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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小川直美(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
それは、友人にメッセージを送ろうと、LINEを立ち上げた時だった。
 
最近使った絵文字が一覧表示される便利な履歴機能。
いつもと何も変わらないはずだった。
 
その日は違った。
よく見る絵文字が、やけに印象的に目に飛び込んできた。
 
「こんなことになってたの?」
汗のマーク、頭を下げている人、目をぎゅっとつぶっている顔、走っている人、泣いている顔
そこには、謝ることに関するものばかりが並んでいた。
 
 
私は遅刻魔だった。
寝坊する。準備が遅い。
時間の見積もりが甘い。洋服が決まらない。
出かけるときになると財布がない。鍵が見つからない。
 
学生時代の友人はいつも気長に待ってくれた。本を読みながら、穏やかに。
 
許してくれる相手に甘えて、日常はなんとか取り繕えていると思っていた。でも、携帯の履歴が見せつける私の姿は容赦がない。
はりぼての外ヅラ。その内側でまるはだかになっていたのは、自分が思っていたのとはほど遠い、ださくてイタい自分だった。
 
 
遅れる、ごめん。
電車乗り遅れた、ごめん。
今、走ってる。ごめん。
ごめん、ごめん、ごめん。
 
気まずさを打ち消すように、大げさに何度も謝った。
会計を大目に払うことで帳消しにしようとしたことも一度や二度ではない。
 
謝る回数は多くても、本当に心のこもった謝罪は一つでもあったのだろうか。
反省がない証拠に何度も繰り返していた。
 
履歴には、まぎれもない自分の現実の姿があった。
こんな自分で居たくない。
 
 
私は、謝罪について観察してみた。
 
コミュニケーションが謝ることから始まるとき、その関係では謝る側が一段低いところに立っている。
それが適する関係性もあるだろうけど、もともとフラットな関係なら、そこに戻るために言葉や態度が尽くされ、お互いの時間と労力が使われる。
謝られる側の時間と労力も等しく奪われてしまう。
 
そこに集まる人が、ほかの予定を調整をしてまで過ごしたかった「本来の時間」はそのずっと後から始まることとなる。
時間は後ろに伸びていき、次の予定を侵食していく。
過度に引け目を感じて、自分の希望を伝えられなくなることもあった。
 
不毛な繰り返しだった。
 
 
大切な人と過ごす時間を、その時の会話を、「ありがとう」や「楽しかった」で埋める人でいたいと思った。
 
我ながら利己的な理由だけど、その日から私は遅刻をしなくなった。
 
 
謝る回数が減ったころ、次第に、周りの人の言葉が気になるようになった。
謝って、謝って、謝ってばかりいる人が周りにたくさんいた。
母もその一人だったし、後輩にも、先輩にもいた。
カフェでたまたま隣あった人にもいた。
なぜか、女性ばかりだった。
 
共通していたのは、いつも一生懸命がんばっているのに、なぜか自信がなく肩身が狭そうなことだった。生きづらそうだった。
 
本人の責任ではないこと、まわりが求めていない場面で、先回りして謝っていることが多かった。
 
今日の夕飯を揚げ物にしたことを謝っていた。
曇りの日に、洗濯物が乾かなかったことを謝っていた。
家族の都合で先に帰ることを謝っていた。
誘った日に、先約があったことを謝っていた。
道が混んでいて、バスが遅れたことを謝っていた。
謝らなくていいと言われたことに謝っていた。
 
謝るたびに小さくなって、自分で自分を追い込んでいる。
自分で穴を掘ってどんどん自分を低いところに置くようになっていく。
それが当たり前になって、私なんて、と卑下していく。
そんな風に見えた。
 
それは、その人らしさを自ら無くす行為。
 
謝らなくていいよ。
伝えたところで、恐縮している心には簡単には届かないようだった。
 
その一方で、本当に本人の責に帰すことが起こったとき、誠意を持って謝っているかどうかは全く別の話なのだった。
素直になれないその気まずさを抱えて自己嫌悪に陥っているのもまた、その人自身。
 
アンバランスさがおかしかった。
これは社会に蔓延する病気なのだろうか、とさえ思った。
 
それはあなたのせいで起こったことじゃない。
だから、あなたが謝る必要はない。
そんな話より、したい話がある。
気まずそうな表情とではなく、過ごしたい時間がある。
毎回、気がつく度にそんなことを伝えるようになった。
 
意図したかどうかにかかわらず、自分の責任で相手を不快にしてしまったなら、心を込めて謝る。
それは一度でいい。
 
自分のせいじゃない時は、相手に共感を示しても、不要に謝らない。
不要な謝罪で自分を小さく低く抑え込むことは、相手にも自分にも誰のプラスにもならない。
 
小さな小さな行動だけどこれを積み重ねていくことで、周囲との関係が変わっていく。
そして、少なくとも私は、私のことが好きになっていった。
 
 
今、あなたはどんな言葉や表情で日常を過ごしているのだろう。
携帯の履歴という鏡に映っているのは、好きになれる自分だろうか。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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