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メディアグランプリ

忘れ物の神様は水曜日にやってくる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田盛稚佳子(ライティング・ゼミNEO)
 
 
水曜日は嫌いだ。忘れ物が多いから。
昔からというわけではなかったのだが、社会人になってそれが顕著に表れてきた。
しかも、ハンカチやスマホとかいうレベルではない。ブラジャーを忘れるのである。
なんでそんなものを忘れるのだろうか。恥ずかしくて仕方ない。
 
はじめは、社会人2年目のある水曜日。
新しいプロジェクトを立ち上げた部署へ異動になった年のことだった。
以前から興味のあった子供服ブランドに関わることになり、やりがいのある仕事ができる日々を送っていた。残業が多くてもそれが普通だと思っていた。
アパレルメーカーの本社にいたということもあり、生地の選定から、中国の工場とのやり取り、出来上がった商品がお店に並び、その販売状況までの一連の流れを見られることに毎日わくわくしていた。
その日は、朝からチーム会議で生産担当や営業、チームリーダーに大手商社の担当者も同席するという大事な会議だった。
私は気合いを入れるべく、勝負下着ならぬ勝負服とばかりに体にフィットする真っ赤なカットソーを着て、颯爽と出勤した。
会議中、なぜか背中に違和感を感じて手を伸ばした。
ん? ない、ないぞ。
いつもあるはずの場所に、ブラジャーの紐らしきものがどこにも見当たらない!
うわぁ、よりによって今日だなんて!
新商品についての会議も、途中からまったくのうわの空である。
男性陣が気づいたらどうしよう。なんて言い訳しようということしか考えられなかった。
お願いだから早く会議終わってくれーーーー! そればかり祈っていた。
会議がなんとか終わり、途中から挙動不審だった私に上司が声をかけてくれた。
「田盛さん、どうかした? 落ち着かない感じだったけど……」
私はものすごい早口でまくし立てた。
「すっ、すみません! 寮の部屋の鍵を閉め忘れておりました。至急閉めて戻りますので!」
わかった、と上司が言い終わらないうちに猛ダッシュで会議室を出た。こんなに走ったのは小学校の運動会ぶりではなかろうかという速さだったのを覚えている。
幸い、社員寮が会社から徒歩7分の場所にあったので助かった。当然鍵がかかっている部屋に戻ると、たたんだ布団の上に
「ワシ、朝から忘れられとるんじゃが……」
と岡山弁で言わんばかりのブラジャーが転がっていた。
いそいそと身につけて、会社に戻り何事もなかったかのように仕事をした。
やっぱり、これがないとねぇ……。安堵感と変な背徳感だった。
決してアブノーマルな趣味は持ち合わせていないことを、ここで強く主張したい。
 
最近で言うと約3年前。少しは学習したのか、仕事中ではなく通勤途中にハッと気づいた。
なんたる失態。しかもその日は白いブラウスを着ていた。
最寄り駅のコンビニでそそくさと絆創膏を買い、トイレに駆け込んだ。両胸にニプレスよろしく絆創膏を貼り、できるだけ目立たないようにした。
その時に働いていた会社は制服でベストとジャケット有りだったのでバレなかった。
しかし、あるべきものがないというのはやはり落ち着かない。昼が近くなってくると急にそわそわしだしてきた。前日より暑く、ジャケットを着ているとじんわりと汗ばむほどだった。
「田盛さん、ジャケット脱がないの? 暑くない?」
と先輩が厚意で聞いてくれたが、
「ちょっと、風邪気味なんですー」と大ウソをついて、昼までやり過ごした。
頭の中は会社の一番近くでブラジャーを買える店のことでいっぱいである。
総務の仕事だったのでいろんな部署から問合せの電話がかかってきたが、
「あ、すみません、それ午後から対応しますんで!」
の一点張りで12時になるのを今か今かと待っていた。
 
ポーン! という昼の合図とともに、ブラジャーが買える店が浮かんだ。
そうだ! マルイに行こう!!
いつもは社内でランチを食べるのだが、今日はそれどころじゃない。
「外で食べてきますんでー!!」と財布片手に会社を飛び出した。
ランチタイムの博多駅周辺は、サラリーマンパラダイスである。
老いも若きも、今日は何を食べようかとランチ談義をしながら交差点で待っている。
こんなに赤信号長かったっけ? と信号にすら文句を言いたくなってしまう。
そんな中、青信号になった途端に前かがみで博多駅の交差点を猛ダッシュで走り出す、ブラなしの40代オンナ。もう痛々しいったらありゃしない。
周りから見たら「こいつ、どんだけ腹へってるんだよ」と思われたに違いない。
いや、お腹じゃないんです! 胸のほうなんです! と私は心の中で叫んでいた。
あぁ、たしか若いときもこんなに走ったなぁ。でもあの時の倍の距離を走っているし、走る速度は半分以下になったなぁと走りながら急に「老い」を感じた。
 
マルイで息切れしながらブラジャーを5秒で即決したのは、40数年生きてきて初めてのことだった。値札もすぐに切ってもらい、息を整えながらトイレへ小走りした。
トイレで真新しいブラジャーをつけようと、絆創膏を剥がす時、チクリと胸に痛みが走った。
「アタシ、本来はこんな役目じゃないわよ」と言われた気がした。役目を終えた二つの絆創膏にごめんねと謝ってゴミ箱にそっと捨てた。
 
なぜ水曜日にばかり忘れ物してしまうのか、私なりに考えてみた。
月曜日から金曜日までフルタイムプラス残業、しかも当時は毎日終電間際までの残業が続いていたからだろう。週の半ばである水曜日に気が緩んでしまうのだ。
すでにヘトヘトな私は、メイクはちゃんとしても着替える時にうっかり大事なものをつけ忘れてしまっていた。そんな私に神様が喝を入れてくれているのかもしれないと思った。
それ以来、私は下着をちゃんとつけていることを確認してから、メイクをするようになった。指さし確認、上よし、下よし、メイクよし。
それじゃ、今日も行ってきます!!
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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