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思っていたのと違うガン告知


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:喜多村敬子(ライティング・ゼミ10月)
 
 
日本人の2人に1人が一生のうちにガンになるという。
発見時期によって予後は大きく違う。
だから、深刻なことになる時も、比較的軽い負担ですぐに普段の生活に戻る時もある。
治療実績が昔よりずっといいので、
ガンになったからとすぐに仕事を辞めることのないようにとも聞く。
そして、今は基本的に本人に告知すると言う。
治療法の選択は本人の生き方の選択で、本人の意思が反映されるべきであるし、
インターネットで自分の薬を検索すれば病名などすぐに分かるからだそうだ。
そうは言っても、先に家族が知ったら、本人に告知するか悩むだろうと思っていた。
そして告知のショック、その後の不安や悩みは避けられないと思っていた。
ところが、父の場合は思っていたのとは違っていた。
 
父と母は物忘れが進み、夫婦だけで暮らすのがもう無理になって、ホームに移り住んだ。
そのホームに定期的に往診に来る医師から連絡があった。
ここ1ヶ月父に声がれがあり、だんだん声が悪くなってきている、
耳鼻咽喉科を受診するようにとのことだった。
父に聞くと、自覚症状はなかった。
自分には不調はない、なぜそのようなことを聞くのかと憮然とする。
声がれの自覚すら無い。
私は声枯れに気づいていたが、年齢のせいだと思っていた。
 
ホーム近くの初めて行く耳鼻咽喉科の開業医に父を連れて行った。
同行するのは私と妹、母。
母は完璧だと頼りにしている父には、
母がそばにいる方が安心するだろうとこのメンバーで出かけた。
父は何度行き先を聞いてもすぐに忘れ、
父よりは物忘れがマシな母も状況を分かっているように振る舞うが、
どこまでわかっているか怪しかった。
医師は、持参した内科医からの手紙を見て、
すぐ診察、内視鏡で父の喉の奥を見た。
診察台そばのモニター画面を皆でじっと見る。
以前から疑問に思っていたのだが、内視鏡検査の時に、
医師だけでなく本人もモニターを一緒に見るのは一般的だ。
でも、もしも良くないものがそこに見えたら、どうするのだろうと常々思っていた。
そしてこの時、モニターに映った父の声門辺りは、
素人目に見ても正常な様子ではなかった。
それまでは「さあ、見てみましょうか」と明るかった医師が急に静かになり、
内視鏡を父の鼻からスルスルと引き上げた。
ああ、こういう事ってやっぱりあるんだと思った。
どうするんだろう?
今こそが、良くないものを見ちゃったときはどうするの?
という長年の疑問の答えが分かる時となった。
すると、医師は大きなリアクションもなく、淡々と、
「では、○○病院の耳鼻咽喉科への紹介書を書きますから、待合室でお待ち下さい」
と言った。そして、念を押してこう言った。
「すぐに行って下さい。のんびり月末まで待つようなことではだめですよ。
明日にでも行って下さいということです」
医師は「ガンかも」とすら言わなかったが、
この時点で「これはやばいのだろう」と私も妹も思った。
待合室で待つ間、父は何をしに来たのだろう、ここはどこだろうという様子だった。
診察の結果には関心がなかった。
ホームに戻った父は、内視鏡で少し不愉快な思いをしたのに、
耳鼻咽喉科に行ったことは覚えていなかった。母も。
 
数日後には○○病院耳鼻咽喉科に同じように一家そろって出かけた。
自覚症状のない父は、ここはどこでなぜ来ているのか相変わらず見当もつかない。
そんな父には、声枯れがあるから、
往診の先生に勧められて来ているとの説明で十分だった。
しかし、すぐに忘れるので、繰り返し説明が必要だった。
母は娘たちがいるから大丈夫と落ち着いた様子で、父のそばについていた。
 
診察室で、父はいつものように礼儀正しく振舞った。
声枯れやのどの違和感について聞かれると、自分は元気で、何の不調もないと言い切った。
自覚症状が普段あったとしても忘れるので、
聞かれた時に不調でなければ、父としては至って健康なのである。
喉周りの触診、内視鏡検査があり、その後は生検、CT検査などに加えて、
別の病院でのPETを経て、診断結果を聞く段取りとなった。
 
この数年前に父の弟が喉頭ガンで治療を受け、その後は元気一杯にしていた。
この叔父は友人とゴルフコースに出ていた時に、
声が出ていない、聞き取れないと指摘された。
すぐに受診したのがきっかけで、喉頭ガンだと分かった
医師に言われて好きだったタバコを止め、放射線治療で直った。
それを知っていた私は、父は既にタバコを止めていたし、症状は叔父よりも軽いので、
大きな心配はしていなかった。
多分、初期だろうし、通院での放射線治療になるだろうし、
それなら認知症の父には入院の負担もなくていいだろうと思った。
 
一家そろった診察室で、医師は躊躇なく診断結果を説明し始めた。
緊張感も、ドキドキもしなかった。思った通りの内容だった。
両親は神妙に聞いていたが、そのことを覚えていられなかった。
その後、ホームから車で10分のその病院に28回の放射線治療に通った。
痛みの訴えも重い副作用もなかった。
父は治療期間中もその後も、自分は健康だと思っていたし、
通院したこともいつもすぐに忘れた。
今年で治療終了後2年が経過、定期検査の間隔は長くなり、
予後良好で過ごしている。
 
思い返すと、
本人に告知するか悩む前にさらりと家族全員の前で告知・説明があり、
聞いた本人はぼんやりとしか分からなかったらしい上に、すぐに忘れた。
だから、父が告知後に不安にさいなまれることもなかった。母もである。
妹に言わせれば、「ある意味、お父さんはメンタル強いよね」である。
父の場合、「本人が忘れる」ので、
肩透かしのような思っていたのと違うガン告知になり、淡々と治療が進んだ。
但し、それは初期だったからだ。
新型コロナのせいで、がん検診の受診控えが多いと新聞で読んだ。
早期発見のために、受けてない方は検診を、
気になることがある方は診察を。
 
 
 
 
***
 
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2021-12-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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