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メディアグランプリ

プロボクサーに殴られ、ロッキングチェア


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:光山ミツロウ(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
言葉、というものは全くもって不思議なもので、頭の中で考えているモヤッとしたイメージを、自分で勝手に、多分これかなぁ、うんこれよなぁ、と、それに近しい言葉に(自)意識上で当てはめ脳内変換し、そこから手を動かしてその言葉を紙、もしくはPC画面上にアウトプットした途端、その言葉が持つ視覚的、聴覚的な刺激が、目、耳に飛び込んできて、また新たなイメージが生まれ、また脳内変換、また手を動かしてアウトプット、そうしてまた新たなイメージが生まれて、やはりまた手を動かして……と、それを何度か繰り返していくうちに、いつの間にか、当初は思ってもみなかった場所へ、意識的にも物理的にもその人を連れて行ってくれるものである。そう、わらしべ長者のように。
 
例えば、冷やし中華。
 
冷やし中華、という言葉から私は、夏の町中華屋で、馴染みの客と上方漫才よろしく掛け合いをしながらせっせと働く老店主夫婦、厨房から聞こえるカンコンキン! という中華鍋とお玉がけたたましくぶつかり合う音、油でベトついたメニュー表、その他薄汚れた漫画本、業務用油と書かれた一斗缶、陽に焼けたビキニ姿の女性がジョッキ片手に浜辺で横たわるビール会社の古ポスター、等々をイメージするのであって、そこからさらに、すでに独立し、家庭を持って立派に生きる老店主夫婦のひとり息子……の抱える悩み、つまり店を継ぐかどうか、といって本音は継ぐ気はさらさらない、が、自分がここまで生きてこれたのは、立派に成長できたのは親父とお袋とあの店のお陰、という紛れもない事実は変えられないしどうしよう、と帰宅途上の満員電車で、夜の車窓に映った自分の、ほろ酔いに酔った顔面と向き合いながら、ふと物思いにふける四十路の男、を想像するに至るのである。
 
無論、冷やし中華自身は「申し訳ないが私は、冷やし中華以上でも以下でもない。何もそこまで……」と困惑した表情を浮かべるに違いない。
 
が、冷やし中華という言葉それ自体は、冷やし中華自身が思っている以上に人の想像力を掻き立てる力がある、というのはやはり本当で、現に私は、窓の外は雪がちらついてもおかしくない程の冬本番な気候であるというのに、今すぐにでも冷やし中華を、それもかの老店主夫婦が作る冷やし中華を食べてみたい、という衝動に数分前から駆られているのであって、ましてや、言葉のプロである詩人や小説家が紡いだ言葉たちが、人の想像力を掻き立てたり、楽しませたり、勇気づけたり、あるいは食欲を刺激したり……と、人に影響を与えないわけはないのである。
 
ではなぜ私が、冷やし中華を持ち出してまで、言葉の持つ不思議で、魅力的な力についてここまで長々と書いてきたか、というと私自身が過日、その言葉の持つ不思議で、魅力的な力によって、世界の見え方が変わる体験をしたからに他ならない。
 
それは私が10代の半ば、ある小説の冒頭の言葉を目にした時のことであった。
 
当時の私は、九州の地方都市で、部活に励むでもなく、かといって色恋に熱を上げるでもなく、サブカル誌を眺めたり、夕方に起き出しては深夜ラジオを聴き学校には眠るために行く、とそんな鬱々とした闇の中で日々をやり過ごす、パッとしない高校生であった。
 
クラスの大半が爽やかに部活や勉学に精を出すなか、私以下数名の帰宅部連中は、ジメジメとしたナメクジのような存在として、学校生活及び世の中を、青春の傍観者よろしく斜に構えて眺めていた。
 
「何かもっとこう、楽しいことないのかよ」
 
自ら行動は起こさないくせに、どこからかき集めてきたのか、無駄に高いプライドが邪魔をして、変化のない現実を嘆くことだけは着実に上達していく、そんな負のスパイラルに陥っていたように思う。
 
私が言葉の持つ力と生まれて初めて出会ったのはそんな時だった。
 
放課後、暇にまかせて立ち寄った町の小さな古本屋で、偶然手に取ったその小説の冒頭には次のような言葉が記されていた。
 
『この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
 
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
 
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。
 
でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。
 
きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。
 
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
 
たとえば、星を見るとかして。』
 
(池澤夏樹著『スティル・ライフ』より引用)
 
この世界は俺のために存在しているし、俺の人生を何とかするのは俺じゃなくて世界の方なんだから、よろしく頼むよ世界さん、と生まれてこの方、被害者意識まる出しで生きてきた私は、この文章を読んで言葉というボクサー、それもプロ中のプロに一発KOされたような衝撃を受けた。
 
と、同時に、ロッキングチェアにゆったりと時間を忘れて座っているような、リラックスした不思議な安堵感もあった。
 
それは、外の世界とは別に、自分にも一つの世界がある、ということをこの文章が端的に教えてくれたからに他ならない。
 
言葉というプロボクサーに頬を強烈に殴られ、体ごと2メートルほど、ギャグ漫画みたいに吹き飛んだその先に、なぜか渋いロッキングチェアがあって、そこにすっぽり収まって、頬の痛みを感じながらもゆっくりと、自分にも世界があることについて思索にふける……と、そんな感覚になったのを覚えている。
 
私はその場でこの文章を10回は読み返したように思う。怪訝な視線を送ってくる古本屋の店主を一切無視して。
 
その度に殴られてはロッキングチェアに収まって……を繰り返していたように思う。
 
そうしてこの文章との出会い以降、私は、これまで否定的に傍観していた、部活や勉学に励む爽やかなクラスメイト、あるいは無口で何を考えているか分からない物理の先生、その他その言動からバブルを引きずっていると思しきイケイケな体育教師等にも、それぞれに独自の世界があることを知り、翻って、自分にはどんな世界があるのだろう、と考えるようになった。
 
すると不思議と主体性を持って世界を見るようになり、これまで持っていたジメジメとかナメクジとか、そういったセルフイメージは、他でもない自分自身がそう思っているだけ、ということに気づくことが出来たのであった。
 
思春期という多感な時期であったことを差し引いても、言葉によって私の中の世界の見え方が変わった瞬間であった。
 
改めて、言葉、というものは全くもって不思議なもので、たった数行の文章にも世界の見え方を変える力があるように思う。
 
今後も私は、事あるごとにこの文章を読み返し、殴られ、吹っ飛び、そしてその先にあるロッキングチェアでゆっくりと思索にふけるつもりでいる。
 
 
 
 
***
 
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2022-01-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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