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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:黒﨑良英(ライティング・ゼミNEO)
※この記事はフィクションです。
 
 
子どもの頃の話である。
 
ある曇りの日、私は縁側に足を投げ出して座り、祖父が残した数々の盆栽を、何の気無しに眺めていた。
すると、どこからともなく鳥が現れて、盆栽の一つにとまった。
 
私はそれが「フクロウ」という名前の鳥であることは知っていたが、この鳥が夜に行動する鳥だということは知らなかった。
 
私たちは見つめ合った。
すると、フクロウは首を回し始めた。
私もつられて首を横にする。
30度、60度、90度、と、だんだん回転していき、フクロウの顔が180度回ったところで、コテン、と私は横に倒れてしまった。
 
そこに笑い声が響いた。
母だった。
後ろから眺めていたらしい。
 
母は近づいて言った。
 
「ねえ、アレが何だか分かる?」
 
私は自分の知識を自慢するように、その名を言った。
 
「そう。でもおかしいな。フクロウって夜に行動するんじゃなかったっけ?」
 
私は頭の中で、図鑑の説明書きを思い出してみたが、どうも思い出せなかった。
母は続けて言う。
 
「それに、フクロウって、くちばしが長くなかったっけ?」
 
どうであろう。
私はまた、頭の中で図鑑の写真を拡大して見るが、やはり、思い出すことはできなかった。
 
そうして改めて目の前の鳥を確認して、驚いた。
くちばしが長くなっているではないか。
サギのように、ツルのように、その鳥は長いくちばしを持っていた。
当然、現れた時にはそのようなものはなかった。ただ小さな口のようなくちばしがあっただけだった……と思う。
 
母はおかしそうに、さらに言う。
 
「いやいや、長いのは耳だったかな? ウサギのようになが~い耳」
 
するとさらに驚くことに、目の前の鳥の頭から、ぴょん、とウサギの耳が現れた。
私は目をこするしかなかった。
 
母は、というと、くっくっと、こらえるように笑っていた。
そんな母は、追い打ちのように言った。
 
「そして鳴き声は……そう、ハムスターのようだった」
 
当時我が家ではジャンガリアン・ハムスターを一匹飼っていたが、そういえば鳴き声を聞いたことはなかった。
 
私は、今度は期待を込めた目で、目前の鳥を見た。
鳥は、首を動かしたり、羽をちょっと広げたりしていたが、バランスを崩したのか、バタン、と盆栽の枝から落ちてしまった。
 
それとほぼ同時に、黒い四足の何かが、ものすごい勢いで逃げていった。
 
私は呆けた気分で、その“何か”の去った後を眺めていた。
母は大笑いである。
 
そうして、私に向かって、優しく言った。
「ねえ、この世には、あんなおかしいモノがいっぱいいるんだよ。中には怖いのもいるけど、お前が怖いと思わなければ愉快なモノ達ばかりさ」
「ああいうのが、いっぱい?」
「そう。お前はこれから、そういうモノをたくさん見ていくんだよ」
「そうか……」
 
私は母の言葉を聞いて、素直に嬉しかった。
この世界には、あのような不思議な存在がいるのだ。あのようにおかしな存在が大勢いるのだ。
私はそれが、心底嬉しかった。
だから、その思いを素直に言葉にした。
 
「楽しみだ」
 
その言葉を聞いた母は、私を思いっきり、けれどこの上なく優しく、抱きしめてくれた。
 
それから、多くの不思議なモノを見た。
東西両方から上る月、雪の日に咲く桃の花、夕暮れの空に紅を散らす天女……母に連れられてお使いに行ったが、その時に尋ねた白髭の老人は、一体だれだったか。
 
私はこの世界が楽しかった。
ただただ楽しかった。
 
しかし学校に入り、学年が上がるごとに、そのようなモノとの遭遇は減っていき、代わりに友人との付き合いが増えていった。
そして大人になった今では、あれらは何かの思い違いだと考えるようになった。
いや、そうでなければ、何か、こう、整合性があわないような、私が社会人としてしっかり生きていけないような、そんな漠然とした不安があったのだ。
結果的に、それは良かったことなのかもしれないけれど、でも、子どもの頃とても大切にしていた宝物を無くしたような気がして、少し、悲しかった。
 
先日、久しぶりに実家に帰った。
母も高齢になり、昔のようなことは言わなくなった。
でも、もしかしたら、私の娘には耳打ち程度にしているかもしれない。
 
なぜって、ふと気付くと、娘は、ちょうど幼い日の私のように、縁側に腰掛けて、今はもう緑の薄くなった盆栽を、じっと見ていたのだから。
 
せめて娘には、世界の不思議の一端を見せてあげたい。
私が母に教えてもらったように、これからお前はこんな世界を生きて行くのだよ、と優しく抱きしめてあげたい。
 
だから、またフクロウがやってきて、今度はハムスターの声で鳴いてくれるんじゃないか、と、そんな淡い期待を抱きながら、私は娘の後ろから、祖父の盆栽を眺め続けた。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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