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サヨナラ、ナショナル子さん


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミNEO)
 
 
クサイ!!!
 
左頭上から、納豆のようなニオイが攻撃してくる。
カーテンレールにかかった部屋干し洗濯物から漂ってくる。
一体どの服がにおうんだろう。
 
ああああ、もう、限界!!
部屋干しのストレス、もう、イヤ!!!
乾燥機のある洗濯機がほしい、いや、ほしいではすまない。買う、絶対に買う。
 
ニオイって攻撃力が高い。嫌なニオイと同居するだけで具合が悪くなるし、テンションが下がる。
 
マンションの大規模修繕工事は、想像以上に不便だ。ベランダや廊下に置いてある荷物をどかさないといけないし、騒音や薬剤のにおいもきつい。工事をしている昼間は換気扇やエアコンも使えないから、部屋の湿度が上がって、洗濯物が乾きづらいし、もちろんベランダで外干しなんて夢のまた夢なのだ。
 
洗濯物の温室にいるような感じ。
 
これがまだ数か月も続くというのに、早くも限界を感じていた。
 
今日の占いで、「衝動買いには気をつけなさい」って書いてあって、少しひるんだけど、思い立ったが吉日だ!
 
そもそも、衝動買いじゃない。思い起こせば、この家に引っ越してきた当初、マンションを購入した時の勢いで大物家電を買い替える話が出ていた。その有力候補に洗濯機があがっていたのだ。そこから12年経っているわけだから全然衝動買いなんかじゃないよ、と言い聞かせる。
 
だって、洗濯機のブランドが、ナショナルだよ? ナショナルと言えば生活家電ブランドの代名詞だったのに、いつの間にかパナソニックに統合されてしまって、あっという間に、あの頃は懐かしかったよねの歴史に組み込まれてしまった。
 
私は、我が家の洗濯機のことを、敬愛の念を込めてナショナル子さんと呼んでいた。数年前まで、私の周りにも、ナショナル美さんや、ナショナル江さんや、数少ないナショナルの洗濯機を持っている人達がいて、昭和の香りがぷんぷんする愛称をつけて妙な連帯感で盛り上がっていたこともあった。でも、一台、また一台と、寿命やタイミングで買い替えたという知らせを聞き、ナショナル一族は風前の灯になっていた。
 
我が家のナショナル子さんも故障がなくここまで来れたわけではない。それでも、洗濯機の機能はちゃんと果たしてくれていた。せっかくだから、壊れるまで使いたい、そう思っていたのに。
 
ゴメン、ナショナル子さん、私もう、納豆みたいなニオイが漂ってくる状況に耐えられないんだよ……。
 
家電量販店に赴き、展示されている各社の洗濯機を比べ始めた。このコロナの状況で部品が手に入りづらく、売り切れの機種も多いらしいと聞いてなおさら焦る。グレーのボディに埃がこびりつき、子供達に貼られたシールあとが生々しい我が家のナショナル子さんとは違い、お店のライトに煌々と照らされた洗濯機たちの眩しいこと……。
 
私は目を細めながら、店員を探した。
 
私が最初にナショナル子さんのかわりに洗濯機を購入しようとした12年前は、ドラム式の洗濯機はまだ出始めで故障がしやすいという噂も飛び交っていた。だから、買うとしたら縦置き型以外考えていなかった。でも、私がどうしても欲しい乾燥機能は、縦置きだと、乾きムラが出るらしい。しかも、店員の話によると、確かにドラム式はかつて故障が多かったが、今では故障も減ったという。
 
とにかく、乾燥機能がきちんと働いてくれなければ、動いているナショナル子さんから替える意味がなくなるから、ドラム式の洗濯機にしよう。
 
店員さんに色々な機能の説明を聞くと、正直、個人的にはいらない機能が満載だった。洗剤の自動投入も魅力を感じないし、除菌機能も化学的な材料を使うものなら、むしろ使いたくない。タッチパネルもスマホから操作できるのもどうでもよかった。しかも標準的な耐用年数は7年。ナショナル子さんの壊れなさ具合といったら、寿命は3倍近いじゃないか。
 
多機能すぎるのもなんだかなあ。シンプルに、洗濯と乾燥がついていればいいのに……と思いながら、最終的にナショナル子さんの子孫、パナソニッ子さんに来ていただくことにした。
 
それにしても、ナショナル子さんの潔いまでのシンプルな機能よ……。最後の洗濯をしながら、やっぱり占いの言う通り、衝動買いだったかなあと、涙が眼のふちに、にじんだ。
 
最後の洗濯を終えた後、せめて外側だけでも……と感謝を込めて拭き上げた。ナショナル子さんとの思い出が走馬灯のようによみがえる。
 
底のパルセーターという洗濯機の水流を作ってくれるパーツがダメになった時は、部品を取り寄せて自力で付け替えたし、ここ数年は、洗濯物の量を自動で計量してくれる機能も壊れて、手動で設定していたよね。1年に1回くらい脱水機能の収まりが悪くてガタガタと駄々をこねているように激しく揺れることがあったところもなんとなく憎めなかった。もらいものなのに、我が家に来てさらに15年も頑張ってくれた頑張り屋さん。
 
中学生の長男を筆頭に子供3人の布おむつやドロドロの服だってナショナル子さんがいなかったらとてもじゃないけど洗えなかった。壊れるまで使ってあげられなくてゴメン。
 
生活のストレスを軽減して快適に暮らすためのツールとして家電はあるのだから、快適さを求めて買い替えたことに後悔はないけど、結婚当初から私に寄り添ってくれたナショナル子さんと別れるのはやはり寂しいよ。
 
パナソニッ子さんの設置当日。設置業者がナショナル子さんをどけると、洗濯機を置く洗濯パンというスペースと排水溝周りはホコリと水でドロドロになっていた。
 
「めったに掃除できませんから、こころゆくまできれいにしてください」
 
雑巾2枚があっという間にダメになったけれど、おかげで洗濯パンはきれいになった。
 
その場所に白く真新しいツヤ消しのパナソニッ子さんが収まった。パナソニッ子さんは、かなり大柄で恰幅の良いお母さんみたいな子。
 
ナショナル子さんは……実は小柄な子だったんだなあ。もう一度ナショナル子さんを見ようと思ったのに、気づいたら既に跡形もなく消えていた。洗濯パンを掃除することに一生懸命になっていて、最後の挨拶すら、できなかった……。
 
「では、古い洗濯機の家電リサイクルの控えと、新しい洗濯機の保証書渡しておきますね。リサイクルは2週間程度で完了しますのでそれまではこの控えをもっていて下さい」
 
言われるままにサインをしながら、最後にナショナル子さんを見送ることができなかったことが胸をチクチクと刺していた。サヨナラ、ナショナル子さん、今までありがとう。
 
少し、寂しさを感じながらも、新しく頼もしいパナソニッ子さんに、ため込んでいた洗濯物を押し込んだ。
 
干さなくていいって、楽ちん!!
 
嬉しくなって、日付が変わったころにもう一回洗濯機を回すことにした。いらないと言っていたタッチパネルが光ると、
 
「夜遅くまでおつかれ様です」
 
のメッセージが現れて、キュンと胸をつかまれた。
 
パナソニッ子さん、ういやつめ……!
 
ナショナル子さんへの寂しさも吹っ飛び、衝動買い万歳! と思う私は現金なヤツだよね。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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