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僕が医師を続けられるのは〜医学部志望だったあの日の教え子へ〜


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記事:鈴木亮介(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「医学部行くのを辞めて工学部にしようかと思っています」
まだ医学生だった昨年、塾で数学を教えていた医学部志望の高校生K君に、ある日そう言われた。
K君は真面目で努力家で、それでいて理系の勉強が楽しんでいた理科少年でもあった。
僕が数学の面白い話をするたびに、目を輝かせて聞いてくれていた。
そんな純粋なK君だからこそ、僕自身K君には医学部に入って将来同業者になってくれたらうれしいなと思っていた。
なのに……どうして……
 
「コロナの対応で医師が疲弊している姿を見て、僕には無理だなあって思ってしまいました。僕はそんなに他人(ひと)に尽くせないです」
K君の話を聞いてみると、クラスターが起きた病院の医師が身を粉にして感染者の対応をしていた話を知り、自分に医師が務まるかどうか疑問に感じたというのだ。最近のコロナ対応だけでなく、平常時であっても夜勤や呼び出しがあって、話としては知っていたけれど、改めて実態を知れば知るほど自分がそんな激務な環境で働いていけるのか悩んでしまったようだ。
 
「たしかに医者は大変だよね……」
僕はそのときK君の悩みに対して、ポジティブな返答をすることができなかった。
実際僕自身、病院実習で若手の先生が忙殺されている姿を目の当たりにしていた時期だったので、医師の激務の実態を否定できなかったからだ。その先生たちの姿を見て医師という仕事に、僕も少なからず戸惑いを感じていた。
 
K君はその時期を境に工学部志望になった。
K君は医学部の他にも理工系のことにも興味があったので、その進路変更は前向きのことだったようだ。
最終的にK君は有名国立大の工学部に合格した。
僕はその合格を一緒に喜んだのだが、頭の片隅にもやもやしたものは残った。
 
彼の進路だから尊重したい気持ちはあった。
けれど医療業界のネガティブな側面を理由に医学部から離れていくK君を引き止められなかったことに悔いが残った。
K君には、医師という職業が自己犠牲や責任感で成り立っていると思われてしまったのかもしれない。患者に尽くすといえば聞こえはいいかもしれないが、その一方で業界全体に激務ゆえの閉塞感があるように見られていたのかもしれない。
それが純粋な彼には受け入れられなかったのだろう。
K君に医師という仕事を、別の角度から伝えることはできなかったのだろうか。
 
でも今なら……研修医として働き始めた今なら……言えることがある。
それは、医学が面白いからだ!
医学自体が、一生かけるにふさわしいほど、面白いものだからだ。
 
僕は今研修医として1ヶ月ごとにいろいろな診療科をローテーションしているのだが、どの診療科を回っても楽しいものがある。
例えば内視鏡診断は、消化管粘膜の表面の「模様」から、取らずとも癌の深さを推定できる。
血液腫瘍の薬物療法は、新しいタイプの薬剤がどんどん出てきて全く飽きない。
食道癌や膵臓癌の外科手術は摘出する領域が大きいために、生理機能を維持しつつどのように臓器同士をつなぎ合わせるか、工夫が凝らされている。その上、めちゃめちゃダイナミックで見ているだけでもとても面白い。
放射線診断・治療は原子・量子レベルのふるまいから生体内の状態を暴き出す原理に心惹かれる。
病理診断は顕微鏡で細胞たちの世界を見て、病気の成り立ちに思いを馳せるのが楽しい。
 
医者は就業後も自主的に勉強することが多いけれど、半分は目の前の患者さんの為で、残り半分は単なる好奇心なのかもしれない。
この病気は、どんなメカニズムで起こるのだろうか?
この薬はどんなメカニズムで効くのだろうか?
この術式はどんな手順でやるのだろうか?
仕事の中で生まれた疑問をきっかけに、医学の世界をより深く知ることができたら、純粋に感動してしまう。そして、誰かに話してみたくなる。
 
たしかに仕事が忙しくて大変だなって思うときもある。
でもそんな中でも、医学自体の面白さがあるから続けていけるのだと感じている。
これは僕に限らず、周りの同期も、上司の先生も、そうだと思う。
医学は病気の克服を前提にした学問だけれど、その中に垣間見える科学に面白さを感じずにはいられない。それは戦場に咲く一輪の花のように、辛い時でも頑張れる支柱になっている。
 
いまだったら、K君に言えるかもしれない。
たしかに医者は大変だよね……
でも医学は面白いから、きっとやっていけるよ。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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