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ゼルダの伝説をプレイさせたら、息子が天才だと分かった

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田けい(ライティング・ゼミ 超通信コース)
 
 
4歳の息子が、「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」をプレイし始めた。
30年もの昔のタイトルなのでネタバレも書くのでその点は注意されたし。
 
ゼルダの伝説シリーズといえば世界中で人気がある任天堂の人気ゲームだ。懐かしいディスクシステムという、ファミコンにつなげてフロッピーディスクを読み込ませるタイプのゲーム機に初代ゼルダの伝説が登場した。続編の「リンクの冒険」もディスクシステムから発売され、「神々のトライフォース」からスーパーファミコンに鞍替えとなった。ファミコンやディスクシステムとは比べるべくもないグラフィックとサウンドの美麗さ、軽快に操作できるアクション、本格的なダンジョン攻略に、子供の頃の私は夢中になった。神々のトライフォースからゼルダシリーズにハマった人も多いのではないだろうか。そんな「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」に、4歳児が挑戦すると言い出したのだ。
 
我が家にはNintendo Switchがあり、Nintendoオンラインに加入しているので、ファミコンやディスクシステム、スーパーファミコンの過去の作品のいくつかを自由にプレイすることが出来る。最初は大人がリングフィットなどをプレイするために購入したNintendo Switchだったが、息子にもとても魅力的だったようだ。親の真似をしてリングフィットを、ファミコンをやり始め、みるみるうちに上達して行った。そしてとうとう、スーパーファミコンにもゼルダの伝説があることを突き止め、「やりたい!」と言い始めたのである。
 
私はプレイさせるかどうか迷った。ゼルダの伝説は謎解き要素が多く、ダンジョンも迷路のように入り組んでいる。時にはゲーム内の登場人物と会話をして、そこからヒントを得て冒険を進めるシーンもある。会話には漢字も出てくる。マリオシリーズのようにとにかくゴールに行けばなんとかなるゲームではないのだ。平仮名の読み書きができるようになったばかりの4歳児が一人でプレイできるとは到底思えなかった。だとすると、隣で大人が付きっきりになり、逐一解説しなければならないのことになる。
 
「ゆーたん、これ難しいよ、もう少しお兄さんになってからやろうよ」
「やだ、やりたい」
「漢字で書いてあるところが出てくるから、読めないよ」
「ママがとなりでよんでくれればいいでしょ!」
「…………」
 
一端の口をきくようになったものだ。ママの都合を言えば、ゲームをしている間に洗濯やら掃除やらの家事をしたいものだが、そんなことは子供にはお構いなしなのだ。息子の熱意に押されて、しぶしぶプレイを許可することになった。
 
「上に行って〜」
「敵をやっつけろ!」
「左に行って〜」
「宝箱を開けて〜」
 
当然、私も横でかぶりつきで解説することになる。
 
「お姫様が助けを呼んでるみたい!」
「ブーメランを使って!」
 
息子は真剣な表情で必死に主人公のリンクを操作する。緑の帽子をかぶったリンクは、息子のたどたどしい手つきそのままに、危うくもどかしく、雨が降る最初のステージを、姫を助け出すための王城の地下通路を進んでいった。あそこに回復アイテムのハートが入ってる、この敵はブーメランを駆使すれば楽に倒すことができる。大好きで何度もやり込んだゲームは、画面が進むにつれ記憶も鮮やかに蘇っていく。懐かしくてもどかしくてハラハラしながら支持を出し続け、息子リンクは姫を助け、秘密の抜け道から教会へと脱出することが出来た。ライフゲージはゼロ寸前、命からがら脱出、といったところだろうか。
 
「おひめさま、たすけられた……!」
 
コントローラーを持って、息子は目をキラキラ輝かせている。
 
画面ではゼルダ姫と神父の会話が始まっていて、私はそれを読み上げる。長台詞なので途中でAボタンを押して画面を切り替えるが、息子はなかなかボタンを押さずに呆然としていて、私はその度に「Aボタン押して」と息子を突っついた。
 
「おひめさま、たすけられたねえ!」
「そうだねえ、次は、マスターソードを手に入れるために、おじいちゃんを探すんだって!」
「へえー!」
 
教会の出口から出ると、BGMが変わり、勇壮なマーチが始まる。場面も夜から日中に変化して一気に明るくなり、世界がパッと開けたように感じたものだ。息子も始めてプレイした私と同じように、うわあああ! と甲高い声を上げ、ぴょんぴょん飛び上がって喜んだ。ゲーム時間の約束をややオーバーしていたのでその日はそこで切り上げとし、次の日からシナリオを進めるための探索を開始した。
 
「左に進んで~」
「その人に話しかけて~」
「そこのフチから飛び降りてみて~」
「バクダンを使ってみよう!」
「そうだ~上手!!!」
 
ゲームの横でずっと喋り続けているだけなのに、気力をどんどん吸い取られて行くような心地がする。息子は私の指示通りに必死にリンクを操作し、なんとか次のダンジョンまで辿り着いた。序盤のダンジョンなのでそれほど難易度は高くないのだが、小さな手で敵をかいくぐり、アイテムを集めて迷宮を進むのは相当に大変だったようだ。
 
「大丈夫、もう少しだよ」
「妖精がいるから回復はできるけど、ボス戦で使えるように残しておこうね」
「ああ、そっちじゃない、その敵を倒さないと!」
「うまくよけて!」
「なんでそんなに当たっちゃうの! 攻撃!」
「ああ、死んじゃう!」
「……大丈夫だよ、巻き戻そう!」
 
……声を張り上げ、それでも何度もゲームオーバーになる息子を励まし、Nintendo Switchの巻き戻し機能を駆使して、ようやくダンジョンのボスの部屋まで辿り着いた。最初のボスは大きなモンスターが6体、ドスンドスンと飛び跳ねながら攻撃してくる、なかなかに迫力のある絵面だ。
 
「さあ、弓で攻撃だ!」
「…………」
 
息子はひきつった顔でリンクを操作する。ボス1体に対して、確か弓矢を3本命中させると倒すことができる。動き回るボスに矢を命中させるのはなかなか難しく、息子リンクが放った矢は数本のうち一本しか命中しなかった。
 
「……もうやだ!」
 
突然息子が叫んだ。
 
「こわい! やめる!」
 
言うや否や、恐ろしく素早い手つきでコントローラーのリセットボタンを押し、ゲームそのものを終了してしまった。当然セーブなどされていない。必死に進んできたダンジョンの攻略どころか、その前にフィールドをうろうろして得たアイテムやお金など、すべてのデータと時間と私の指導が水の泡となって消えてしまったのだ。
 
「な……んでやめちゃうの!?」
「こわい、やだ!」
 
取り乱した私に、泣き叫ぶ息子。大丈夫だよ、もう一回やろうよ、という私の言葉には全く耳を貸さず、息子は他のソフトを起動して遊び始めた。「ゆーたんマリオがいいの」などといいながら、平和な音楽で赤い帽子に髭のキャラクターを操作している。
 
最初からマリオをやっていれば、私は洗濯や掃除ができたのに。
息子がゼルダをやりたいと言ったから、横でつきっきりで教えてあげたんじゃないか。
 
「……じゃあ知らない、ゼルダやらないならママは一緒にゲームしないからね」
「え、ママぁ」
 
息子は甘えた声を出してきたが、私は無視してリビングから出た。大人げなくきつい口調で話してしまったなと思いつつ、それ以上に怒りと遣る瀬無さを抑えるので精一杯だ。漢字が読めない四歳児に分かるように台詞を読み、目的を解説し、あちらだこちらだと指導しながらプレイさせるのはどれだけ骨が折れたか! 何度コントローラーを奪って、ママがやるから見ててね、とやってしまいたかったか! 私だって初めてあのボスに相対した時は怖かったさ、でもそれまでの努力を無駄にするかと、震える指で必死にボタンを押して弓を射たんだ。どうして息子はそうしないんだ! そもそも息子は他のゲームでも簡単にリセットを押しすぎる。Nintendo Switchオンラインにたくさんゲームソフトが並んでいるから、ソフトの一つ一つを軽んじているんだ。私と兄は、買う前からどのタイトルがいいのか吟味して、それでも年に数本しか買えないのだから、一つ一つのゲームをそれはそれは大切にプレイしてきたんだ。ゲームソフトがこんなにずらりと並んでいることのありがたみってものを全然感じていないじゃないか……。
 
それからしばらくは、私も息子もゼルダの伝説について言及しなかった。息子はマリオなど他のゲームで一人で遊び、私はそれを横目に見ながら洗濯を畳んだり風呂掃除をしたりするような日が続いた。
 
やっぱり4歳児にはぜるだの伝説は無理だったんだ。漢字は読めないし、ダンジョンではどっちに行ったらいいのか分からないし、敵に当たってすぐ死ぬし、回転切りも上手にできなくてすぐブーメランで倒そうとするし。ダンジョンはこの先どんどん難しくなってくるから、最初からこの調子では土台できっこなかったんだ。ああ、私は息子が神々のトライフォースを楽しむという可能性を一つ摘んでしまったのかもしれない。もう少し大きくなるまで待たせていたら、自分で物語を読むことが出来て、上手に操作もできて、世界を駆け巡る大冒険に心躍らせていたのかもしれないのに。私も初めてプレイした時は感動したな。
 
「……初めてプレイ?」
 
違和感に首をかしげる。
 
「……確か、兄ちゃんが……」
 
そう、ゼルダの伝説はもともとは兄がプレイしていたゲームだった。手先が不器用なので普段はあまりゲームをしない私は、兄がプレイするのを横で見ているのが好きだった。自分でやらないで楽しくないのかと聞かれたこともあったが、今で言うゲーム実況動画を見るような感覚だろうか。自分より上手なプレイヤーが小気味よくゲームを攻略していくのを見ているのは、存外に楽しく爽快なものなのだ。兄がプレイするのを見て、アクションRPGというジャンルに感動し、これなら自分にもできそうだと思ったのではなかったか。
 
私の初見は私のプレイではなく、兄のプレイだった。
ゲームが好きだけど下手だった私は、それを見て、自分にも出来るかもしれない、と勇気を奮い立たせたのだ。
 
「……ねえ、ゆーたん」
 
私はマリオで遊んでいる息子に話しかける。
 
「ゆーたんじゃなくて、ママがゼルダの伝説やってたら、見てみたい?」
「えっ、ゼルダ!」
 
息子は素っ頓狂な声を上げ、その場にコントローラーを放り出し、見たい、ママできるの、すごい、とはしゃぎ回った。私は自分用のセーブデータを作成し、最初からゲームを始める。最初に息子に指導していたのと同じ、雨の夜にお姫様を王城の地下牢から助け出すシナリオだ。先日の息子の指導で、うろ覚えだったところも鮮明に覚えている、序盤なんて簡単だ。無言でゲームを進めていく私の横で、息子が飛び跳ねながら話しかけてくる。
 
「ママ、そこにたからばこがあるよ」
「ひだりにいって、てきにきをつけて!」
「かいだんをおりまーす!」
「えっ、そっち!?」
 
私のプレイを見ながら、先日私が教えたばかりの知識をドヤ顔で話してくるのだ。そんなこと息子に教えてもらうまでもなく全て分かっているし、どんなにやり込んだゲームでも多少のミスでダメージを食らってしまうこともある。その度に息子はうわー! ぎゃー! と悲鳴を上げ、ママにげて、まきもどして、と大騒ぎをした。……うるさい。
 
きっと息子も、私の指導はうるさかっただろう。
先の分からないダンジョンで、怖い怪物がたくさん出てきて、でもママは横で怖い顔でああしろこうしろと言っていたら、窮屈で煩わしかっただろう。
 
そんなんじゃない、ゼルダの伝説はそうやってお行儀よくプレイするものじゃない。いつどこでダメージを食らったっていい、フィールドを好きなように駆け回って、いろいろな謎を紐解いていくのが楽しいゲームじゃないか。今ここでこれをゲットしておくと後が楽、なんてのは、自分で見つけたノウハウだから最高に楽しいのであって、人に言われてやるのでは大した面白みもないのだ。確かに息子は漢字が読めないからサポートは必要だけど、それ以上の細かな指導こそが、彼が神々のトライフォースを楽しむ機会を奪ってしまっていたのだ。ごめん、ゆーたん、ごめんね。私はプレイしながら何度も心の中で息子に謝った。
 
「ゆーたん、この前ゼルダやってた時、ママがあれこれ言うの、嫌だった?」
「……うん」
 
プレイ終了後に息子に尋ねると、息子は神妙な面持ちで頷いた。
 
「ごめんね。もっとゆーたんの好きなようにやらせてあげればよかったね」
「……うん」
「ゆーたんが読めない漢字が出てきた時だけそれを読んであげるから、もう一回ゼルダやってみる?」
「うん!」
 
はちきれんばかりの笑顔を見せた息子の髪の毛を、私はぐしゃぐしゃと撫でまわしたのだった。
 
 
 
その後息子のプレイスタイルを見守っていると、最初のイベント、お姫様を王城から救うまでのイベントをリセットしては何度も繰り返すようになった。その先は気が向いたら少し近所の散歩に出かける程度で、あまり深追いはしない。始めはその様子にまた別の種類の苛立ちを感じたが、息子に理由を尋ねるとこんな答が返ってきた。
 
「ゆーたんね、ここがすきなんだよ、じぶんでできるから」
「神殿はいかないの?」
「しんでんはー……むずかしい!」
 
茶化して見せて、息子はもう何度目か知れないお姫様救出に興じる。恐怖を感じるほどのダンジョンにあえて挑戦するよりも、見知った範囲で自分が楽しめるようにプレイする。かくいう私だって、新しいソフトを次々プレイするよりも、お気に入りのソフトを飽きるまで何度もやり込む方が好きだった。一つのソフトをクリアすると新しいソフトを買う兄とは対照的で、兄はよく「またやってるのか」とぼやいていたが、同じソフトをやり込むのもなかなか楽しいものだ。世界観に浸って登場人物の気持ちを推し量ったり、アイテムや裏技をコンプリートしたり、タイムアタックに挑戦したり、工夫次第で無限に楽しむことが出来る。そうやってゲームを楽しむことを通して、ある種の自己肯定感をはぐくむことが出来ていたではないか。
 
息子が最初のダンジョンだけ繰り返しプレイするのも、それと同じだ。
息子はたった4歳で、自分にぴったりのプレイスタイルを見出しているのだ。
 
「ゆーたん、天才だね、すごくいいと思う」
「すごく……いい! ゼルダひめたすけにきたよ!」
 
いつかその先の物語を息子が知る日を、ママは楽しみに待っていようと思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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