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メディアグランプリ

120万かけてコンプレックスを克服した話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤崎奏(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
女性、独身、会社員。今までの人生で一番高い買い物は、歯科矯正だ。正直、プチ整形なんかよりもえぐいことをやってると思う。親からもらった身体の一部を引っこ抜いたり、力業でぐいぐいずらしたりしているんだから。二重術なんてかわいいもんだ、と美容外科のCMを見ながらよく思う。
 
ずっと歯並びの悪いことがコンプレックスだった。私の顎は規格より狭いらしく、そもそも下の歯は一般成人より2本少ない。上の歯は何とか頑張って全部生えてきたが、場所が足りず、前歯が2本ぴょこんと前方へ飛び出していたのだ。
 
小学校の時、友達と一緒に、廊下に張り出された遠足のスナップ写真を見ていた時にこの事実に気付いた。「あれ? 私の歯、他の子より出てない?」こっそり舌で前歯の裏側をなぞって確かめた。そして、私は写真が嫌いになった。
 
別にそれが原因で悪口を言われたこともないし、好きな男の子に振られたこともない(多分)。でも、「私は歯並びが悪い」という事実はずっと心に潜伏していて、ふとした時に私を卑屈にした。
一度だけ、母親に「矯正したい?」と聞かれたことがあった。前歯はひっこめたかったけど、それと引き換えにあのギラギラしたものを口にくっつけて生活するのは怖くて、私はチャンスを逃した。
 
 
そんな私が矯正を決意したのは、社会人になってから。幼馴染のウェディングフォトを見ていたら、唐突に「この子、歯並びきれいだな……」と思ったのだ。もしいつか結婚式というものを挙げるなら、私もきれいな歯できれいに笑いたい。そう思ってしまった。そしてその想いは、「コンプレックスがなくなれば人生は変わる」という希望とも相まって、仕事も恋愛も停滞していた当時の私の背中を押した。
 
こうして私はリサーチを始めた。
まずはネットで情報収集。おそらく2本は抜かないといけないな……短くても2~3年もかかるのか……相場は100万円くらい? たっかいけど貯金でどうにかなるかな……等々。
さらに、同じく社会人になってから矯正をした友達にアドバイスをもらった。「5年間通える歯医者を選べ」彼女は即答した。「まず、家から近い所をピックアップしてカウンセリングへ行け。そして、一番相性の合う先生のところにしろ」
彼女曰く、費用は結局そんなに差がないらしい。上手いかどうかは始めてみないとわからない。なので、通院を途中で挫折しないよう、相性のいい先生を探すことが第一優先とのことだった。確かに、私は人の好き嫌いが激しいので、嫌いな先生だと途中から行かなくなる可能性がある。
 
それから友達のアドバイス通り、家から近い矯正歯科を3軒ピックアップしてカウンセリングの予約を取った。
 
一軒目。「あー……これは治したいよねぇ」優しそうな先生は、私の歯をみるなり、気の毒そうにそう言った。今冷静に考えると理不尽なのだが、私はここで(心の中で)ぶち切れた。「は? 私の歯並びが悪いってこと!? なんて失礼な!」……自分から相談に来ておいてあんまりである。頭ではわかっている。でも瞬間的に怒りが湧いてしまった。相性とはそういうものである。この先生はNG。
 
二軒目。この先生は、気の毒そうに私の歯を見たりはしなかった。まずはクリア。そして、施術の方法と費用の話になった。ちなみに私は、歯の裏側に器具を付ける裏側矯正(舌側矯正)を希望していた。なるべくゴテゴテギラギラした器具を目立させたくなかったのだ。その希望は予約時に伝えてあったのだが、なぜかこの先生は、器具を歯の表に付ける表側矯正をゴリ推ししてきた。「裏側は120万、表側は60万だよ! 半額だよ、半額! それなら表側でやって、余ったお金でハワイ行った方がいいでしょ~?」「そうですね~」とにこにこ答えながら、私はまたもや(心の中で)ぶち切れていた。「は? 一週間のハワイ旅行より2年間の矯正生活の方が断然重要なんだが?! お前の価値観は聞いてない!」……もちろんここもNGである。
 
三軒目。その先生は私の話を適当に聞いて、それから世間話を始めた。どこに住んでるの? 休みの日は何をしてるの? 運動は好き? 等々。30分くらい話して、突然、「うん、あなたなら受けましょう!」と言ったのである。何を言っているのかわからなかったが、よく聞いてみると、彼も私との相性を見ていたらしい。「裏側矯正って大変なのよ。費用も高いけど、その分処置も面倒なの。だから、『この人なら大丈夫』って確信が持てない人にはやらないようにしてるのよ。途中で止めちゃったら無駄になるでしょ。でも、あなたはなんか大丈夫そうだからやりましょう」
何のことはない、こちらもジャッジされていたのだ。あまり気持ちの良い話ではない。でも、先生があまりにあっけらかんと話すので、私もなぜかすっと受け入れてしまった。相性とは、そういうものである。
 
それが、今から4年半前の話。そこから私は歯を抜き、ギラギラの器具をこっそり歯の裏側にくっつけて生活した。痛かったり面倒だったりは山ほどあったが、挫折せずに通い続けた結果、私の前歯は無事まっすぐになった。自分の写真を見るのがちょっとだけ好きになった。
 
 
私は120万で、コンプレックスを克服した。ただ、これで人生が激変したかと言うと、正直そこまでではない。相変わらず結婚式の予定はないし、仕事もコツコツ地道に重ねてきた実績があるだけだ。「コンプレックスがなくなれば人生は変わる」というのは残念ながら幻想だった。パワースポットを巡り続けても、それだけでは幸せにはなれないように。
 
でも、失望することはない。大切なのはきっとこれからだ。私はこれからこの歯で、酸いも甘いも噛みしめて生きていくのだ。そしていつか、きれいに笑って写真を撮ろうじゃないか。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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