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とある寒い冬の日の闘い


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:本多宏美(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
午後四時、自宅でのオンライン仕事が終わるとともに闘いの準備が始まった。
 
換気の為に窓を少し開けた。雪でも降るのだろうか、凍てつく風が私の心をすぼませる。本当はあたたかい紅茶でも飲んでひと休みしたいところだが、そうもいっていられない。闘いに勝利する為に必要な準備だ。
コートを羽織り、大きな袋を持って気合いを入れてドアをあける。前哨戦の火ぶたが切って落とされた。
 
そう、これはとある寒い冬の日の闘いの記録である。
 
私は50歳台の女性。4歳年下の夫と大学生の娘、4歳になる猫二匹と暮らしている。
「ああ、主婦か」そう思ったあなた。きっとまだ闘いのなんたるかを知らないのだろう。そんな言葉で私を、いや女性をくくらないでほしい。
私の仕事はハンドメイド講師。コロナウイルスが出てくる前からオンラインで講座を開いている。もちろんリアルの講座もしているが、いまじゃめっきりオンラインがメイン。おかげで家にいる時間が増え、しっかりと個人事業主として稼がせてもらっている。
だから、というわけではない。
専業だろうが兼業だろうが、家庭を持つ女性のことを「主婦」と呼ぶあなたに、あなたのその言葉にリスペクトはあるのだろうか。その職業を時給換算できる価値ある「仕事」として認めているのだろうか。
そもそも結婚した女性のことを、夫側から嫁・家内・かみさん・奥さん・うちの……という呼称で呼ばれるのも納得いかない。正しく妻と呼んで欲しい。
と、もんもんとフェミニズムに想いをはせながら、寒さをこらえつつ目的地まで足を進める。いかんいかん、闘い前の緊張からか脳内が違う方向へ思考を向けようとしているようだ。
 
私の闘いとは何か。
そう、「主婦」の一日で最も重要な闘い。
晩御飯づくりだ!
 
 
私は料理が嫌いだ。
かれこれ20年以上晩御飯を作ってきたが、どうやっても好きになれない。そもそも昔の小学校の授業がおかしかったのだ。なぜ女子しか家庭科を学ばない……。それにくらべ今の子どもたちのジェンダーレスさよ。本当にうらやましい。
そんなことを思いながら、自宅の冷蔵庫を脳内でスキャンしつつ、足りなかったネギを買う。
 
そういえば、中学・高校時代の家庭科は、クラスに「料理が好きな女子」が必ず数人いて、おかげで楽をさせてもらったものだ。
だからといって料理ができないわけではない。普通にできる。これは母のおかげだ。ちなみに夫は、料理はてんでダメ。キャンプのハンゴウスイサンくらいか。
ハンゴウスイサン? ハンゴウスイハン? あれ? どっちが正しいんだ?
家に帰ったらお米を炊飯器にセットしなくては。と思い出しつつ、お肉屋さんで必要な豚バラをゲットし帰宅。
 
午後五時、これで準備は整った。料理は嫌いだが、今夜はどうしてもアレが食べたいのだ。
だから私は戦場へ向かう。
 
敵は台所にあり!
 
手を清め、戦闘服を身にまといヒモをギュッと結ぶ。スマホで音楽を再生する。椎名林檎あたりがいいだろう。
まずは闘いに必要な道具と刃を出し、湯をわかす。
 
次に根菜類の準備だ。大根と人参、そして里芋へ。匂いの少ないものから包丁を使う。これはテレビドラマでキムタクから学んだことだ。
皮をむき一口大のいちょう切りに。
そもそも一口大ってどんな大きさなんだ。今じゃグーグル先生がなんでも教えてくれるが、そういった微妙なところまで教えてくれないこともあるので悩ましい。
この準備が特に嫌いだ……。ああ、里芋がぬめる。
 
なんとか根菜類の準備ができた。肩がこる。首をポキポキとならす。
次はこんにゃくだ。いったん刃を洗い、切ったこんにゃくを煮立った湯の中に投入する。アク抜きだ。流しで鍋の湯を捨てる。
ボン!
とステンレスが鳴る。眼鏡が曇る。
 
さあここで主役の豚肉の登場! ではない。
グーグル先生によると、ここで豚肉も一口大に切り、具材を全てゴマ油で炒めるらしいのだが、我が家は違う。グーグル先生オススメのごぼうも入れない。
根菜類は炒めずだし汁で煮てしまうのだ。だし汁といっても本だしを加えた水なのだが。このあたりは20年の経験上、ゴマ油で炒めようが、だし汁をかつお節から取ろうが、家族の反応が変わらなかったので、そういった手順はすっ飛ばしている。
豚肉はその間に違う刃で切っておくのだ。
 
大鍋で根菜を煮ながら、豚肉と格闘していた。そんな時だ、私の闘いを邪魔する想いもよらぬものが……
 
ピンポーン♪
 
黒ネコだ。荷物か。しまった。今、肉を触っていた所だ。
仕方ない、お行儀は悪いが肘でインターホンのボタンを押し、マンションのオートロックを開ける。荷物は、玄関前に置いておいてくれるはずだ。えーい、後で取りに行こう。
 
再び戦場に舞い戻る。鍋のアクとりをしなければ! またしても眼鏡が曇る。しかし負けていられない。煮えたぎりすぎるのもご法度だ。
豚肉はヒラヒラと一枚ずつ丁寧にいれる。まさに天王山。
 
さあ、ここからがミソだ! 攻めたてろ!
あなたの家は何色だろうか。我が家は赤。これだけは譲れない。少しだけ薄めにしておいて、仕上げに追加するのがミソなのだ。
 
午後六時過ぎ。よし、味を確認したら、あとは長年の戦友にお任せだ。その名を保温鍋シャトルシェフという。
 
これで闘いが終わったのかって? そう思ったあなたはまだまだ闘いをわかっちゃいない。
副菜も作らにゃならんし、魚も焼かねばならんのだ。
思いもよらない敵は宅配だけではない、仕事の急ぎのメールが届いたり、電話だってかかってくる。小さな子がいる家庭はそんな子らが「かまって」攻撃をしてくるだろう。
ピーー!
どこからか甲高い電子音が聞こえる。
加湿器だ。いや、まだ火を使っている最中だ。諦めよう。ネギも切らなくては!
ニャーーー!
猫たちがエサが欲しいと訴えてくる。
脳内でグルグル。メール、魚、副菜、猫、ネギ、加湿器……、私もグルグルバタバタ。
 
気が付いたら、七時を過ぎていた。椎名林檎もいつのまにか終わっていた。
ヘトヘトだが、なんとか家族全員そろっての晩御飯に間に合いそうだ。今宵の闘いも勝利か。
にやり。
 
皆さんは我が家の献立が何かおわかりになっただろうか。
今夜は、私の大好物「豚汁」だ。
トンジル・ブタジル、今となってはもうどちらでもかまわない。ネギを入れて追いミソをする。美味しそうにできたので満足だ。
 
熱々の豚汁を大き目のお椀によそう。美味しそうに焼けた魚と副菜も盛り付けた。
 
さあ食べよう!
「いただきまーす!」
……。
 
がーーーーん!
最大の番狂わせが!
 
ご飯が、ご飯が、ご飯がぁ!
炊けていない……。
 
午後八時、我が家の闘いは終わりを告げた。
 
 
負けたのかって? いや、負けてなどいない。なぜなら私には救世主、冷凍のご飯があった。引き分けといえるだろう。
そして何より大鍋で大量に作ったので、明日も豚汁だ。味が染みてさらに美味しくなっているに違いない。
明日こそは炊き立ての白米と一緒に食べるのだ。
勝利の喜びは翌日にとっておこう。
 
どうかこんな闘いに挑んでいる人達をいたわっていただけないだろうか。「美味しいよ」と言ってあげてほしい。食べ終わった器くらいは食器洗いに入れてほしい。
心からお願いする。
 
 
そして家族が寝静まった深夜1時頃、私は刃を研ぐ。
 
明日の闘いに備えて……
それを知っているのは二匹の猫と、今夜も闘いぬいた同志達だけ。
 
 
 
 
***
 
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