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惰性で10年間バイオリンを続けた私


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:飛鳥(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
中学から大学時代にかけての計10年間、オーケストラでバイオリンを弾いていた。
なのに、簡単な曲すら人前で弾けない。一人暮らしを10年間していても料理や掃除が苦手な人がいるのと同じだ。
 
私とバイオリンの出会いは中学生のときの部活動だった。本当は小学校のときに経験があった某楽器をやりたかったのだが、入部時のジャンケンで負けてしまったのである。バイオリンを選んだのは、募集人数に足りていなかった楽器のなかで最もリーズナブルな楽器だったからだ。
今思えばその時点でだいぶモチベーションが疑わしいが、ともかく中高一貫校で6年間のオーケストラ生活の始まりである。
 
バイオリンがここまで繊細な楽器だとは知らなかった。弦をこする弓を持つ手に少しでも力が入ったり、当てる弓の角度を間違えたりすると、金属を爪で引っ掻いたような甲高い音が出る。もしくはノコギリで金属を削るようなギーギー音。
バイオリンを始めて1、2年の間は、練習を聞いていた家族に「ノコギリの音がする」と笑われるほどだった。
 
私の学校は部活動にそれほど熱心ではなく、基本は週2回、放課後1時間の練習のみだった。家で練習していると家族に煩いと疎まれるので、次第にバイオリンを弾くのは部活の練習時のみになっていった。
 
その練習量は、モチベーションが特別高くない私でも楽しく続けられる天国だった。
同世代の他の学校の生徒は1日何時間も練習に打ち込んでいるわけだが、そんなことも知らなかったのである。周りも同じくらいの実力で、バイオリンはオーケストラのなかでも人数が多い楽器なので演奏時のプレッシャーもない。特別危機感を抱くこともなく、6年間をそこで過ごした。
 
高校卒業までバイオリンを続けられたのも、大学入学後もバイオリンを続けることを選んだのも、バイオリンが特別好きだったからというわけではない、と今になっては思う。敢えて理由を上げるとすれば、大人数で1つのものを創り上げる一体感が好きだった、とは言えるかもしれない。
 
大学のサークルでも、私はオーケストラでバイオリンを弾くことを選んだ。
新しいことを始めるより、今までやっていたことを続けるほうがずっと楽だ。だから私はそれが自分の本当にやりたいことなのか自問することをしなかったのかもしれない。
 
そして、何故か根拠の無い自信があったのである。
たしかに、特別クラシックを深く学んできたわけではない私は、サークルの自己紹介で「好きな作曲家はドヴォルザークです」と言う人がいたのには内心戦慄していた。幼少期から10年以上楽器を続けている人がいるのも知っていた。それでも、初心者も募集しているサークルだったし、私も中高で6年間バイオリンをやってきたのだから通用するだろうという考えがあった。
大学入学を機に楽器をやめた高校同期に対して「6年間も続けてきたのに勿体ない」と思っていたほどだった。
 
時間がたっぷりある大学生活、時間に余裕のできた私は、やっと真剣に楽器に向き合い始めた。だが、そんな私は壁にぶつかる。
 
他の学生を真似て、自分の練習を録音することにした。そこで自分の録音を聴いた私が耳にしたのは、バイオリンを始めた頃に家族に笑われた、あのノコギリのような「ギーギー音」である。勿論、基本的な演奏はできている。だがその背後に、あるいは音と音の間に、微かにではあるがギーという音が鳴っているのだ。上手い人が演奏しているときのあの透明感のある音とはどう考えてもかけ離れている。
 
自分で演奏しているときは全く聞こえないのだ。自分の音に慣れすぎてしまったのかもしれない。耳が悪かったのかもしれない。6年間弾けていると思っていた私のバイオリンの音は、実は初心者と大差ないくらいの音質だったのだ。
 
それ以降、私のバイオリン猛特訓が始まった。どんなことがあっても1日2時間は練習時間を確保する。練習したことによって、弾ける曲の難易度は上がってきた。だが、弾く時のクセがあるのだろうか、問題の音質は一向に変わらなかった。
 
どうしようも無くなって、バイオリンの教室に通ったこともある。初心者が習得するような簡単な曲からやり直し、基本技術からプロに指導もしてもらったが、何カ月やっても音質が改善されている気配は無かった。先生も困り顔だ。
 
それでも私の練習姿勢を評価してくれる友人に恵まれ、大学4年間ひっそりとオーケストラでの演奏は続けた。
卒業後、社会人サークルで活動を継続する友人もいたが、私はもうバイオリンは辞めると決めた。
 
やっと、やっと身に染みて感じたのだ。私にはバイオリンの実力はこれっぽっちも無かったのだと。
 
気付くのに10年かかった。
けれども、それだけやらないと気付けなかったのかもしれない。あるいは、中高時代に本気で練習していたら、もっと早くに気付けていたのかもしれない。
 
それでも10年間を費やしたことは無駄ではなかった。
本気で向き合う期間があったからこそ、上手くいかなかったときはキッパリと諦める決意もできるのだ。
 
次なにかを始めるときは、初めから本気で向き合っていくつもりだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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