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不登校になりかけた息子と私の約束


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西元英恵(ライティング・ゼミNEO)
 
 
誤算だった。
しかも、大がつくほどの。
そして私は久しぶりに、泥のような沼に足元を取られズブズブズブ……と深く沈んでいった。
 
今春、小学校に入学したばかりの長男が早々に不登校気味になった。
まだ何も始まっていないのに?? 私は訳が分からず混乱した。
 
「うっ……、うっ……、ぼく学校いきたくない」
パジャマのまま朝食のおにぎりを齧りながら、息子は顔を歪ませポロポロと涙をこぼす。
それを見て私まで急な不安に襲われる。息子に一体何があったのか。
 
実は、ここ数日の間にその予兆はあった。
「ぼく、○○くんとお友達やめる……」
「えっ、何で?」
 
朝の登校時、繊細な長男なりに頑張って、クラスのお友達に「○○くん、おはよう」と挨拶をしたらしかったが返事が無く、繊細な長男の心は結構簡単に折れた。
長男の通う小学校はなかなかのマンモス校で全校生徒は1,000を軽く超える。朝一斉に子供たちが靴を履き替える下駄箱周辺はかなりの混み様である。長男が発した、か細い声はきっと雑踏の中で立ち消えてしまったということは容易に想像できた。
「お友達、無視したんじゃなくて声が聞こえなかっただけじゃないかな?」
フォローのつもりでそう声を掛けても、ポキッと折れてしまった心は元に戻りそうになかった。
 
更にアンラッキーだったのは、担任の優しい女の先生がコロナに掛かり10日以上お休みするという事態に陥ったことだった。担任の穴を埋めるべく、日替わりでしかも時間ごとにクルクル変わる先生たちに慣れないというのも息子的には大きかったようだ。
 
先生がお休みし出して2.3日が経過した頃には、何かしらの理由をつけて登校を拒否するようになっていた。
 
「白ご飯と一緒に飲む牛乳が苦手」
「今日の男の先生は、少し怖かった」
「勉強をすると疲れるからいやだ」
 
渋る彼に付き添い教室まで行くことが増え、私も同じクラスのお友達や日替わりの先生たちと言葉を交わすようになったが、誰ひとりとして息子に対して嫌な感じはしなかった。というかむしろ優しく親切だ。
「どうして泣いてるの?」と心配そうに聞いてくれる女子。
手を引いて息子の机まで案内してくれる男子。
「うんうん」と息子の目を見ながら心情を察しようとしてくれる担任の代わりの先生。
 
息子よ! ちゃんと目を開けて見て! 君の周りには優しい世界も広がってるよ!
それでも私の声はなかなか届かず、彼は他の人には見えていない大きなモンスターに怯えているようだった。
 
朝、嫌がる息子を励ましつつ準備をさせ、トボトボ歩く息子の横を同じ速度で歩き、教室に行って泣き出す息子の背中をさすりながら「なんかあったらすぐ飛んでくるから」と送り出す。そして、このあと果たして大丈夫なんだろうかと後ろ髪をひかれながら学校を後にする。終いには朝から全く行けずに、丸一日お休みするという日が何日か続いた。
 
こんな生活が続き、次第に私の心にも異変が起きた。
何だろう? 何でなんだろう?
自分の息子だけが元気に学校に行けていないという現実は、今まで多少なりとも積み上げてきた母親としての「6年育てた」という自信を崩すには十分過ぎるほどの材料だった。
あぁ、私の育て方が間違っていたのかな。どこで道を間違ってしまったんだろう。
朝から行く行かないの押し問答を繰り返す日々は、どんどんと私の気力を奪っていった。
 
交通安全のためにつけた1年生だけの特別な黄色のランドセルカバー。
この黄色いランドセルたちの群れが、慣れない足取りながらも学校にしっかりと向かっていく様子を見ながらひとり落ち込む。
あー、うちの息子もあんな風に行くもんだと思ってたのになぁ……。
 
そして私は無気力になると同時に、メソメソと泣くようになってしまった。
 
このまま学校に行けなくなったらどうしよう。
私はどう接するのが正解なの?
息子はいつかモンスターに勝てるの?
 
そんなことを一日中考えて過ごす事が多くなり、負のスパイラルに陥ったのか、息子共々立ち直れる気がせず自己肯定感はダダ下がりする一方だった。
 
そんなある日、夫と二人で息子の今後について話し合っていた時だった。
あまりの私の落ち込み様をみて夫がこう切り出した。
「コーチングのやり方で、ちょっと試してみる?」
 
夫は本業のコンサルタントという職をレベルアップするべく、最近コーチングの学校に通っていた。コーチングは「目標を達成するために必要となる能力や行動を、コミュニケーションによって引き出す、ビジネスマン向けの能力開発法」として活用されている。しかし、このツールはビジネスの場だけにとどまらずあらゆる場面で効力を発揮するということだった。
 
これまでの育児について完全に自信を失った私に、夫が問いかける。
「じゃあさ、今までの○○(長男)との関わりに点数をつけるとしたら何点?」
「うーん……、60点かな」
「へー! 結構高いね」
えっ? これ高い方なの? もっとやれた事があるかも、と考え出すとキリが無く到底高得点は狙えそうになかった。だから、夫の反応は「そんなもんでいいんだよ」と言っている気がして若干楽になった。
 
「じゃあ、○○のために今まで何回ご飯を作ってあげた?」
保育園に通っていた時期もあるから一日2食としても365日×2=730、それを約6年間としたら4,000食くらいは軽く超える。私、今までそんなにご飯作ったの!?
 
「じゃあ、お風呂は何回入れてあげた?」
赤ちゃんの頃からずっと私じゃないとダメな期間が長かった長男は、ほぼ毎日私がお風呂に入れてきた。湿疹ができた赤ちゃんの頃は医者に言われて一日に3回お風呂に入れたこともあった。回数で言うと2,000回は超える。
 
「他に今まで○○のためにしてきたと思えることは?」
「子供優先で生活してきたし、病気になったらすぐに医者に飛んでいった。絵本もたくさん読んだし、泣けばいつでも抱っこしてきた……」
このセリフを言いながら気づいた。これまで培ってきた長男との大切な歴史を自分で無いものにしようとしてたんだ。
長男だって、私だって、色々あったけど頑張ってきたじゃんか。そう思うと泣けてきた。
 
保育園に入園した時も、幼稚園に転園した時も、最初は泣いて泣いていつか新生活に慣れる日が来るのかと心配したけど、長男はそのうち元気に通うようになった。
なんだ、別に誤算なんかじゃない。これは想定の範囲内だ!
 
GWが明けて久々の登校が待っていた今朝。
たっぷり時間をかけて学校にいく決意をさせたものの、
「やっぱり、ぼく、きょう行かない!」長男は押し寄せる不安の波と戦っていた。
涙目で訴える長男にいつもだったら「そっか」と諦め半分で答えていた私だったが、今日は違った。
「うん、怖いのはわかるよ。でも今日はとりあえず行こう」
長男を信じて学校へ送り出した。
 
午後3時。校門のすぐ近くで帰りを待つ。
しばらくするといつも心配してくれていた女の子に手を引かれ、長男が現れた。
「おれ、きょう、泣かんかった」
恥ずかしさもあるのか、長男は若干ぶすくれた顔でそう言った。でもその表情の奥には誇らしさが隠しきれず、今日一日の登校が彼に多大な自信を与えたことは間違いなかった。
 
繊細な息子のことだ。もしかしたらまた別のモンスターが息子を襲いにくるかもしれない。でも、もう腹は決まった。その時はまた一緒に戦おう。そして勝利の凱旋をしよう。これが君と私の約束だ。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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