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ショート小説『除霊グラフィティ』


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事::鳥井春菜(ライティング・ゼミNEO)

はじまりは、同窓会のよくある質問だった。

「それで、今は何してるの?」 そんな振りから、互いの近況を語り合い、学舎を共にした同級生たちの昔から現在につながる道を知るのが同窓会の醍醐味だ。

それが、今井のたった一言で、妙な空気になってしまった。

「実は、今、除霊グラフィティをやってるんだ」

ずいぶん酒も進んだ二次会後半。酔った勢いで、妙なノリになってしまったのかもしれない。けれど、『除霊』という言葉が、どうにも聞き流せない。
もう三十代。大人になった同級生との再会で妙なものを売りつけられる、というのはよく知る話だ。

しかも、また悪いのがこのセリフの主だ。
今井といえば、ふざけたことを調子に乗って言うような明るいたちではなく、どちらかといえば、外に遊びに行くよりも教室に残って本を読んでいるような、静かなやつだった。

「あれ? 知らないかぁ」

みんな、知らないから固まっているのではない。お前の次の言葉が怖くて身構えているのだ。
頼む、今ならまだ酒のせいだと言い訳できるから……! 気まずい空気の中、胸の内でそう祈っていると、

「島内くんも、やっぱり知らない?」

と何故か、ご指名いただいた。不意を突かれて、首だけぶんぶん横に振る。

「そうかぁ、けっこう認知度も上がってきたから、知ってる人もいるかもと思ったんだけど」

呟くように言うけど、ますます怪しいだけだぞ! もう誰も突っ込んでくれるなよ、と思った瞬間、

「それって、何するんだよ!」

誰かが笑いながらヤジを飛ばす。「バカ、あいつ今井だぞ!」そんな周りの声が、お調子者の肩を抑える。バッと顔を隠したが、全く、お前のことは覚えたからな。昔から、人を茶化して目立つのが好きなやつだったが、何もこんなときまで……

「だから、除霊するんだよ。グラフィティで」

あぁぁー!ほら! 答えちゃったよ!!
やっぱり、めちゃくちゃ怪しいじゃねぇか!

「見たことない? 街角の薄暗い駐車場や看板の裏なんか。スプレーで落書きがしてあるだろう?」

今井の声に誰もうなずきはしないが、頭の中には同じような風景が浮かんでいただろう。
え? ていうか、街中に落書きしてんの、こいつ?

いよいよ話がヤバくなってきたが、今井は一向に気づかないようで、日本酒をクイッとやった。

「あの落書きはね、本当はただの落書きじゃないんだ。れっきとした除霊方法の一つだよ」

落書きが除霊方法? 三十を過ぎた大人が何を言うのか……

「いやぁ、まだまだ知られてないんだね。でも考えてみてよ、あの落書きって霊が出そうなところばかりにない?」

そういえば、俺たちの地元にもあった。もう使われなくなった線路の上に高架線がかかっていて、少しじめっとした場所。あそこのコンクリートの壁にはいつも落書きがされていて、特に夜には何故か絶対に通りたくなかった。夏でも妙に肌寒いのだ。

「大体、おかしいだろう。だたの若い不良が、あんな上手く絵が描けるわけないよ。しかも、みんながみんな、あのハイクオリティって絶対変だろう」

た、確かに、これまでに見てきた落書きは、どれも上手かったような気がする。なんというか、勢いがあるというか、迫力があるというか。
昔見た、迫り来るサメの絵を思い出して、思わずブルっと身震いした。ああいう落書きは、ガイコツやギョロっとした目の何か、よくわからない「×××」という文字など、どうしてああも気味の悪いものばかりなのか……

「こっちは、除霊するんだから。強い力を引き出すためには、そりゃ画力は必要だよね。何を描くかで効果も変わってくるし」

俺の心を先回りしたように、今井が説明してくる。

「あと都会になると、ステッカーが貼ってあるでしょ。あれも便利なんだよね〜お札見たいなもんなんだけど。なんせスプレーで描かなくていいからね」

見かけたことはある。自動販売機にペタパタと無操作に貼り付けられたシールたち。若者たちの間では、よくわからないサブカル文化が流行っているのだなぁと思っていた。

「都会は案件が多いから。小さな事案は、ああいうので簡易的に済ませちゃうんだよ」

このセリフだけ切り取れば、誰もこれが『除霊グラフィティ』の話とは思わないだろう。
いや、なんだよ、除霊グラフィティって。

「……あっ!」

思い出すと、自分でも気がつかずに声が出ていた。今井の話を聞いていたら、急に記憶が蘇ってきたのだ。
そういえば、中学生二年生の頃、よく持ち物がなくなることがあった。ある朝、教室へ入ってみると、今井が右手に細長い何かを持って振っていたのだ。カン、カン、カン。それはスプレー缶を振るような音だった気がする。
そして、その日以来、持ち物がなくなることはなかった。
あれがもしや、なんらか、良からぬものの仕業だったとしたら……

……もしやお前、あの時から?

そんな視線を送っていたのがバレたのか、今井は目が合うと、ニヤッと笑った。

いやいや、何をこんなおかしな話にほだされて……けれど、みんな、妙に居心地悪そうに、ビールをぐいっと飲み干す。先ほどヤジを飛ばしたお調子者も、今ではすっかり静かに遠くの席に収まっている。今井の話し振りが至極落ち着いていて、変な納得感もあるので困ってしまう。

「でもやっぱり、“落書き”なんてなくなるといいよな。いやぁ、みんな、俺の仕事を増やさないでくれよ」

今井だけが明るくからっと笑った。
なんだこの、感じ。思わず、俺もビールを追加した。

* * * *

三次会の記憶はほとんどない。気がつけば、電柱の下に座り込んでいた。時計を確認すると午前三時。カバンを探ると、財布も無事なようだ。

いやぁ、しかし、それでも今日は早く切り上げられた方だ。二十歳の同窓会では、五次会、六次会とずいぶん引き回されたものだ。同級生との再会は嬉しいが、翌日寝込んでしまうのはもったいない。

よっこいしょ、と起き上がると、目の隅に駐車場の看板の下でたむろする若者たちの姿が見えた。彼らの手には、何やら細長い金属の缶が握られているようだ……

今井の話がふぅっと蘇る。よろよろと立ち上がると、ペコリと一例。

「お疲れ様です……」

酔いのせいだ。試しに言ってみただけだ。
若者たちは、不審な表情である。

今井のやつめ、やっぱり騙したな。

ニヤッと笑った顔を思い出しながら、ほのかに月のてらす道を帰った。

***

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