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メディアグランプリ

過ぎ去った大学時代、自分だけの景色


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:安居 長敏(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「いつものところ。そう、あそこで10時に」
 
懐かしい声の便りに誘われるまま、岡山の地を訪れた。久しぶりの再会。嬉しさを飛び越えて、緊張感がどんどん増していく。
 
「どんな顔をして会えばいいのだろう」
 
気恥ずかしさにも似た心の動揺は、友人の期待を裏切ってはいけないという不安の裏返しだった。
 
でも、そんな心配はすぐに晴れた。まるでビデオ映像を巻き戻すかのように、当時の生活がいかに自分をさらけ出していたかを、いとも簡単に思い出すことができた。
 
振り返れば、岡山で4年間の大学生活を過ごすことなど、全くの偶然だった。
 
第一志望の国立一期校に続いて、滑り止めにしていた二期校の受験にも失敗。翌年から共通一次試験が始まる1977年度の高3受験生にとって、浪人は受験勉強をゼロからやり直すに等しかった。
 
あとがない状態で「いまからでも受けられる大学」を片っ端から探し、願書を送った。3月も終わりに近づいた受験日。すでに進路が決まったクラスメイトに半ば嘲笑されながら、大学キャンパスのある岡山へ向かった。
 
初めて降り立った岡山駅。山陽新幹線が開通し、関西資本がどんどん押し寄せ都市化していく中で、周囲のビル群や派手な色彩の看板に道行く人がまだ馴染んでいないような、そんな奇妙な感じが第一印象だった。
 
試験はスーパーの特売品のような扱いで、すぐに合格通知が届いた。「こんな決め方で良かったのか?」と一瞬迷いがよぎったが、ここで後戻りするわけにはいかない。
 
下宿を探し、最低限の荷物を両手に抱え、入学式前日に引っ越した。『ときわ荘』という名の学生アパート、何もない3畳一間の角部屋で岡山生活が始まった。
 
その時はまだ、この地であれほどまでに自由を謳歌し、日々、大人への階段を上るような毎日が過ごせるとは、想像さえしていなかった。
 
実際、岡山での大学生活は楽しく、思った以上に充実していた。“感覚即行動”なんて言葉がピッタリくるような、キモチとカラダが一体化したような毎日で、目先の損得や将来の自分なんて全然、気にならなかった。時間でさえ、意のままになるような錯覚があった。
 
まわりにいる仲間も、みんな地元を離れて暮らす孤独な存在。帰るところは自分の心しかないから、誰もが素手で身をつなぎ、裸で心を通い合わせることができた。
 
飲み過ぎて、見ていられないような醜態をさらしたこともあったし、「よくもあんなことを」と思えるような身の程知らずの冒険もあった。でも、そんな一つひとつの経験すべてが、今の考えや行動の奥深くにしっかり根を張っている。
 
弱音を吐きたくなった時、その頃の自分の姿を思い出せば自然と力が湧いてくるような、そんな心の支えとして、僕の、そして仲間のココロの中に深く刻み込まれている。
 
単に、懐かしいからあの頃の生活に戻りたいとか、自由で楽しかったからもう一度ということじゃなく、「あの頃の自分は、あれだけのことをやれたんだ!」という、経験に裏付けられた自信。
 
結果オーライ。
ほんと、人生って面白い。
 
あの通りの角の、あのビルの地下の・・・・・・。
 
4年間という、限られた時間しか生活していない場所だったのに、訪れる度に当時の自分を思い出させてくれる景色がたくさんある。
 
今回も、聞き覚えのある声で「いつものところ」って言われた時、その店の小さな木の扉を開けて入っていく自分の姿が、まるで現実の情景のように脳裏を駆け巡った。
 
店の名を『白樺』という。初老の域にさしかかった夫婦が慣れた手つきでコーヒーを淹れてくれる、小さな喫茶店。表町(おもてちょう)と呼ばれる、京都でいえば京極(きょうごく)のようなアーケード街の一歩裏通りを入ったところにあって、昔ながらの木の香りのする、お気に入りの場所だった。
 
ビルの隙間にちょこんと建っているような感じで、中に足を一歩踏み入れた時のやわらかな温もりが好きで、よく足を運んだ。壁やテーブルに刻まれた落書きに、ずっと以前から自分と同じような気持ちでこの椅子に座った人がいたんだなって、いつしか僕の指定席になった。
 
そういえば、この店で憧れの先輩と時間を忘れて話し込んだことがあった。一人で物思いに耽る場所が、その時を境に「誰かとゆっくりと話す場所」になったことも懐かしい。
 
そんな、岡山で観た、たくさんの「景色」。もちろん自分だけのものではないし、多くの人たちの生活が、そこにはある。4年間の自分の存在なんて、通り過ぎた一瞬の風に過ぎない。
 
でも、僕にとっては、誰が何と言おうと「自分だけの景色」だ。
 
過去を振り返る時、それがどんなに辛く苦しいことであっても、思い出として語れば美しい言葉で埋め尽くされてしまう。悪いことはすべて消え去り、あるいは良かった経験として上書きされ、心の中に蓄積されていく。
 
あの頃に戻ってやり直したいといっても、それは無理な話。あくまでも、過去は自分の心の中で生き続けていく。
 
だからこそ“今”を大切に、かけがえのない人生を全力で歩んでいかなければ申し訳ない。
 
久しぶりの再会で、改めてそう思った。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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