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メディアグランプリ

喧騒を抜け出して、神々が宿る島へ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:レティシア(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
きっかけはサウナだった。
 
壱岐の貸切サウナがオープニングキャンペーンをしていると知り、そういえば壱岐行ったことないや、九州に来て20年近く経つのにな、と。
 
仕事をやりくりして休みを取り、1泊の予約を入れたものの、先月から会議、会議の連続で、それに関する雑事が山ほど。しかも、もうすぐ確定申告。こんな時期に2日も休んで大丈夫なのか……?
 
迷っているうちに、無料キャンセル期間が過ぎた。
 
これは、なんとしても行かねば。延ばせる仕事は全て延ばして、どうにか決行にこぎつけた。
 
博多港から高速船で1時間。思っていたより近い。けれど、出航して、視界の端から端まで水平線という状態になると、にわかに不安が襲ってきた。
 
島に渡るということは、容易に戻れないということだ。緊急の事態が起ころうとも。
 
そして、私は泳げない。海に投げ出されたら終わりだ。映画タイタニックのクライマックスが頭に浮かぶ。しかし、見当たす限り、浮き輪の代わりになるようなものはない。
 
いや待て。その時のための救命胴衣。しかし、3月とはいえ海水は冷たかろう。ディカプリオが脳裏に浮かぶ。凍えて沈んでいくのか、この海に。
 
しかし、海は凪いでおり、九州に氷山はないことに思い至る。
 
定刻に船は壱岐に到着した。
 
港の観光案内所でもらったパンフレットで、壱岐は150以上もの神社がある「神々の宿る島」だと知る。面積が約140平方キロメートルなので、すんごい密度である。
 
近くのお店で海鮮丼をいただき、「壱岐神社」にお参りする。おみくじを引くと「吉」だったが、「旅行:利なし。行かぬが吉」。……神様、そりゃないぜ。
 
気を取り直して「小島神社」に向かう。
 
天照大神の弟スサノオノミコトや、イザナミノミコトをお祀りしている小島神社は、干潮時のみ参道が現れるため「壱岐のモン・サン・ミッシェル」と称されている。
 
干潮までだいぶ時間があったが、せっかくなので行ってみようとバスに乗り、最寄りの停留所で降ろしてもらう。運転手さんに聞いた道をカートを引いて歩いていたら、地元のおばちゃんと目が合った。
 
「こんにちは」と挨拶すると「小島神社に行くなら、車で連れて行ってあげるよ」との申し出。「ありがたいですー!」と即答すると、「ちょっと上がってお茶飲んでいかんね」と玄関に招き入れられた。福岡にいる息子さんの話を聞きながら、ふかしたお芋をいただく。こういう出会いがあるのが、一人旅の醍醐味だ。
 
到着すると、参道があった。たまたま潮位が低い日で、早くに潮が引いていたようだ。
「お参りできてラッキーだったね」とおばちゃん。いや、おばちゃんと会えたことがラッキーだよ。
 
別れ際、おばちゃんは「幸せにね」と見送ってくれた。訳アリの女に見えたのだろうか。ありがとう、おばちゃん。幸せになるよ。
 
再びバスに乗り、目的のサウナに向かう。
 
老舗旅館をリノベーションしたゲストハウスにチェックインし、階段を登ると、できたてピカピカのサウナがあった。サウナをひとりじめできるなんて、なんという贅沢。
 
サウナで火照った体を水風呂で冷やし、漁港を見下ろしながらととのう。遠くに野鳥の声。おばちゃん、今アタシ、最高にしあわせだよ。
 
夕食に、壱岐の魚を柚子の香りのビールでいただく。地元のブリュワリーが壱岐の柚子を使って醸造したもの。お酒が強ければ全種類制覇できたのにと、くやしい。
 
ほろ酔いで、近所を散歩する。
 
潮の香りを時折強く感じる。イカ釣り漁船が停泊する漁港はひっそりと静まり返っている。シーズンにはまだ早いのだろう。
 
海沿いの家は、漁師さんたちのお宅だろうか。灯りは漏れているものの、人の声もテレビの音も聞こえてこない。時折車が通りすぎるが、人影はない。深夜の佇まいだが、時計を見るとまだ8時。
 
狭い路地を入ると、格子戸の民家が立ち並んでいる。ゆるやかに蛇行する道を挟んで、同じ苗字の表札が複数かかっているのに気が付いた。島の人口は2万5千人。きっと姻戚も多いのだろう。
 
高齢化が進むこの島でも、島で生まれた若者たちは、島で恋をする。それは、都会の恋とはずいぶん違っているはずだ。親も祖父母もみな顔見知りで、子どもの頃の細かなエピソードまで共有される小さな町で、若者たちは何を思うのだろう。どんな思いで島を離れ、あるいは島に残るのだろう。
 
夜の路地を歩きながら、そこにある暮らしに思いを馳せる。私の場所ではない旅先で、私の暮らしを思う。私もちゃんと生きなきゃなと思う。
 
宿に戻り、読みかけの小説を数ページめくったところで、深い深い眠りに落ちた。
 
翌日。
 
遊覧船で、エメラルドグリーンの海を満喫したあと、バスで港に向かった。
 
いい旅だった。おみくじは外れていた。細胞の隅々まで洗われた気がする。
捨てる神あれば拾う神あり。きっとどこかの神様が、情けをかけてくれたに違いない。
 
グッバイ、壱岐。神々が宿る島。
今度は夏に来る。レンタカーを借りて、くまなく島を巡ってみたい。
 
帰りの高速船では、出航するなり眠ってしまった。タイタニックの夢も見なかった。
 
そして私は日常に戻った。
雑事に追われ、呼吸が浅くなった時には、あの島のことを思い出そうと心に決めて。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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