたのは、あの日の先輩社員の言葉だった。
 
「何もすることがないって、本当に辛いんだよ」
 
仕事があるだけで、有り難い。それはフリーになった今、改めて噛みしめている思いでもある。
 
フリーになって、仕事は自分で作り、自分でとってこなければならなくなった。会社員の時のように、いつでも目の前に仕事がある状態ではない。すぐには収入に結びつかない仕事も沢山ある。「このまま私は誰にも必要とされなくなるのだろうか?」と恐怖を感じるときもある。でも立ち止れば、たちまちの内に仕事は無くなってしまう。正直、会社員だった頃よりも労働時間はさらに長くなったかもしれない。
 
それでも私は、頂いた仕事にはひとつひとつ大切に向き合いたいと思う。誰かの役に立てていると思えることほど、ありがたいことはないからだ。そして、すぐに成果につながらないことでも、目の前の人のために全力で自分の持てるものを出していく。そんな働き方をしていきたいと私は思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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