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無表情をどう捉えるかは自分次第


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北江りな(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
雛人形が、怖かった。
笑ってるのか泣いてるのか分からない、あの絶妙な表情。
日本人形の怪談が流行っていたことも影響しているかもしれないが、
3月が近づくと押し入れから出てくる、あの雛人形が不気味で怖かった。
 
部屋が狭いくせに、それはそれは大きい7段の雛人形フルセットが家にはあった。
家は借家で狭いから、置く場所がない。
だから、普段布団を敷いて寝ているところに、雛人形を飾っていた。
その代わり、人間たちは廊下で寝る。
そこまでして雛人形を飾る意味なんてあるのか、と子供ながらに思っていた。
 
だが、親曰く、「女の子だから」という、納得できるんだかできないんだか、よく分からない理由で、雛人形を飾り続けた。
そして、私たちは毎年廊下に寝続けた。
不気味な表情の雛人形を見上げながら。
 
夜中にトイレに行くとき、必ず雛人形の前を通る。
なるべく見ないように、そそくさと通り過ぎる。
でも怖いもの見たさに、一瞬目を向けると、やっぱり不気味だった。
整然と並ぶ雛人形たちは、何も言わず、ただ、佇む。
そこだけ気温が2度下がったかのように、空気が冷えているようだった。
 
ひなまつりの歌も、嬉しいんだか悲しいんだか、何とも言えない曲だ。
今日は楽しいひなまつり~
と歌いながらも、短調の響きからは物悲しさを感じる。
 
雛人形と言い、ひなまつりの歌と言い、
嬉しさ半分、悲しさ半分、なんとも不気味な行事だ。
 
 
「流し雛」という行事を知ったのは、大きくなってからだった。
あの雛人形を川に流すのか? と不思議に思ったが、紙で作った雛人形を流す、とのこと。
自分の身代わりとなってもらい、健やかな成長や、無病息災を願うという行事だ。
たしかに、雛人形は女の子のお守りだと聞いたことがある。
紙で作った雛人形なら、まだ怖くないだろう。
ある年、その流し雛を体験してみることにした。
 
その日は快晴だった。
まだ少し寒さを感じるが、春の風が吹いていた。
小川の側を歩くと、水の音が心地よい。
穏やかな気持ちで、会場にたどり着く。
子供連れがたくさんいた。
中には着物を着ている女の子の姿も。
華やかな色合いが、春らしい。
 
流し雛を、購入する。
やっぱり無表情である。
でも、和紙で作られているからか、どこか穏やかな顔つきだ。
短冊に願いを込めて、筆を走らせる。
色々と願い事はあり、煩悩だらけの自分ではあるが、無病息災、と願いを込めた。
紙でできた雛人形に、願いを託した短冊を添える。
 
川をゆっくり流れていく雛人形たち。
暖かい春の風と共に、穏やかな表情で進んでいく。
この時、不気味だと思っていた雛人形の顔は、実は嬉しくも悲しくもない表情なのだ、という気がした。
川の流れに身を任せ、全てを受け入れたような、その表情は、見る者によって感情が変わる。
まるで仏像のように、悟った顔なのだ、と感じた。
 
 
人は、白黒つけたがる生き物だと思う。
自分にとって得体の知れないものは、敬遠しがちだ。
幼かった私の感情の選択肢は、喜びか悲しみの2択しかなかった。
悲しくも微笑むような、全てを受け入れた表情というのは、理解ができなかったのだ。
だが、大人になって、その微妙なニュアンスを理解できるようになった。
白黒、ではなく、グレー。
 
流し雛が、小川をゆっくり流れていく姿は、
日々の苦しさや悲しみを、まるごと受け入れて、川のように、ただ、まっすぐ穏やかに進んでいくようだった。
 
それから家に帰り、
今までは薄目でしか見ていなかった雛人形を、ちゃんと、見た。
幼い頃は、ただ怖いと思っていた雛人形にも、深みのある表情が見えた。
喜んでいるような、悲しんでいるような、
それは慈しみ深い表情だった。
 
こんなに、まじまじと見たのは初めてだった。
何十年間も、この雛人形に守られていたのだな、と思う。
大きくなるにつれ、雛人形を飾らない年もあった。
今では、あの廊下のひんやりとした寝心地も、不気味に佇んでいた雛人形も懐かしく思う。
そんな時でも、押し入れの中からそっと見守ってくれていたんだろう。
 
今年は、久しぶりに雛人形を飾った。
懐かしさもあるが、昔よりは大きく感じなかった。
私自身も大人になったからだろうか。
一体一体、丁寧に持ち上げる。
小さな扇や、小さな楽器を、丁寧に飾りつける。
笛や大太鼓、小太鼓、小さな楽器たちは、とても精密にできている。
 
あぁ、この小さな楽器たちが、ひなまつりの歌を奏でていたのだろうか。と、ふと思った。
楽しいと歌っているのに、物悲しい旋律にも、納得ができた。
白黒ではなく、グレー。
この旋律もまた、色々なものを受け入れた上で流れていく、小川のせせらぎのようだった。
 
不気味だと思っていた行事は、実は、穏やかで美しいものだった。
今年も無病息災を願いながら、丁寧に雛人形のほこりを払う。
その表情は、穏やかに微笑んでいるように、私には、見えた。
 
 
 
 
***
 
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