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猫に噛まれて松葉杖をついた男 猫オジサンになる


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤絵理子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「トムくんに噛まれて松葉杖になってしまった」
里帰り出産したときのこと。まだ病院にいる私と娘に会いにやってきたダンナは松葉杖をついていた。
 
トムは実家にいた猫である。当時5歳くらいか。ハチワレのトムは不思議な猫だった。拾ってくれた父のことが大好きで、自宅で執り行った父の葬儀の時には、お経が始まると自分で襖を開けて入ってきて勝手に参列し、終わると同時に出ていって皆を驚かせた。その後は母を守っているつもりなのか、来客にとても厳しかった。なんというか、彼の中には序列があったようだ。家の中では来客は彼よりも下。不用意に目の前を通るとご機嫌を損ね、足元を爪で引っ掻くという洗礼を浴びせる。母の友人は遊びに来るたびにトムに献上品を持ってくるほどのお猫様であった。年に1回会うか会わないかのダンナが来客認定されていることはまず間違いない。なので冗談交じりにダンナには、実家に帰ったらまずトム閣下にご挨拶をするように、そしてくれぐれも粗相のないようにと申し送りをしておいたのだが。
 
ダンナはやってしまった。
松葉杖のダンナと一緒にやってきた姉が解説してくれた。
トム閣下は窓際で夕涼みをしていた。
それを見たダンナは、ビルの9階でベランダのないこの窓は開いていると危険! トムくんが落ちてしまう!
そう判断して咄嗟にトム閣下の目の前のサッシをピシャリと閉めたのだ。何の断りもなく。
姉は直感でヤバイと思った、らしい。
ああ、よかった、と窓から離れるダンナのうしろ姿をチラリと見るトム閣下。
次の瞬間、ダンナの右足首、アキレス腱あたりに激痛が走ることになる。
逆鱗に触れてしまったのだ。
 
簡単な消毒をして様子を見ていたら、翌日足首が熱を持って腫れあがっていたらしい。かなり深く噛まれていたらしく、病院で念のため切開して消毒してもらったという。それ故の松葉杖。気の毒だが笑ってしまう。
結局ダンナは、娘の退院の日、娘を抱っこして家に連れ帰るという夢が叶わなかったばかりか、トム閣下に嫌われ、実家ではビクビク過ごすことになった。
一方、赤ちゃんの娘。トム閣下は赤ちゃんという存在を理解していたのか、娘に対しては驚くほど寛容な態度を見せた。娘を見る目は穏やかで、まるでお守をしていたようにも見える。不思議だ。
 
猫を飼ったこともなく、もともと猫との付き合い方など知らないダンナ。トムの一件で、猫に対してどのような感情を持ったのかは定かではないが、私は私でいつか自分で猫を飼いたいと思っていた。
 
念願かなって我が家で猫を飼い始めたのは13年前のこと。ようやく色々な条件が整って、猫飼育可の賃貸一戸建てに移り住むことになった。ご縁というのは不思議なもので、その家に引っ越しを決めたとたんに、友人から仔猫の里親を探しているという話が飛び込む。即断即決。そして1匹の黒猫の女の子が我が家にやってきた。子供たちは大喜びである。おばあちゃん家でしか触れられなかったモフモフの生きものが家にやってきたのだ。そんな子供たちを横目に、いたって普通な感じ、いやむしろ引き気味のダンナがいた。
そりゃあそうだろう。好きにしたらいい、そんな感じだった。
さらに翌年、近所でよく見かけていた黒猫の男の子が我が家に猛アピール。家族会議の末、我が家に迎えることになった。黒猫が2匹になった。
 
さて最初にやってきた黒猫のまぐろちゃん。まったくダンナに懐かない。ダンナの出す生活音の大きさを怖がっている節もある。ダンナを見て逃げる。ある日珍しくダンナの膝に上がったと思ったら、上を見上げてダンナだと気づいた瞬間飛び退いた。間違えたらしい。これにはダンナもショックを隠せなかった。
だが、私から見たらお互い様なのだ。5年も一緒にいて、大きさも顔もまるで違う2匹の黒猫を全く見分けていなかったらしいのだ。信じられない。嫌いじゃないけどそこまで関心はないという感じだろうか。もう1匹の黒猫が病気で逝ったときも、どこか他人事というか、さほどショックを受けていたようにも見えない。
 
とはいえ、もう何年も一緒に猫と暮らしている中で、ダンナはずいぶん猫好きになってきた。トムがかなり特別な猫だったということは理解したようで、当時のことは笑い話にしている。我が家の猫の写真を撮りまくり、可愛い可愛いと言っている。
だが、肝心の猫たちの反応はいまひとつであった。特にまぐろちゃんはダンナを避け続けていた。かわいそうに。片思いの図である。これがダンナの限界かなと思いつつ、薄情な私はさほど気にもしていなかった。
 
 
時が経ち、現在。
「ぶんくーん、お散歩行くよー」
毎朝、出勤前にぶんた(キジ猫4歳)に声をかける。
 
あのダンナが、だ。
こんな日が来るとは。
 
きっかけは、私の出張だった。
ダンナと息子に、今は総勢4匹になった猫たちの世話を頼んで4泊5日の出張に出かけた。ご飯、お水、トイレ、そしてお散歩。分担してやってねと。
何度かの出張を繰り返すうちに、ダンナは日々、猫たちの様子を気にかけるようになっていた。何故鳴いているのか、お腹が空いているのか、外に行きたいのか。ちゃんと意を汲もうとしているように見えた。めちゃくちゃ成長している。
そして気づけば猫たちもダンナに一目置くようになっていた。ダンナから逃げ回っていたまぐろちゃん(現在13歳)も、今は、わかった上でダンナの膝に上がるようになった。ダンナが感動して震えている。
 
なるほど。そうか、お世話の力だ。
お世話をしてなかったダンナと、お世話をされてなかった猫たち。
ダンナはこの10年以上ずっと、猫カフェのお客さん的立ち位置だったんだ。
何と単純な話ではないか。
お世話とは関心を払うこと、責任を持つこと。関心を払って責任を持って猫たちに接したら、猫たちがちゃんと応えてくれたのだ。
ということは、娘や息子と向き合えなかったのも、お世話をしてこなかったからなんじゃないの? とちょっと意地悪なことを思ったりもするが、本人には言わないでおこう。
 
今や私が出張ではない日も、ダンナはご飯の世話をする。散歩にも連れ出す。何より本人が嬉しそうだ。毎日毎日猫を見て可愛い可愛いと言いながら抱っこしている。こちらがちょっと引くほどになってきた。猫オジサンと呼ぶにふさわしい。
私は心おきなく出張に出かけ、ダンナは猫との絆を深め、猫たちは快適に暮らす。よしよし、好循環だ。
 
NO CAT, NO LIFE
猫たちとの生活は続く。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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