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ただひとつ、命に弱さがあるとすれば、それは……


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:安居 長敏(ライティング・ゼミNEO)
 
 
引っ込み思案で、何かをする時はいつも誰かの後をついて行くような、心配性で、石橋を叩いて渡る性格だった僕に、「火中の栗を拾う“強さ”」を与えてくれた出来事がある。
 
母の入院。そして、あっけない別れ……
 
それは、僕が社会人として歩み始めていきなり味わった、シビれる人生体験でもあった。
 
大学を出て、念願の教師として勤め出して半年あまりが経った10月末。ようやく学校での仕事が自分のモノになってきた頃だった。
 
突然、母が倒れた。
 
兼業農家だった我が家では、ちょうど稲の刈り取りが一段落した時期だった。だから、家族の誰もが「たぶん過労だろう」と考え、さほど心配はしていなかった。
 
加えて、普段からめったに病気などしない元気な母だったから、僕自身も「すぐに良くなるだろう」と高を括っていた。
 
ところが少しも良くならず、日を追うごとにどんどん悪化していくのがわかった。
 
「一度、大きな病院でキチンと診てもらった方がいいんじゃない?」
 
そんな周囲の声に背中を押されるように、渋々検査に向かうと結果はすぐに出た。
 
血小板減少性紫斑病
急性骨髄性白血病
 
それまで、テレビドラマでしか見聞きしたことのなかった病名が、リアルに目の前に現れた。
 
いったい、この現実にどう対処すればいいのか……
 
家族の誰もが、何をどうして良いのかわからない中、選択肢はただひとつ。「とにかく医者に委ねること」だった。
 
幸い、母はその事実を淡々と受け止めているように見えた。いま考えれば、決してそんな簡単に割り切れることではなかったはずだが、母の気持ちを最優先に、病気の治療と家族の生活をみんなで協力しながら乗り越えていこうということになった。
 
家族の中で、母というのは常に居て当然の存在。だから、別に「いることの意味」など全く考えたことなどなかった。でも、いざその存在が家の中から居なくなってみると、ふだん気に留めていなかったことがいくつも浮かび上がってきた。
 
食事の支度はもちろんのこと、洗濯や掃除など、これまでは「自分には関係がない」とスルーしてきたことが、次から次へと目の前に現れてくる。全ては自分の知らないところ、気がつかないところで、母がやってくれていたことに気づくのに時間はかからなかった。
 
そんな生活が続き、発病してからちょうど半年経った日……
 
母は他界した。
 
享年47歳。苦労続きの人生だった。
 
葬儀に、当時担任をしていたクラスの生徒代表が駆けつけてくれた。その手に抱えきれないほどの、いまにもこぼれそうな千羽鶴を持って……。
 
「ごめんなさい、私たちの願いが通じなくて」
 
そう言いながら、生徒から千羽鶴を渡された時、それまでこらえていた涙が一気にあふれてきた。入学して以来、まだ一か月も経っていないのに、僕の知らないところで生徒たちが母の回復を願っていてくれたなんて。
 
たくさんの人がいる前で男が泣くなんて、恥ずかしいことだったかもしれない。でも、その時ほど生徒の純粋さ、一緒に過ごす人に対する気持ちの深さを感じたことはなかった。
 
葬儀という場で、必要以上に感覚が増幅されてしまったのかもしれないが、生徒という存在の大きさ、先生という仕事の意味を感じさせられた。同時に、自分も生徒に対して一生懸命ぶつかっていかないとダメだということを、深く心に刻んだ。
 
39年前の、まだ人間として未熟な頃に経験した、母との別れ……
 
今となってはすでに過去のこととして語れるが、ここから始まった人生の全てが「母のおかげ」だと思っている。
 
自分がここまで強くなれたのも、死という別れを通して母が僕に教えてくれた最大の教育だった。親離れというにはあまりにも突然で、辛いことだったが、それだからこそ親の思いを心に刻むことができたし、親への依存心をいい形で払拭することができた。
 
もし、今も母が生きていたとしたら、僕自身、もっと甘い人間になっていただろう。そう考えると、母がこういう形で目の前から去ったことが、実はとても幸せなことだったのだ。
 
母が逝った瞬間は、その場の空気が固まったかのように、時間が止まり、頭の中が真っ白になった。しばらくして、街行く人たちや周囲の風景が、いつもと何も変わっていないのに気づいた。
 
自分の身の回りでは、こんなにも大きな出来事が起こっているのに、周囲は何も変わっちゃいない。
 
世の中って、こんなものなんだね。
 
人間の存在って
生きるって
 
いったい、どういうことなのだろう。
 
母の存在、自分や家族の存在なんて、世の中全体から見れば、本当にちっぽけな、取るに足らないものかもしれない……。
 
そんな思いに打ちひしがれ、なんだか気の抜けたような、それでいて「これでいいんだ」と思えるような、不思議な気分。
 
命は儚い
だからこそ尊い
 
命を前にすると、どんな悩みや苦しみも、全てが小さなものに思えてしまう。苦楽のすべてを包み込む命。なんて大きく、強いのだろう。
 
でも……
 
ただひとつ、命に弱さがあるとすれば、それがいつ途絶えるかを誰にも教えないことなのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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