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メディアグランプリ

完全無欠な後輩へ贈る、いぶりがっこの味は


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡部みほ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
更衣室で私は、彼女が腹巻をしていることに気付いた。
そしてピンときた。
 
またか。
 
私より1年あとに入社して来た後輩の彼女は、なんでも完璧だった。
保育園に入社した1年目の彼女と、2年目の私は、大ベテランの先生と3人でクラスを担当した。
何をするにもやる気があって、「これやりたいです! やってみてもいいですか?!」という彼女に対し、私はというと、前日仕事終わりに行ったライブの疲れを残し、来週のことは週末にでも考えればいいか……というなんともやる気のない劣等生だった。
 
彼女も私も地方からの就職組だったので、帰省をするとお土産を買ってきた。彼女が買ってきてくれるお土産といえば、京都名菓の阿闍梨餅。5日間しか日持ちのしない、めったに食べられない高級菓子だ。
そんな私の定番土産といえば、秋田名物のいぶりがっこだった。いぶりがっこは大好きだけど、なんだか、阿闍梨餅に比べると、ちょっと地味だった。
 
そんな劣等感を抱えて5年程たった頃、5月に入籍した彼女の後を追うように、私は6月に入籍した。
結婚式はどちらも秋口を予定していた。
「10月15日に決まりました! 先輩も来てくださいね!」
日取りが先に決まったのは彼女の方だった。
私はというと、式場はすぐに決まったものの、なかなか希望の日程が取れず、翌年の春にしようかという話も出始めていた。
ある日打ち合わせに行くと、プランナーさんが嬉しそうに私たちのもとへやって来た。
「いい日取りが空きました! 10月15日! 土曜日、大安です!」
聞けば、その日式を予定していたカップルがご懐妊だそうで、キャンセルになったという。
 
10月15日。
 
そう、後輩の彼女と同じ日取りである。
彼女の方はというと、上司たちの予定ももうすでに押さえ、新幹線の手配などまですでに完璧だった。
そんな10月15日にスライディングで滑りこんだ私。
元々結婚式は、親族と友人でしっぽりやりたいと思っていたから、職場の人には声をかけないつもりだったから良いのだが、なんとなくここでも彼女の後を追うような、そんな形だった。
 
結婚式も滞りなく済ませ、妊活に励んでいた。
なかなか子宝に恵まれずため息をつく日々を送っていた。
そんなある日、私は彼女の腹巻に気づいたのだった。
 
「あ、また先を越された」
 
すぐに気づいた。
気づかない振りをしようか。でも知りたい。聞こうか、聞かないか……
自分がショックを受けるのを承知の上で、私の口はもう開いていた。聞かずにはいられなかった。
 
大正解。
大撃沈。
 
私の方が先に社会人になったのに。
結婚式は同じ日だったのに。
なんでいつも私の方が彼女の背中を追っているんだろう?
やっぱり彼女が完璧で、私が劣等生だから?
彼女が育児休業に入る姿を、私は見送った。腹巻はしていなかった。
 
そんな私も、1年間の妊活を経て、遅れること1年、育児休業へと仲間入りした。
それから約5年。
彼女は3人の兄弟の母に、私は2人の兄妹の母になった。
 
家も近く境遇の似ている私たちは、お休み中もよく遊んだ。
彼女の息子は、幼稚園で、とても頑張り屋さんだそうだ。
先生の期待には120%応えたいタイプらしい。
発表会では、誰よりも大きな声で歌を歌っていたそうだ。
そしておうちに帰ってきて、ぐったりと疲れているんだとか。
そして
「私とそっくりなんですよね〜」
と、彼女は言った。
 
そうか、そうだったんだ。
 
私は、彼女の、完璧な部分しか見えていなかった。
見えない努力も、努力の先の苦労も、私には見えていなかった。
 
私が完璧に物事をこなすのが難しいように、彼女にとっては完璧にしないことが難しいのだった。
私はきっと、何かを勘違いしていた。
なんでも完璧で、仕事も早くて、上司からも好かれる彼女が、羨ましくて仕方がなかった。
全て私が持っていないものだったから。
だけど、その裏側にある苦労や努力は、私には見えていなかった。
 
はたと、自分を振り返ってみた。
結婚式には、教え子とその保護者の方々が、サプライズでおめでとうを言いにきてくれた。
可愛い子どもたちも生まれてきてくれた。
自分で、やってみたいことも見つけられた。
そしてそれを応援してくれる家族もいる。
 
ないものばかりに目がいって自分を後ろめたく思っていた。
だけど、ちゃんとたくさん、あった。
 
彼女には彼女の、私には私の、自分らしさがある。
ないものを欲しがるより、今、持っているモノを、大切にしていってあげたい。
自分が感じることに素直に、自分らしさを大切に。
 
彼女は一足先に、職場に復帰した。
私はあと1年、お休みする予定だ。
そこに焦りはない。
私はこの1年で、さらに深く自分の中にあるモノに耳を傾けて、感じて、動きたいと思っている。
 
人に見えている部分は、ごく一部。
人が羨ましくなる時もあるけれど、焦らず、冷静に、裏側も想像してみる。
そして何より大事なのは、自分の内側に目を向けること。
 
尊敬できる私の自慢の後輩。
先輩が先輩らしくなくたっていいじゃない。
 
仕事に復帰した彼女は、今頃完璧に仕事をこなしていることだろう。
次に会えた時には、毎日の努力を、思いっきりねぎらってあげたいと思う。
 
私が最も美味しいと思う、自慢のいぶりがっこと、ビールで。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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