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メディアグランプリ

忘れてしまいそうだけど忘れてはいけない出来事


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:上田聡代(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
地鳴り⁈ 大爆発⁈
寝室の吊り下げ式ライトが大きく揺れ始めて認識できた。
地震! とっさに頭から布団をかぶり、揺れが収まるのを待った。
 
数分間続いたと思ったその揺れが、15秒だと知ったのは後のことだった。住んでいたマンションが二つに折れてしまうような、10階から地面にたたきつけられるような恐怖。
 
終った?
そっと布団をのけて、揺れが収まったことを十分に確認した私は、おそるおそる起き上がり、そのままベランダに出た。煙がでていないかどうかを見渡した。どうやら家事は大丈夫な様子。冷静さを失ってはいなかったが、不安でたまらなかった。
 
誰かと話がしたったのか、心配だったのかはわからないが、実家の母に電話した。
「もしもし? お母さん? 揺れたよ。怖かった。そっちは大丈夫?」
「揺れたね。物がちょっと動いたけど大丈夫よ」と落ち着いている母の声を聞いて、
ようやく安心できた。母は、私が怖がっていることを察していたのかもしれない。
「こっちは大丈夫やから、心配せんでもええよ。余震もくるやろうし、気をつけなさいよ」と言われ電話を切った。
 
1人でいるのが怖かった。大きな総合病院で勤務していた私は「病院は大丈夫。安心」と信じていたので、かなり早いけど仕事に行くことにした。大急ぎで支度を済ませて玄関の鍵を閉めて出発した。エレベーターのボタンを押そうとしたが動いていなかった。驚くことなく、10階から階段を駆け下りた。
 
始発のバスは時刻通りに来た。窓から見える風景は、いつもと変わりない。
「あんなに揺れたのに、強いな……」と思っていた。バスを降りてパン屋さんに寄ってから病院へ向かった。職員専用の出入口から病院に入った私は、いつも通り階段を使って地下1階の更衣室に向かう。朝早く、誰もいない広い更衣室は気味が悪かった。さっさと着替え終わり、エレベーターのボタンを押そうとして戸惑った。全てのエレベーターが「休止中」だったのだ。
 
階段しかない。更衣室があった地下から私が勤務していたのは8階まで黙々と上った。5階くらいで足が重くなり休憩。自動販売機でオロナミンCを買い飲み干す。元気回復した私は残りを駆け上った。
ナースステーションに入る。開いた口が塞がらなかった。薬品棚が倒れて、中の消毒瓶が割れて散乱していた。何人もの赤ちゃんがいるはずの新生児室に赤ちゃんはいなかった。
そこへ、当直していた3人の看護師が次々に集まってきた。
 
「怖かったです。採血の途中だったんですけど、立ってられなくなって、こんな感じになってました」と、その時の体勢を教えてくれた看護師。
 
「患者さんは異常なし。赤ちゃんはお母さんに抱っこしてもらってる。」
「夜間師長には異常なしと連絡したよ」と、惚れ惚れするくらいのしっかり者看護師は友人だった。
 
怖かっただろうに……
必死で頑張ったんだな……
「そうやったんや。怖かったよな。がんばったな」という、ありきたりの言葉しか見つからなかった。
 
私自身が怖かった。病院は安全な場所と思って非難半分の気持ちで仕事に来たが、自宅より大変な状況を受け入れることができなかったが働くしかない。
まずは、消毒瓶が割れて散乱していたので、これを片付けようとガラスを拾い始めた。掃除は終わっていないけれど、危険なものだけは片付けた頃、日勤帯の時間が近づいてきた。
続けて電話が鳴った。電車が動いてないので出勤できない人。家が半壊状態になってしまって出勤できない人。
 
出勤可能な人を集めて最低限の人数で乗り切ることを決めた。帰れる人はかえって、休めるときに休もう! とチームみんなで相談した。
幸いにも、お産が近い人はいなかったので、お母さんと赤ちゃんの安全と安心を優先することにした。
 
私たちスタッフは口数が少なかった。それぞれが不安を抱えていたのだ。
そこに、「おつかれさま!」
いつもと変わらない元気な声で登場した。その病棟の看護師長だった。
「え? どうやって来たんですか? 御堂筋線は開通したんですか?」と聞くと、
「ママチャリで来たよ! 久しぶりに乗ったから空気がなくて、途中空気をいれさせてもらった」と笑いながら答えられる。平坦ではない、10キロ以上はある道のりを……
おまけに、「パン屋さんが空いてたから、パン買ってきたよ。ここのメロンパン美味しいのよ。まずは食べよ」と、パンを開け始めた。あっという間に空気が変わった。
私たちは、メロンパンをかじりながら、それぞれの怖かった時間を話した。誰かに話をするだけで、誰かが話を聞いてくれることだけで、気持ちが楽になっていった。
 
長く感じた1日の勤務終了が終了。
1人でマンションに帰ることが不安だったが、電車も動いていないので実家に帰ることもでない。そんな話をしていると、実家と同じ方面の友人が、「車で出勤したから、一緒に乗っていく?」と声をかけてくれた。私は、有難く同乗させてもらった。
 
実家に到着。「ただいま!」と、帰って血の気が引いた。
本棚や鏡台は倒れているし、ピアノも定位置から10㎝程動いているではないか。キッチンは食器が割れて散らばっているし言葉が出なかった。
こんな状態で、「物がちょっと動いたけど大丈夫よ」と言っていた母。改めて、母の強さを感じた瞬間だった。職場に続いて実家でも、またもや片付けをしていた。
 
その頃には、恐ろしいニュースが次々とテレビに映し出されていた。
壊れた高速道度、潰れた建物、家事、跡形もない駅。
どれも馴染みの深いものだっただけに、言葉が出なかった。
 
実家の揺れはすごかった。余震でも家が崩れそう。それでも笑っている母。
その母のそばにいて、気づいた。私は、自分のことばかり考えていた。
 
病院は安全だと思っているのは、私だけではない。出産のため、家族と離れて入院しているお母さんと赤ちゃんが安心できるようにしよう。そのためには、私が笑顔で恐怖を受け止めてあげなければならないと思ったのです。
怖くないと言えばうそになるけれど、母といると笑うこともできた。
私が、そんな存在にならないといけないと思った。
 
翌日から、穏やかな笑顔で仕事をすることにした。病室に笑い声を届けるよう努力した。
正直、怖かった。余震があるたびに心臓が漠々。
 
私なんかより、もっともっと怖い思いをした人。
家をなくした人。仕事をなくした人。大切な愛する人を亡くした人がいる。
その経験をされた人々が踏ん張って築いた現在がある。
 
忘れてしまいそうな記憶。
忘れてはいけないと思っている記憶。
忘れてはいけない記憶。
毎年1月17日は、防災グッズの点検の日。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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