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メディアグランプリ

落ち着こうか。私、人間だから


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本麻代(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
坊や、落ち着こうか。
大丈夫。
私は人間です。あなたと同じ人間だから。宇宙人じゃないから。
さらわないから。
 
私の日常にはそう言いたくなるシーンがちょこちょことある。
 
先天性の感音性難聴を持って産まれるも、口話教育で育ってきた私。私以外の家族は全員聴者(聴こえる人)である。親は娘が手話を覚えると、自分たちとは違う、別世界に行きそうで怖かったとかで、ろう学校に行くこともなく、手話にも一切触れずに育ってきた。当然、聴こえる人たちの中で生きてきた私も、手話というものを実際に見た事ないまま成長した。そんな私がリアル手話に初めて出会ったのは大学に入ってからだ。
 
大学入学後の学科ガイダンスで、先輩が手話で話しかけてきた。事前に聴こえない新入生が入ってくる、と聞いていたようだ。が、非常に困る。だって手話なんぞ知らないから。
 
「あ、あの、す、すみません。手話分からないので。話してもらえば大丈夫なので」 そうオドオドと話す私。
 
すると先輩、「は? なんで? 聴こえないのになんで手話出来ないの?」
 
この時の先輩の言葉に心がざわついた。
聴こえる人たちと対等になれるように、と口話教育を受けさせられて、頑張ってきたのに! 聴こえないなら手話ができるなんて、アンタたちの勝手な押しつけじゃん! 私は手話がなくったってちゃんと会話できる!!
 
なんてことを先輩に言える勇気もなく、私は黙り込んだ。
そんな私にお構いなしに、先輩は普通に手話を交えつつ、口話も一緒に話し続けてきた。その手話を居心地悪く眺めていた。
 
その先輩は聴者だった。なんの因果か、聴者であり、手話ができる先輩が学科に3名もいた。福祉関係の大学でも、学科でもないのに。待て待て、そんなことあるのかいな。
 
「お前な、聴こえないなら、手話は絶対やった方がいいぞ」 そう先輩たちは口を揃えた。そして、そのまま私は先輩たちが関わっている手話サークルに連行された。先輩に逆らったらダメだ、と何情報なのか、そんな思い込みがあった初々しい大学生だった。
 
講師は日本手話を第一言語としているろうの方で、初めは、手がわちゃわちゃと動いていること、表情、目の動き、眉の動き、頬の動きなどの表現が意味分からなくて、怖くて内心ビクビクしていた。それでも少しずつ少しずつ言葉を覚えていき、手話の読み取りができるようになると、楽しくなってきた。私は両耳補聴器を付けているが、補聴器を付けていても言葉としては聴こえてこない。相手の口の動き、表情、間、前後の文脈を拾い集め、相手が次はどのようなことを言うのか、色々と想定しつつ、そこから取捨選択しながらコミュニケーションを取っている。8割方、フィーリングであると言ってもいいぐらいだ。それが手話だと、きちんと言葉として分かる。この驚きと喜びはなんと表したらいいのだろうか。嬉しいとかなんてもんじゃない。だれか言葉作って。
 
こうして手話と出会い、私にとってもひとつの言語となった。基本的には同じように聴こえない友達と話す時ぐらいにしか手話を使っていなかったが、コロナ禍で少々状況が変わった。
 
私は口話教育を受けたことにより、聴者並みの発音を身につけ、補聴器が見えないと、一見聴こえない人とは分からない。コロナ禍でマスク社会が当たり前になった今、口の動き、表情などからの情報が一切なくなってしまい、かつ、聴者並みに明瞭な発声をする私が聴こえない人とも理解してもらいにくいため、コミュニケーションのハードルが一気に爆上がりしてしまったのだ。これが株だったら絶対儲かっているだろうな。
 
私が聴こえないことを伝える手段として、マスクに「聴こえません」 シールを貼ること、そして手話を使い始めたのだ。
 
ある日、コーヒーショップに入り、レジに行って、手話も交えながら話しかけると……
店員さんが「え、うわ、マジ、どうしよう、なんでよりによってオレの時に」 もう目の色が変わり、泳ぎまくりの動揺しまくり。他の店員さんに助けを求めるかのように、辺りをキョロキョロし出した。
 
坊や、落ち着こうか。
大丈夫。
私は人間です。あなたと同じ人間だから。宇宙人じゃないから。
さらわないから。
 
なんというか、地味に傷つく。いや、傷つくというより、拗ねる気持ちがフツフツ。なにさ。
 
声も出しているのだが、周りの雑音が大きく、マスクもあって、声が届かないようだ。それ以上に店員さんが手話にプチパニックになっていて、声が耳に届いていないようだ。
 
結局周りに他に店員さんもおらず、覚悟を決めて? 諦めて? 私に向いた店員さん。ちょっと伏し目がちで不安そうにオドオド。まだ接客の仕事を始めたばかりなのだろうか。聴こえない人も初めてなのだろうか。
 
コップを持つ仕草、出入り口の方に向かって外に出る、という仕草をする私。
 
すると店員さん、テイクアウトか! 分かった! と言わんばかりに、一気に顔がパッと明るくなった。そこからはどうしたら伝わるのか、店員さんなりに頭をフル回転し始めたようで、メニューを指さして、ホットかアイスか、サイズはどれか、紙袋を取り出して首かしげてみたり、積極的にコミュニケーションを取るようになった。
 
店員さんが「伝えよう! 分かりたい!」 という気持ちを持って接して下さり、私は宇宙人から人間になった。
 
手話には手話を返さないといけないわけじゃない。手話はあくまでもコミュニケーションのひとつのツールであって、どんな言語であっても、「伝えたい、分かりたい」 その気持ちを大切にしたいものだな、と毎日気持ち新たに感じ入っている。
 
さて、今日は宇宙人になるのかな、どうかな。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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