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メディアグランプリ

シャイな農家さん


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:齋藤由佳(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
「トマトは水もあげないんです」と彼は言った。
私がこの農家さんと出会ったのはもう5年以上前。マルシェに行った時だった。能登半島から片道13時間以上かけて軽自動車に乗り、一人で野菜を売りに来ていた。
 
彼の作る野菜には、不思議な力がある。野菜を食べて作り手の個性を感じるのは初めてだった。この野菜は、地味だけど、力強さを内に秘めた野菜だ。多くのお店が立ち並ぶマルシェで、なぜか引き寄せられるように彼と出会い、その野菜のファンになった。
 
でも、マルシェという舞台に立つと彼の作る野菜はどうも売れない。サイズも小さく、見栄えがしない。なぜかというと、彼の作る野菜は「自然農法」と言って農薬も肥料も一切与えない。その土地の土と水で作られる。「自然栽培」という自然相手の生産方法で作るため、生産量が少ない。また、スーパーで売られているような綺麗な形の野菜でもないし、サイズも小さい。だから他のお店と並んでしまうと彼の野菜は選ばれにくいようだ。
 
しかし、そんな彼は笑顔で言う。
「今日も売れませんね」
 
私は疑問に思った。能登半島からわざわざ13時間以上もかけて野菜を売りに来ているのにたくさん売ろうという気がなかった。そんな彼に私は聞いてみた。
 
「どうしてそんなに笑顔でいられるんですか」
すると彼は、
「東京なら自然栽培の野菜に興味を持ってくれる人がいるかもしれない」と言った。
そして、自分自身がなぜ農家を始めたのか話をしてくれた。
「僕は、東京でデザイン会社を立ち上げて仕事をしてたんです。 でも、会社を潰しました。そんな中、地元に戻った時に家族に食べさせる食べ物を見直したときに思ったんです。 家族には変なものは食べさせたくない。 だから脱サラして農家を始めました。 でも、なぜか一番大変な自然栽培農法を選んでしまいました」と笑って話してくれた。
 
この一言で私は彼が作る野菜を応援しようと決意した。それから彼がマルシェに出店するときには必ず足を運んだ。私は、自然とお店の販売のお手伝いをするようになった。ある日、その不思議な野菜に引き寄せられるように一組の親子が野菜を眺めていた。
「自然栽培で作ったお野菜は、いかがですか?」と私は声をかけた。
そこで私は、試食用のミニトマトを差し出した。
「このミニトマトは味が濃くておいしいので、ぜひ食べてみてください。 このミニトマトは、カラフルで味がそれぞれ違うんですよ」
 
すると、小さい手が私の前に伸びてきた。
「ちょうだい」と男の子は言った。
そんな息子の姿にびっくりしたお母さんが私に
「息子はトマト嫌いで食べないんです」と教えてくれた。
思わず、男の子に
「トマトだけど、食べれる?」と聞いてみた。
男の子は「うん」と言ったので、「何色のトマトがいい?」と聞くと
「これがいい!」と言って黄色のミニトマトを頬張った。
「美味しい?」と私は尋ねてみた。
すると、男の子は恥ずかしそうに答えた。
「うん。 美味しい!」
そんな姿にお母さんは微笑みながら、息子が気に入ったミニトマトを購入してくれた。
 
そして、彼はお母さんに話し出した。
「僕が作るトマトは、水をほとんどあげません。少し過酷な環境かもしれませんが、その分野菜たちが応えてくれて味の濃い野菜になるんです。肥料も農薬も与えない。土の栄養だけで野菜ができるんです。本当の野菜のおいしさを味わってください」
 
「ありがとう」と言って親子は帰って行った。
 
不思議なことにトマト嫌いの男の子がなぜか彼の野菜でトマト嫌いを克服した。これは不思議な話に聞こえるが、大人より子供の舌は敏感である。ほしいという欲求に素直であり、本当に自然で美味しいものは素直に美味しいと言えるのだ。
 
私は彼に出会うまで普段手にする野菜の作り方など考えたこともなかった。同じ値段であれば大きい野菜をと思って選んでいた。しかし、野菜の作り方、野菜の作り手によって同じ野菜でも味わいが変わることに気づいた。野菜の選び方が変わり、そして買物は応援できる手段であることに気づいた。同じ野菜を買うのであれば彼が野菜を作り続けてもらえるように応援したくなった。買い物は応援である。同じお金でも使い方でこんなに嬉しい買い物になることに気づけたのだ。
 
でも、そんな彼が家庭の事情で農業を一時離れてしまう。大好きな農業と今まで作っていた畑ともしばしのお別れだという。その野菜を食べれないと思うと寂しくて仕方がない。「自然栽培」という難しい農法に一人で挑戦し、猪に食べられても笑顔で「また来年作ります」とポジティブに話してくれるシャイな彼の顔が思い浮かぶ。
そして、毎年味わいが深くなる野菜を食べると彼が野菜に対してひたむきに向き合っていることがわかる。地味だけど、野菜が持つ本来の力強さを秘めたパワーのある野菜である。彼の秘めた思いが野菜の味に伝わる。
そんな彼の作る野菜がまたいつかマルシェに戻ってくる日を心待ちにしている。
あの小さな軽自動車がやってきたら私はまた彼を応援し、野菜を購入する。また笑顔で再会できる日を……。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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