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定年退職するおじさんと秘密の本


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本三景(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
あれはまだ去年の夏のことだ。
会社帰りにふと物産展に立ち寄った。
15分ぐらいふらふらしていたが、結局買いたいものがなく、何も買わずに帰ろうとしたとき、偶然会社の先輩に出会った。
こんな偶然は滅多にないので、私たちはお茶をすることにした。
 
「そういえば、もうすぐ部長が定年退職する日ですね。なにか贈り物をするんですか?」
 
私が以前、所属していた部署の元上司が1週間後に定年で会社を去る。
かなり適当な人だったので、「高田純次」のような男と呼ばれていた。
役職はもうはずれていたが、私がいた頃はまだ部長だったので、部長という役職呼称をここでは使うことにする。
長い間お世話になった上司である。
物産展で会った先輩は、私が部署を異動した後も部長と同じ部署だったので、何か贈るつもりであれば混ぜてもらおうと思い、きいてみた。
 
「実は、物産展に行く前にプレゼントを買ってきたところだったの」
 
そう言って、先輩は買ったものをバッグから取り出した。
それは、赤と青の絵の具だった。
 
人にプレゼントを贈るときは悩むものだ。
友人なら好みを把握しているので選びやすいが、対象が会社の人となると難しい。
今までの会話等のやり取りの中から、その人の趣味嗜好を推理していく。
お菓子等の食べものが無難であるが、女性であれば喜ばれる率は高くても、男性となると、ほぼ家族が食べることになる。たぶん。
もちろん、気持ちだけで十分伝わると思う。
 
定年退職する元上司は、絵を描くことが好きで、アトリエを持っているときいたことがあった。
絵の具のプレゼントは贈る相手のことを考えた素敵な選択だと思った。
 
「いいと思います! 絵を描くのが趣味だときいたことがあるし、絵の具はなかなか思いつかないですもん」
 
すると、先輩に絵の具を渡された。
「一緒にあげない? 絵の具に何か足して贈るのはどう?」
 
断る理由はなかった。
「じゃあ、私も何か考えて買うので、絵の具と一緒にプレゼント用に包んでおきますね」
 
こうして私は先輩のプレゼントを預かり、定年退職するおじさんへの餞別の品を考えることになった。
 
実は、絵の具をみて思いついたことがあった。
私は原田マハの『楽園のカンヴァス』という小説を思い浮かべていた。
アンリ・ルソーの絵をめぐる美術ミステリーだ。
現代から17年前の過去の時代へ、そしてルソーやピカソが生きる1906年のパリへと時代が交錯する。
 
部長はかなり本を読む人だった記憶がある。
本のプレゼントはどうだろうか。
 
しかし、本好きへの本のプレゼントはかなりハードルが高い。
以前、本を貸してもらったことがあるが、貸してくれた本が村上春樹の『1Q84』とジョン・クラカワー原作のノンフィクション『荒野へ』だ。
『荒野へ』は『イントゥ・ザ・ワイルド』という映画のほうが有名かもしれない。
裕福な家庭に生まれた青年が、自由を求めてアラスカへ旅立ち、死体でみつかる。その青年はなぜ死んだのか……
 
貸してもらった2冊から考察すると、幅広く読んでそうだ。
『楽園のカンヴァス』は有名な本なので、既に読んでいるような気がした。
 
でも、絵の具と一緒に贈るにはぴったりな1冊な気がする。
しかし、「読んだことありますか?」
なんてことは本人にききにくい。
 
「名古屋に天狼院ができたんだって? あそこの人たちはかなりの読書量だよ」
 
名古屋に天狼院書店ができたばかりの頃、東京の友人が言っていた言葉を思い出した。
そのときは「そうなんだ」としか思っていなかった。
 
その書店に行けば、何か見つかるかもしれない……
 
そう思った私は、去年の夏に初めて天狼院書店を訪れた。
 
初めて足を踏み入れた書店は想像していたより小さかった。
イートインスペースもあって居心地はよさそうだった。
一応本を物色している様子をみせながら、いつ店員さんをつかまえようかと虎視眈々と狙っていた。
 
「すみません。今度定年退職する上司に本を贈ろうと思うんです」
 
私は店員さんに声をかけた。
そして、贈るに至った経緯を店員さんに打ち明けた。
店員さんは大学生ぐらいの青年で、私の話を親身になってきいてくれた。
 
「天狼院の秘本というものをご存知ですか? タイトルは秘密で開けるまでは中身がわからない本があるんです」
 
ここで初めて『秘本』なるものを紹介される。
現在は全部で12代目まであるが、その当時は11代目まであった。
漫画もあれば、規格外の大きさの本もあった。
 
開けてみなければわからない……
 
それは素敵かもしれない。
わくわく感もお届けできる。
 
私は大きさ的にちょうどいい、9代目の本を手に取った。
どんな本だろうか。
すると、店員さんが9代目の本について話してくれた。
 
「僕、この前9代目を読みました。夜中に読んでいたんですけど、ページをめくる手がとまらなくて……涙もとまりませんでした」
 
こんな若い青年にそこまで思わせる本とは一体……
 
「これにします」
私は9代目を手にとり、購入した。
 
そして、1週間後、絵の具と本2冊が部長の手に渡った。
青色の絵の具は好んで使う色だったらしく大成功だった。
本はどうか……
 
『楽園のカンヴァス』はやはり読んだことがあった。
しかも読書記録をつけているほどの読書好きであることが判明。
ただ、自分で買ったわけではないし、読んだのはだいぶ昔のことになるのでもう一度読み直してみるとのこと。
 
そして、9代目の『秘本』はというと……
 
退職された後、私あてに伝言が託された。
その作家の本は何冊か持っているけれど、この本は読んだことがなかったと。
 
そして一言
「いただいた本読みました。とてもいいお話でした」と。
 
私は密かにガッツポーズをした。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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