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家族で諦めなかった、原因不明の父の症状


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Seiko(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
私がまだ二十代の独身で、両親と一緒に住んでいた頃、
ある週末の昼食時、
父が、ごはんを盛った茶碗を、テーブルに置いたままで食事をしていることに気づいた。
いつもは左手に茶碗を持って食事をする父。
その姿に、なんとなく違和感を覚えた。
 
「お父さん、お茶碗置いたままでめずらしいね」と聞くと
 
「うん、今日はなんだか茶碗が重い」
そう答える父に、
 
「そうなんだ」
と言いながら、不思議な気持ちだった。
それが始まりだった。
実家は畳の生活で、次は、父は座っていて立ち上がる時に、
よっこらしょ、とテーブルに両手をついて体を支え、疲れた疲れたと言う。
そして、次第に歩くペースが遅くなり、階段をのぼることが少しずつ大変になり、
寝ていて起き上がることさえ難しくなった。
 
父の状態がどんどん悪くなる。本当に突然で、あっという間だった。
それまでは健康で、何の前兆もなかった。
いくつもの病院をたずねたけれど、受ける検査はどこでも同じで、結果は異状なし。
筋力が衰えているらしいことはわかるけれど、その原因は不明なまま。
医師達も首を傾げる。
 
検査結果の数値を見た医師に、「どこも悪くないですよ」と言われ、
その度に「どこも悪くないようには見えないのに」と思う。
でも、それを言葉にしたとしても、
ここではこれ以上はどうすることも出来ないのだなぁ、とわかるので、
「そうですか」と言うしかない無念さ。
 
家族としてそばで見てきて、絶対にどこかに原因があることには確信がある。
それが何なのか。どこなのか。どうすればわかるのか。わからない。きっかけがわからない。
 
一年近くそんな状態が続いた。
入院もしたし、温泉療養にも行ったり、針治療も受け、しかしどれも効果がない。
不思議。不思議過ぎる。
何だろう。何が起こっているのだろう。どうして原因がわからないのだろう。
 
この時、父は仕事はできず、それどころか日常生活もままならない状態だった。
食欲がなく、食べたいものや食べられるものが限られ、どんどん痩せていく。
なぜなのか、眠ることもできなくて、不眠にも悩まされていた。
 
早く何とかしないと、この先、父がどうなってしまうかわからない。
でも、どうすればいいのだろう。
 
父と二人で大学病院に行った時に、私が診療の受付に行き、
動くことが困難な父には車で待っていてもらったことがあった。
暫くして戻ると、座ったままで父が助手席から足元の方へ落ちそうになっていて、
でも、自力で態勢を立て直すことが出来ず、苦しそうにしている姿を見て慌てた。
 
「戻れなくなっちゃったよ」
そう言いながら苦笑いをする父の姿に、胸が締めつけられた。
絶対に治す。改めて決意をし直した。
気持ちが続いている限りは終わりではない。
気持ちが続いているのならば、未だ道の途中なだけ。
まだ原因がわかっていないだけ。
諦めなければ解決する。
そう決めたのはいいけれど、次に何をしたらいいのか、全く手がかりがない。
どうすればいいのだろう。どんな選択肢があるのだろう。
あてもないのに四六時中考えていた。
 
そんなある時、家の車庫のシャッターを修理に来た、業者の若い職人が父を見て、
「俺の叔父さんの症状によく似ている。
詳しい事は知らないけれど、脊髄からくる病気だと聞いている」
そう言った。
 
脊髄! 脊髄はまだ調べたことがない。次は脊髄だ!
光が差すとはこのことか。
 
父の様子を気にかけて、度々連絡をよこす伯母に、
たまたま父がこの話をしたところから、状況が急展開していった。
 
それならばと、伯母にかかりつけの病院を勧められ、
都内にある総合病院を受診することになった父。
伯母夫婦は、父の通院にも付き添ってくれた。
 
初診で診察した内科の医師は、
「これはうちじゃあないな。うちじゃあダメです。
隣を紹介しますから、そちらを受診してください」
と直ぐに紹介状を書いてくださり、
父と伯母夫婦は、その足で隣接されていた別の病院に向かった。
 
父は直ぐに入院することになった。
そこではどのような検査をしたのか、どのような診察があったのか、
その時の話は殆ど聞いていないけれど、
二、三週間すると外泊許可がおりて、一時帰宅が出来ることになった。
 
帰宅した父は、いきなり家業の仕事に復帰した。
そんなにも元気になったのかと驚き、ただただ嬉しかった。
何を急いでいたのか、家の階段を駆け上がって来る父の足音を聞いた時には、
驚きのあまり母と顔を見合わせたことを覚えている。
諦めなくて良かった。絶対に治ると信じ続けて良かった。
 
その後も、入院と一時帰宅を繰り返しながら、
父が完全に社会復帰をするまでに、それほど時間はかからなかった。
 
二十代後半の若い主治医は、
ある日、父の病室に来て、いつも通りに
「調子はどうですか?」
とたずね、
父が
「先生、なんだか今日は調子がいいんだよ」
と答えると
「やった!!!」
と両手を挙げてガッツポーズをしたそうだ。
その主治医の推察というか、診断が当たり、試した薬が効いたのだ。
 
「ガッツポーズだよ笑。若いなぁ」
私にそう話す父の顔は、嬉しそうだった。
私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
 
父の病名は『ACTH欠損症』というものだった。
ACTHは、脳下垂体から分泌されるホルモンのうちの一つで、
そのホルモンの分泌の低下により起こるものだそうだ。
ホルモン……
 
当時は平成で、父の病気は昭和に入ってからの症例が数例しかなく、
とても珍しいものだったらしい。
私は、父に起こった出来事を見てきたので、
おそらく患者がいても診断がつかず、見逃されていることが多かったのではないか?
と思った。
 
父は幸運だった。
 
もう三十年近く前の話だ。
 
車庫のシャッターの調子が悪いのが、どうしても気になると言って、
フラフラの体で業者に連絡をとった父に、万歳!
 
 
 
 
***
 
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2022-01-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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