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メディアグランプリ

矛盾編集者


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:精神疾患者(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
文章が理解できなくなった。文字や単語は認識できても、文章になるとその内容が頭に入ってこない。日本語のはずなのに、知らない外国語を読んでいるような感覚だ。ぼやけて、脳が疲れて、結局わからないまま。
 
4年前、どうしても本を作る仕事に携わりたくて、新卒で入った会社を辞めた。未経験でフリーランスのライター・エディターと名乗り、運良く書籍編集を手伝う機会を手にした。編集協力として奥付に名前が書かれた一冊の筋トレ本だけを武器にして、出版社に営業をかけ続けた。なんとか飢えないだけの仕事にありつけて、とうとう出版社に中途入社することができた。
 
そこでうつになった。
 
どうやら毎日同じ時間に出社することが私にはできないらしい。社会不適合者だったのだ。
出版社での仕事はハードだがやりがいはあったし、上司や同僚がいじめてくるなんてこともなかった。それでもうつになってしまった。ついでに文章を理解できなくなった。
 
編集者にとって、著者やライターから届いた原稿を確認することは、基本的な業務だ。誤字脱字に気づくだけでなく、内容や文体にも注意を払って、赤字を入れていかなければならない。会社に行けなくなる直前、本当なら3時間でさらえるはずの原稿を、9時間かけても読みきれなくなっていた。読めたと思っていた部分も、単純な誤字に気づけないありさまだった。
 
いつか先輩に編集は文字の海を泳ぐような仕事だと言われたことを思い出した。泳げない水泳選手がありえないように、文の読めなくなった編集者も矛盾した存在だ。30歳の冬、私は無職になった。退職の書類も読めなかったので代筆してもらった。
 
「認知機能は時間をかけて回復していきます。気長に治していきましょう」
医師はそう言って多量の薬を処方する。どうやらうつによって認知能力が落ちているそうだ。どんな効果の薬なのかお薬手帳に書いてあるはずだが、読めなかった。通帳に残された金額が自分の生命線のはずなのに、いくら残っているか読むことができない。0の数が少ないから多分そんなに長くない。先が見えない。
 
まずはうつの治療が最優先だと自分に言い聞かせ、時間だけはあるからと宮沢賢治の本を開いた。小学生のときに読み耽った銀河鉄道の夜を、ゆっくり、ゆっくりと読み進めようとした。読めなかった。何度文字を目でなぞっても、ジョバンニの姿が浮かばない。どれだけ時間をかけても、銀河鉄道に乗ることはできず、ただ文字のまま流れていく。どうやら自分の能力は小学生にも劣るようだ。わからない単語を辞書をひきながら読んだ思い出も、ただ今の自分との差を突きつけてくるだけだった。
 
子供のころから、本を開けば別世界に行けた。学校に行けなかった日も、初恋の相手から「キモい」と言われた日も、必須単位を落として留年した日も、本と文字が私を助けてくれた。命綱だった。それがないと、綱渡りのような人生を歩める自信がなかった。
 
コンビニに行くことはかろうじてできるが、ゴミをまとめて朝出すことはできない日々が続いた。自分の中のできることとできないことの線引きが自分でわからない。散らかった部屋はゴミで溢れた。ゴキブリが部屋のすみをうごめきだしたのを見て、春がとっくに訪れていたことに気がついた。まだ、文章は読めないままだった。薬の量が増えた。あたまがぼーっとしてよけいなことをかんがえなくなれる。文章が読めないことも悩めなくなり、睡眠とたまに食事、そして排泄をするだけの生活が1ヶ月続いた。
 
転機が訪れたのは2021年の7月。医師の勧めで日記を書き始めた日のことだ。その日も自分は陰鬱としていて、数行の日記を書くのに1時間かかった。あまりのていたらくさに自分を殴った。その勢いのままノートを破ろうとしたとき、自分の書いた日記が目に入ってきた・・・・・・・。読めたのだ。読めたのだ。目に入った一瞬で、数行の文章を理解することができた。うれしかった。笑い出したかった。多分笑っていた。書いたことは読める。思い立って最果タヒの詩集を本棚から引っ張り出した。ノートに書き写すと、意味が理解できた。思えばこれが回復のはじまりだったのかもしれない。この日から、少しずつ回復に向かいはじめた。ノートを買って、本棚の本をひたすら書き写した。
 
さて、これを書いている今、何かが劇的に変わったわけではない。ただ薬の量が少しだけ減って、冷静になれる時間を数時間手に入れただけだ。
その数時間を使って履歴書を書き、少しの時間だけ働けるようになった。
そしてそこで得たお金を使って、今天狼院書店のライティング・ゼミを受講している。
 
かつてライターだったとき、136,274文字のブックライティングをした。今はまだ2000文字の課題で四苦八苦している。まだ道のりは遠いけれど、今は牙を研いでいる感覚がある。
私は必ず返り咲いてみせる。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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