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孤独な闘いの中で見える風景


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北見 綾乃(ライティング・ゼミ2月コース)
※この記事はフィクションです。
 
 
「ヒカリが入院した」
 
バンドのリーダーであるギターのソウタから、バンドメンバーにLINEのグループチャットが入った。ソウタの妹で、メインボーカルのヒカリがひどい頭痛で入院したという。
 
「ヒカリちゃんは大丈夫なの?」
 
「髄膜炎っていう病気らしい。薬が効けば問題ないっていうけど、しばらく入院することになるって」
 
「しばらくって、ライブは……?」
 
「ライブは無理だ。皆に『ホントにごめん』って」
 
メンバーそれぞれスマホの画面を呆然と見つめていた。一緒に組んでやってきた社会人アマチュアバンドの初ライブが来週に迫っていた。この日を目指して忙しい中あれだけ練習してきたのに。
 
いや、一番悔しく、つらいのは多分ヒカリだろう。バックコーラスを担当していたミサキは、先日二人一緒にはしゃぎながらステージ衣装を買いに行ったときのことを思い出してため息をついた。ミサキは以前、別のバンドで歌っていたヒカリのステージを見たことがある。あんな太陽のように輝くヒカリの隣で、その輝きを受けて歌うことに憧れを感じていた。だからこのバンドに誘われたときは心底うれしかった。
 
「ライブは中止?」
 
ミサキの問いかけに対し、しばらく間をおいて、リーダーのソウタから返信がきた。
 
「ライブなんだけど、ミサキ、今回お前メイン歌えない?」
 
(え……私?)
 
「曲は全部知っているし。ヒカリがそうしてほしいって」
 
ミサキは絶句していた。確かに曲は全て把握している。歌えるかと問われれば「歌える」ということになるだろう。しかし、これらの曲は元気なヒカリのキャラクターと声質に合わせて作られている。この短い期間で、メインボーカルとして歌いこなせるようになるという自信は正直なかった。
 
もちろんミサキも、歌い手としてメインボーカルに憧れることはあった。スポットライトを一番浴びるステージの花形だ。でも、どちらかというと引っ込み思案のミサキは、バックコーラスという立場を気に入っていた。歌うことは好きだけれど、前面に出るのは性に合わなかった。これまでステージで歌った経験も皆無だ。
 
でも……。
 
次々と寄せられるバンドメンバーの期待の言葉。ヒカリだけじゃない。みんなこの日を楽しみに頑張ってきていた。もちろん、またライブをする機会は多分また作れる。でも何かと忙しい社会人メンバー。日程を合わせるだけでも大変だ。
 
ミサキは迷いながらも画面から感じるプレッシャーに押されるように返信を打った。
 
「わかった。やれるだけは、やってみる」
 
「よし、全員集まれなくても、ライブまでできるだけスタジオ練習入れよう!」
 
ソウタを中心に急遽直前の追加リハーサル日程が組まれた。
 
 
* * *
 
 
やるといったものの、ミサキは本当に自分がステージの中心に立っていいものかまだ悩んでいた。
 
追加で組まれた練習でも思うようには歌えなかった。録音を聞きながら、ヒカリのようなパッと人を惹きつける何かが自分の声の中にない、と思う。下手とか上手とかそういう次元のものではない、声そのものに出るヒカリのキャラクターのようなものだろうか。
 
「ダメだ。私、ヒカリちゃんのようには歌えない……」
 
LINEを開き、ミサキはソウタにそう弱音を吐いた。
 
「ごめんな、ミサキには負担かけてさ。でも、ヒカリのように歌おうと思わなくていいから。ミサキのまま歌ってくれればいいから。多分それが一番届く」
 
(そうか、私、ヒカリちゃんになろうとしてた……)
 
ヒカリだけを目的にしていた観客へのチケットはすでに払い戻しをしている。
 
(ライブを見に来る人は、私がヒカリちゃんのように歌うことを期待しているんじゃない……。ただ単純にいいステージを見たいだけなんだ)
 
観客に向けていいステージを届けること。それが今回の私の使命。太陽とは違っても、自分なりの輝きを出せばいい。ミサキの中に少しだけ“覚悟”がその形を見せはじめた。
 
 
* * *
 
 
ライブ当日。
 
正直に言えばミサキ自身は明らかに準備不足だ。緊張で指先までしびれている。心臓の鼓動もバカみたいに早く強く打っている。
 
音響チェックのリハーサル準備をしながらソウタがバンドメンバーに声をかけた。
 
「こうやってライブやれて、よかったと思う。ヒカリのことは残念だったけど、観客には俺らのゴタゴタは関係ない。気持ちだけはプロだってくらいの意識をもって、全力で、みんなを楽しませてやろう」
 
続けてミサキの青ざめてこわばった顔を見て、ソウタは笑顔で声をかけた。
 
「ミサキ、お前ならやれる。信じろ」
 
そのまっすぐな目をみて、緊張はしながらもミサキは覚悟を決めることにした。
 
「分かった。ありがとう」
 
 
リハーサルを終えたミサキはフロアに続々集まる観客を眺めながら、果たしてこの人たちに自分の歌が受け入れられるだろうかと不安にも感じていた。しかし、もう引き返せない。今できることは等身大の全力をたださらけ出すことだけだ。それを相手がどう感じるかはコントロールできない。
 
ソウタたちのバンドはその日のトップバッター。時間となり、改めてステージに上がった。メンバー同士目配せをして、うなずく。いよいよだ。
ドラムのカウントから最初の曲のイントロ始まる。それと同時に強い照明が自分を包んだ。
 
(眩しい。こんななんだ。ステージからの景色って)
 
大好きなバンドメンバーが周りにいるのは心強い。しかし、お互いそれぞれの役割は誰にも代われない。値踏みをするような多くの視線を感じながら、ミサキはそこに一人果敢に対峙した。それは孤独な闘いだった。
 
(ヒカリちゃんもこんな風に感じてたのかな?)
 
こういう場所で花ひらける人はきっと選ばれた人だけだろう、とミサキは心の中で苦笑いした。間違いなく私は違う。でも、向いていないと思っても、やらなきゃいけないときもある。それが……今。
 
精一杯の笑顔を作り、リズムに合わせて大きく体を動かす。
 
 
ふと、選ばれた側の人間に見えるヒカリにも、心細い瞬間があるんじゃないか、という気がした。だからたまに「ミサキちゃんがメインボーカルの曲も入れない?」とか、「ツインボーカルの曲もいいんじゃない?」などと言っていたのではないか。あれは優しいヒカリが要らぬ気を使って言ってくれているんだと決めつけて、頑なに断っていた。けどそれだけじゃなくて、実はこのちょっとした心細さを分かち合える相手が欲しかったりして……?
 
(ライブが終わったらお見舞いに行って、直接ヒカリちゃんに聞いてみよう)
 
「バレた?」そんな風に言って、いたずらっぽく笑うヒカリの顔が浮かんだ。少しずつ心がほぐれる。代わりをやれとこの風景を見るチャンスをくれたヒカリに、今ならありがとうと言える気もする。
 
 
ソウタのギター・リフが印象的なイントロ部分が終わりに近づいた。ミサキは大きく息を吸い込み、
(私が差し出す歌を、皆が楽しんでくれますように……)
そんな祈りをこめて歌い始めた。
 
ライブハウス中にバンドメンバーの演奏と融合したミサキの声が響き渡る。いつの間にか緊張していたことも忘れ、轟音の中、ミサキはただただ無我夢中で歌っていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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