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メディアグランプリ

人生のスパイス


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本麻代(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
その出会いは雷に打たれたようなものだった。人生における衝撃度、第二位である。Instagramで初めて補聴器デコチップを見た時、トキメキと興奮の大洪水であり、しばらくニヤニヤ顔が止まらなかったものだ。ちなみに第一位は初めて補聴器を付けて、補聴器を通して音を感じた時である。私には聴こえないが、この世界には「音」 というものが存在していて、それを振動で感じた瞬間、一気に凹凸のある、立体的な世界に変化した衝撃を今でも忘れられない。
 
ところで、補聴器デコチップ、名前だけ聞くとどんなものをイメージするであろうか。補聴器をデコる、ということはイメージできても、あの補装具に一体どのように? ネイルのように塗ってしまうの? ネイルシールを貼るの? はてさて?
 
補聴器デコチップは東京にある「HAデコチップキタムラ」 さんが開発された、ネイルチップのようなものである。補聴器の側面の型のチップを作り、そのチップにネイルのようにデザインしていくのである。補聴器はメーカー、さらにはモデルによって形も大きさも異なるため、チップひとつひとつが手作りである。何よりもキタムラさんご自身が認定補聴器技能者、つまり補聴器のプロであるので、精密機器である補聴器の性能のことを加味し、デコチップを付けることで音にも影響がないか何度も精密検査を繰り返した上で製作されているので、補聴器ユーザーも安心して使うことができる。
キタムラさんは「補装具だから地味に、なんてもう古い!!明るくポジティブに使っていきましょう♡」 そんな想いで、補聴器をおしゃれにするデコチップ制作に関わっていらっしゃる。その想いに触れた時、補聴器をただの道具と扱っていないということに、ただただ感動した。
 
私にとって補聴器デコチップは人生のスパイスである。
 
補装具をおしゃれに。
今でこそ、補聴器、車椅子、杖、眼鏡など、カラーのバリエーションが増え、多様なデザインもできたが、その昔はとにかく地味の代名詞じゃないかと思うほど地味であったのではないだろうか。
 
補聴器と言えば、難聴になった人が使う福祉機器である。私が初めて補聴器付けたのは小学校に上がった頃だろうか。その頃の補聴器のカラーは全て肌色だった。少し明るい肌色、暗い肌色、濃い肌色。色合いが違うだけで、どのメーカーも、どのモデルも肌色。何故か。できるだけ耳と一体化して、目立たないように、というものだったようだ。補聴器が見えると恥ずかしい、など以前は目立たないようにすることがベターだったのだろうか。
 
しかし、かわいいもの、キレイなものが大好きな私はそれが不満だった。毎朝補聴器をつける度に、「……」 無になったものである。朝からテンションだだ下がりの小学生。「もっとキレイな色だといいのになぁ……」 そう心の中で呟いていた。
 
月日が流れ、大学生になったある日。補聴器屋さんで補聴器を定期メンテナンスしてもらっていた時、新発売の補聴器が展示されていて、何気なく目をやった。と、その瞬間、目を見開いた。
 
「んんんん?!?!」
 
色とりどりのカラーの補聴器。スケルトン、白、赤、青、黒……。
心臓がドキンドキン、目がキラッキラとしてくるのが自分でもよく分かった。メンテナンスから戻ってきた補聴器そっちのけで、なじみの店員さんにぐいぐい詰め寄る。
 
「あれ、何?!?!」
 
興奮しすぎてタメ口の私。
 
「え?あぁ、あれね。補聴器本体のカバーで、カラーができたんだよ。麻代ちゃんの今の補聴器ならカバーだけの交換もできるよ」
 
「やる!!!!」
 
迷わず、スケルトンカバーを選んだ。スケルトンなので、補聴器の中の精密機器が丸見え。クールでかっこよく見えた。何より、スケルトンカバーの補聴器を付けている人を見たことがなくて、世界にひとつだけの、自分だけの補聴器になったようで、とても誇らしく、嬉しかった。
 
「聴こえないからこんなかっこいいものを付けることができるんだぞー!!」
 
自分だけのもの、というパワーはなんと計り知れないことか。
できるだけ補聴器は目立たないように、と思っていた親は私の耳にかかっているスケルトンの補聴器を見て、言葉なく、ため息をついていた。私は障害を隠して育てられてきて、補聴器ももちろんヘアバンドなどで隠して生きるようにされてきた。難聴があっての私なのに、難聴の私は受け入れてもらえなくて苦しくて、でも親を困らせたくなくて、我慢してきた日々。スケルトンカバーの補聴器は初めての、私なりの自我の主張だったかもしれない。補聴器はモノではあるが、単に便利な道具というものではなく、私の身体の一部であるし、アイデンティティでもある。そんな小難しい話ではなくとも、毎日身に着けるものなのだから、好きなデザインのカバンを選ぶように、自分の気持ちが上がるものを選べるようになったことがとにかく嬉しかった。
 
キタムラさんの補聴器デコチップはこだわりたくて、オーダーメイドで作っていただいた。キタムラさんは、「自分の名前の一文字でもある麻の模様を使って、《ときめく美しさ》をデザインしてほしい」 という漠然としたイメージからどんどん形にしてくださり、世界でたったひとつの私の補聴器デコチップが初めて完成した。
 
補聴器としては何も変わらないのに、ほんのひと振り、補聴器デコチップを付けただけで、一気に私の世界が彩り、より香り豊かな世界となった。朝起きて、補聴器を付けるのが嬉しくて、ニヤニヤが止まらないのである。これを人生のスパイスであると言わずして、なんと言えよう。
周りの、補聴器を見る目も明らかに変わり、「補聴器を付けている大変そうな・かわいそう人」 から「キレイ!かわいい!おしゃれな人!」 そんな目に変わった。
そうでしょう、そうでしょう。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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