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風呂嫌い猛者たちの攻略法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:横井マリ(ライティング・ゼミ特講)
 
 
どうしてお年寄りは風呂が嫌いなんだろう? 断っておく。ここでいうお年寄りとは、風呂嫌いの方限定である。
日本人と言ったら風呂文化に親しむ人種であり、一日の疲れは湯に浸かって取るはずだ。しかも、お年寄りの多くは、自宅に風呂がなくて銭湯に通った経験もあるだろう。風呂でさっぱりできるって、ありがたかったんじゃないだろうか。だったら、喜んで入ってくれたっていいと思うのだ。
 
デイサービスに勤める私の本日の仕事は、風呂当番である。脱衣を手伝い、頭の先から足の先、はたまた尻の穴まできっちり洗い上げて湯船に浸かっていただくのが主な内容だ。モウモウと湯気の立つ浴室は湿度満点で、冬はもちろん、真夏は汗だくの作業となる。そんな中、全身を洗いつつケガや皮膚のトラブルがないかをさりげなくチェックし、万が一滑って転ぶことがないようしっかり見守る。緊張感も高い過酷な業務である。
 
さらに、本日はもう一つ重大なミッションがあった。S様をお風呂に入れることだ。
 
このS様、来所まもない頃は、常に険しい目つきで他を寄せ付けず、昼食後からは帰る時間になるまで玄関に居座るツワモノだった。それをなだめたりすかしたりし、ご本人の認知症の進行も相まって、ようやくデイサービスに馴染めるようになっていた。そして、週1回の入浴が追加されることとなった。
その第一回目は、案の定「入らない」の一点張り。職員も食い下がったが、
「無理やり入れようとするなら、まあ帰る!」
と恫喝にも似た様相となり、入浴は断念せざるを得なかったという。第二回目も同様に撃沈し、職員に諦めムードが漂い始めた第三回目が、私の出番というわけだ。
 
私にも介護員としての意地がある。ぜひ、この手で入れてみたい。でも、どうしたらいいんだろう? 入浴拒否の歴代猛者を思い出しながら、経験値を繰る。「殺される~!」と叫ぶ方、噛みついたり、ひっかいたりして暴れる方、服を握りしめて脱がない方……。そして、K様のケースを思い出した。頑なさもそっくりだ。これならいけるかもしれない。
 
入浴拒否の方への接し方 鉄則1.
お風呂へ行きましょうと声をかけてはいけない。入浴目的で近づいてきたとサトラレようものなら、浴室へ連れていくことさえ不可能になってしまう。「ちょっとお願いがあるんだけど」などと要件は伝えず誘い出す。
 
入浴拒否の方への接し方 鉄則2.
上目遣いで、下手に出る。威圧的な人には思わず拒絶したくなるものである。一方、困った犬みたいな顔で近づいて来られたら、助けてやろうかという気にもなる。甘えるような、すがるようなイメージで話しかけると成功率が高い。
 
続きの会話を数回シミュレーションする。よし、なんとかなりそうだ。
 
デイルームで職員と一緒に脳トレプリントに取り組んでいたS様に声をかける。
「Sさん、ちょっと用事があるんで、こっちに来てもらっていいですか?」
すんなり立ち上がって脱衣所まで来てくれた。
「申し訳ないお願いがあって、」
「なんだぁ?」
さあ、ここからが本番だ。
「市役所から連絡があって、いま高齢者の間で悪い皮膚病が流行ってるんだって」
「ほんとかぁ?」
「うん(全くの嘘だけど)。それでね、市役所から、月に1回でいいからデイサービスで風呂に入れてくれって頼まれたんだけど、」
「今からか?」
言うが早いか、上着の第一ボタンに手をかけて脱ぎ始めるではないか!
「え、お風呂入ってくれるの? いいの?」
「あん? 補聴器は外さないかんな?」
こうして、いとも簡単にお風呂に入ってくれましたとさ。めでたし、めでたし。
 
のんびり湯船につかり、お湯を混ぜたり、体を撫でたりしているS様。まったくの拍子抜けである。とりあえず、左のすねに内出血があるのも発見できたし、心配されるような皮膚トラブルはないことも確認できた。良かった。
のほほん顔のS様が、ぽそりと言う。
「風呂は入りゃあ気持ちええけど。脱いだり着たりがめんどうだでなぁ」
そうなのだ。K様も同じことを言っていた。高齢になると、起き上がっているだけでも大変なのだという。ましてS様、92歳の大御所である。寄る年波には逆らえない部分があるのだろう。
 
人を動かすには、納得や共感が必要だと聞く。動くのが辛い。めんどくさい。その億劫な気持ちを乗り越えさせるほどの納得と共感とは? 皮膚トラブルが嫌だから、職員が気の毒だから……。理由はなんだっていい。ここはやはり職員がひと肌もふた肌でも脱いで、重い腰を上げるきっかけを提供していくしかないだろう。
ちなみに、K様には「シラミが流行ってるらしくて」を使っていた。
「そんなバカなことあるか!」
「それがあるんだって」
不毛なやりとりが続き、K様からちょっと笑いがこぼれると、されるがまま服を脱いでくれたっけ。ということは、笑いにも人を動かす力があるというわけか。メモしておこう。
最後に、風呂嫌いのお年寄りの皆様へ。次回もお手柔らかに頼みますよ。
 
 
 
 
***
 
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2022-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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