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食卓からハンバーグが消えた日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:秋田梨沙(ライティング・ゼミNEO)
 
 
二度とハンバーグなんか作らない!
 
そう、心に決めた日のことを今でも生々しく覚えている。今から10年前、私もまだまだ可愛げのあった20代の頃の話である。愛情込めた手料理を振る舞おうと、日夜奮闘していた新婚当時の話だ。はっきり言って、私は料理が得意じゃない。というより、大きな声ではいえないが、作ることそのものに全く興味がない。できれば一生「食べる専門」でありたいと思っている。故に、現在に至るまで一向に上手くなる気配はない。けれども、当時は新婚である。下手は下手なりに考えて、手間のかかるものを作ってみようかと思ったのだ。そこで私は、「ハンバーグ」を作ることにした。
 
皆さんの言いたい事は、わかっている。最近、ママ友と話して衝撃を受けたのだが、ハンバーグは簡単で、手間のかからない料理に分別されるらしい。しかも短時間でできるらしい。なぜだ。野菜を細かく刻み、手でこねて、ベタベタとして、一つ一つ形作って……面倒じゃないか! 時間もかかるよね! そんなにも私は末期症状だったのかと引き攣った笑顔で震えた。当時の私は、そんなことはつゆ知らず、仕事から帰宅し、一生懸命その「面倒な」ハンバーグを夫のために作った。健気さだけは、認めてやってくれると嬉しい。
 
さて、美味しいかどうかはともかく、難しい工程があるわけではないので、調理はサクサクと進んだ。切って、こねて、丸めて、焼く。我ながら完璧だ。意気揚々とお皿に乗せる。そこまでは良かった。ところが、食卓に座る夫の背中がどうもおかしい。少し背中を丸めてコソコソとしている。
なんだ? 何をしている?
怪しさを察知した私は、視線を気取られないように、自分の分のハンバーグを持って、何気なく夫の正面へ回る。
 
そして、見てしまったのだ。
 
夫が、せっかく作ったハンバーグを、まるで汚いものでも扱うかのように、箸の先っぽでついっと持ち上げるのを。 瞬間、カーッと頭に血が上った私は、よく分からない大きな声を出して夫の皿をぶん取り、キッチンへ直行した。
 
生焼けならば、言ってくれれば、ちゃんと焼き直すのに!
そんな箸の先で! 嫌味ったらしい!
 
もう自分でも、怒っているのか、泣いているのかよく分からなかった。危うくゴミ箱行きになるところを夫が必死に取り返し、無事に焼き直されることにはなったが、以来ハンバーグが食卓に上がることは二度となかったのである。
 
今思えば、夫だって、どうすべきか悩んでいたのだろう。箸を入れた瞬間、ジュワッと流れ出た、薄ピンク混じりの液体を見て考えたはずだ。せっかくの手料理に文句は言いたくない。もしかしたら気のせいかもしれない。そして、良かれと思って、私を傷つけないように、あくまで、「こっそりと」箸の先でハンバーグを覗きこんで確かめたのだ。二人の想いは見事にすれ違った。 私もまだ未熟だった。
 
この一件は、私の料理コンプレックスにとどめを刺し、さらに、その後生まれた長男は食が細く、好物はキノコ・こんにゃく・豆腐というヘルシー路線で、ますますやる気を失った。
 
うん、手をかけなくても食べてくれれば良い。
うん、保育園の給食で栄養取れているから良い。
うん、みんな元気だから良い。
 
なんだかダメ母一直線のような気がしたが、人には向き不向きというものがあるのだ。そう自分を納得させた。そうしたら、今度は兄がお腹に忘れた胃袋まで持ってきたかのような、次男が生まれた。ご飯もりもり食べる。母嬉しい。なるほど、これが料理を作る醍醐味か。
 
その、食いしん坊な次男(5歳)がついに先日、言い出したのである。
「ぼく、ハンバーグ作ってみたい!」
よりにもよって! なぜだ! なぜ、ハンバーグなのか!
返事もしないまま、スーパーのひき肉コーナーで眉間にシワをくっきりと刻んだ。買うべきか、買わざるべきか。いくら私でも、昔パパと喧嘩したから作りたくない、だなんて言えない。ひき肉が手元10センチの距離まで近寄って、ようやく腹を決めた。これも、天命である。
 
「よし、一緒に作ろう!」
 
子どもに教えながらの作業は、10年前より面倒なはずなのに、久しぶりにこねたハンバーグは前より、うんと簡単な気がした。これならちゃんとできそうである。もちろん、次男に私と同じ思いをさせたくないので、今回はしっかりと中まで火を通した。念の為、自分の分を割って確認する。いや、ちょっと焼きすぎたかもしれない……。でもまぁ、夫にも10年の負い目があるのだ。少々苦かろうが、黙って食べてもらおうじゃないか。その一口目が消えるまで、夫の正面で仁王立ちで見守った。
 
「僕の作ったハンバーグ、おいしいでしょう?」
 
次男が届けた真っ白なお皿の、まんまるなハンバーグには、実はそんな夫婦の歴史があるのだった。


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