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馬場と胃袋


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:光山ミツロウ(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
百聞は一見に如かず、とは良く言ったもので、人間生きていると世の物事に対して「あぁ、それね、実際に見たことはないけど、聞いたこと(読んだこと)はあるよ」と、良く知ったつもりであったものの、実際に「それ」を目の当たりすると自分でも信じられないほどに驚いてしまう、という状況に出くわすことがあるのであって、伝聞や文章を通して「何となく」知っていればいるほど、あるいは「知ってるつもり」になっていればいるほど、その不確かな自己認識の斜め上、あるいはアサッテの方向(自分の常識の範囲外)に存在する目の前の現物にびっくり仰天し、腰を抜かすほどの衝撃を受けるものである。
 
例えば、そう、ジャイアント馬場。
 
ジャイアント馬場といえば、昭和から平成にかけて活躍した身長209cmのプロレスラーであって、私のような昭和生まれの人間にとっては、アイス菓子『ジャイアントコーン』のCMやクイズ番組への出演等から、お茶の間でも馴染みのあった人物であったが、私が小学生の頃、生まれて初めてジャイアント馬場の現物をプロレス会場で目の当たりにした時の衝撃といったらなかった。
 
「ジャイアント馬場? あぁ、実際に見たことはないけど、テレビで観てるし、もちろん知ってるよ、まぁデカいよね」
 
当時の私の認識は、ジャイアント馬場の見た目やキャラクターに関して、まさに「何となく」「知ってるつもり」だったのであって、その昔、田中康夫氏の小説に『なんとなく、クリスタル』というタイトルの作品があったが、ジャイアント馬場に対するその時の私の認識は、まさに「なんとなく、ジャイアント」という程度であった。
 
が、実際に会場で見たジャイアント馬場は、私の中のジャイアント馬場像を遥かに凌ぎ、これでもか! というほどのジャイアントさを身にまとった、衝撃のジャイアント馬場であった。
 
私が感じたその衝撃の核心は、背が高いことにではなく、意外にも顔にあった。
 
あんなにも大きな、巨岩のようにゴツゴツした人の顔というものを見たことがなかったからだ。
 
急流川下りの船頭さんなら、ベテランであればあるほど、まず間違いなく衝突を避けるために船上で身構えるほどの巨岩、といった佇まいであった。
 
「デ、デケぇ……いや、顔が」
 
手が届くほどの距離にゆったりと座ってこちらを見ている現物のジャイアント馬場を前に、私の「なんとなく、ジャイアント」は、一瞬にして「こんなにも、ジャイアント!」に変わり、友人と二人して、その場で一歩も動けないほどの衝撃を受けたことを今でも覚えている。
 
「この先には大きな岩があるから、子供は絶対に行っちゃダメだ!」と必死に止めるベテラン船頭を振り切り、友人と二人して意気揚々と、おもちゃのゴムボートで急流下りを決行したはいいものの、突如としてあらわれたジャイアント馬場という巨岩にしたたか激突、咄嗟に叫んだ「こんなにも! ジャイアント!」という言葉と共に激流に投げ出された挙句、助けを求めるもあまりの恐怖に声が出ず、そうしてやおら川底に沈みながら「あんなにも、ジャイアント……あんなにも……ジャイア……ント」という断末魔の叫びを心の中で繰り返しながら、次第に意識が遠のいていく……と、そんな心境だったように思う。
 
私が生まれて初めて、腰を抜かす、という体験をした瞬間であった。
 
まさに百聞は一見に如かず、ジャイアント馬場を知ったつもりになっていた私は、自分が何かを知る、それも本当に知るということの意味を、目の前の大男、あるいは彼の巨岩のような顔から教えてもらったような気がしたのであった。
 
それ以来、私と友人は、ジャイアント馬場をテレビや雑誌で見るにつけ、あの日あの時、目の前で見たジャイアント馬場と、画面や紙面に大人しく収まっているジャイアント馬場とを比べては、「こんなの、ジャイアント馬場じゃない! やっぱり馬場を観るなら生に限る」と、腰を抜かしたことは棚に上げ、馬場の現物を見たことのない友人らに、武勇伝よろしく言い回っては、あの日体験した互いの衝撃を確かめ合っていた。
 
あれから数十年、私の人生において、ジャイアント馬場と愉快な仲間たちの川下り事件(と勝手にそう呼ぶことにするが)に相当する出来事はいくつかあったものの、いずれも「こんなにも! ジャイアント!」と叫んだり、激流に投げ出されたりするほどのものはなかった。
 
が、つい先日、川下り事件に勝るとも劣らない衝撃の出来事があった、というのは本当で、それは他でもない、健康診断の際に判明した、自分のとある臓器に関する衝撃の真実を知った時のことである。
 
それは健康診断が全て終わり、担当医の先生の結果説明の際中に明らかになった。
 
「ち、小っさ……いや、胃が」
 
先生が操作するPCの画面上に映し出された自分の胃の画像を観ながら、私はそうつぶやいた。
 
私は全く知らなかった、人間の胃がこんなにも小さなものであったことを。
 
ジャイアント馬場の顔がベテラン船頭も怯む巨岩なら、私の胃は河原の小石だった。
 
生まれて初めて胃カメラを飲んだ私が、生まれて初めて自分の胃をこの目で見た、正直な感想であった。
 
「胃ってこんなに小さいんですか……」
 
私は思わず先生に聞いていた。
 
「えぇ、空腹時の胃は小さいですよ。人にもよるけど容量的には50から100mlくらいかな。ペットボトルの水一口分?」
 
100mlと言えば、私が酒場で飲むビールの10分の1(時に20分の1)の量ではないか。
 
実際に胃は飲食をすると最大で1.5Lから2.0Lまで膨らむのだそうだ。
 
もちろん、胃が膨らむことは、一般常識としても、あるいは暴飲暴食をした結果の自覚症状としても、何となくは知っていた。
 
が、膨らまない時の胃が(もちろん医学的に意味があるのだろうが)こんなにも小さなもの、小スペースなものとはこの目で見るまで全く知らなかった。
 
幸いにして、私の胃の内部は綺麗な桃色をしており、健康上の問題はないとのことであった。
 
が、私は全くジャイアントではない自分の胃袋の画像を見ながら、これまでの健康的とは言えない食生活を省みた。
 
「こんな小さなスペースに、ビールだのワインだの、枝豆だのチーズだの、酔いに任せて何リットルも放り込んでいたのか……」
 
胃に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 
私は長年に渡って、彼に明らかなキャパオーバーの仕事、ブラック企業どころではない労災事故ものの業務量を任せてしまっていたことに、今更ながら気づいたのであった。
 
これを機に私は、この真実を暴飲暴食への戒め、あるいは胃の働き方改革とするべく、先生に許可を得て自分の胃の写真をプリントアウトしてもらい、事あるごとに眺める等して私自身の胃に対する理解を正確なものにしようとし、それは今も継続して取り組んでいる。
 
その効果があったのか、ここ最近は暴飲はあっても、暴食はほぼなくなり、体重が激増することもなくなった。
 
「あれ、光山、締めのラーメン、食べないの?」
 
飲み友達からそう聞かれることが多くなったことも、その証左のような気がしている。
 
改めて、百聞は一見に如かず、とは良く言ったもので、私は、自分が何かを知る、それも本当に知るということの意味を、ジャイアント馬場(の顔)、あるいは胃(空腹時)から教えてもらったのであった。
 
 
 
 
***
 
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