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メディアグランプリ

怒りという感情の正体

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:さかまきK(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「ふざけるなよ! 人のこと馬鹿にしてるのか? そんな横柄な商売を続けてると、今に痛い目を見るぞ!」
 
月曜日午前9時。一発目の電話。
今日はついていないな……そんなことを思ってしまう。
ひとまず深呼吸。
 
「この度は大変ご不快な思いをおかけして申し訳ございません。もしよろしければ、どのようなことがあったのかお聞かせいただけますでしょうか?」
 
「あのね、こっちは金払ってんの。それであんな対応されたら、そりゃ頭に来るってわけよ」
 
「誠に申し訳ございません。店舗のスタッフにどのような失礼がございましたでしょうか?」
 
「失礼なんてもんじゃないよ。おたくの従業員教育はどうなってんのって話。あいつを絶対辞めさせろ。そうしない限り許さないからな」
 
注文した商品と違う物が届き、それを店員に伝えにいったら、謝りもせず面倒くさそうに対応されて頭にきた、ということだった。
 
難航する就職活動の末、意気揚々とスタートを切った私。
しかし、最初に配属されたのは、全国展開する飲食店のお客様窓口だった。
それはすなわちクレーム担当を意味していた。
 
毎日ひっきりなしに寄せられる苦情の嵐。
日々こんなにもたくさんのクレームが生まれ続けるなんてどうなっているのだろう。
同期の中には、電話中に泣き出してしまう子もいた。ある人は、昼休憩に出たきり永遠に戻ってくることはなかった。
それほど精神的ダメージの大きい部署だった。
 
そんな中、私は比較的淡々と向き合っている風に見えたかもしれない。
先輩たちから「肝が据わってるね」などと言われ、確かにさほどショックを受けることはなかった。
それはなぜか?
既視感があったからである。
というのも、この怒り、もはや馴染みがある。
そう、父親である。(クレーマーではないと言わせていただきたい)
 
私の父は曲がったことが大嫌いな性格で、なんでもきっちりしないと気が済まない。
特に仕事においてそれは顕著で、先日も父の職場に造園業者さんが来た際、砂利道の草を芝刈り機で刈り取ったために、石が飛び跳ねて窓ガラスが傷だらけになってしまうという被害が発生した。
他の職員さんは、不満を覚えつつやり過ごす状況の中、作業終了後に戻ってきた父はその杜撰な対応を見るなり、交渉に乗り出した。結果、先方は謝罪と窓ガラスの弁償をするという運びとなった。
 
なにもそこまでしなくても……と思う方もいると思う。私もそうだ。
けれども、父にとってそれはあるまじき行為で、自分も断じていい加減な仕事はしないという信条に基づくものだった。
仕事というのは、どんなことでも誠心誠意取り組むものであって、自身がそうするがごとく相手にもそれを求めてしまう。
ゆえに残念で悲しい気持ちとなり、改めてほしいと願うのであった。
 
しかしながら、そのような経緯で耐性があったとは言え、私の電話応対は火に油を注ぐようなものだった。
毎度のように「あなたじゃ話にならないから、上の者と代わってくれ」と言われてしまう。
緊張でたどたどしく新人丸出しだから? 不安が滲み出ていて頼りないから?
 
私のデスクの隣には、ハイパー消火器との異名をもつ女性が座っていた。
教育係を務めるその方は、どんなクレーマーの怒りも鎮火させてしまうスペシャリスト。
お手本として崇めるその対応を日々観察していて、ふと気づいた。
そのハイパー消火器さんは、電話中、常に動いているのである。
もちろん歩き回っているわけではない。
お客様にお詫びをするたびに、深々と頭を下げていたのだった。
電話の向こうの相手には見えるはずもないのに。
 
結局この日も、消火器さんが私に代わって対応してくれたことで、見事に怒りの収まったお客様は最後、
「来週また行くからな、その時に変わってなかったら今度は許さないから頼むぞ。俺は毎週通っているから、うやむやにしたところですぐバレるからな。じゃ、よろしく!」
 
なんと、また来てくれると言うのである。
そして実際、再来店してくださり、後日お礼の電話を頂いたのだった。
(従業員は辞めておらず、店長に接客指導を徹底するよう依頼した)
 
嫌な思いをしたら、何も言わない代わりに、そっと離れていく人も少なくない。
けれどもこの人は、また来店するために、そして同じような思いをしないために、クレームを入れた。
毎週のように通うお気に入りの店で自分が邪険な扱いを受けたと感じ、傷ついたのかもしれない。
とても分かりづらいというか、誤解してしまうけれども、あの怒号は店に対する愛と期待の裏返しのように思えた。
 
そして、消火器さんは言った。
「たとえどんなに些細な事であっても、そのことに対して誠意をもってお詫びするのよ。どんなに怒られたって、見捨てられることほど怖いものはないからね」
 
たしかに、寄せられる声の中には理不尽なものも存在する。
でも、怒りの向こうにはその人の情熱や信念が隠れていることも多い。
なので、それを探り当てる謎解きのようなものだと思って、以後対応することにした。
すると次第に、自分一人の力で最終的にお客様に納得いただけるよう変化していった。
 
そんなある日、消火器さんが
「あなたのお客様対応はいつも丁寧でいいわね。どんな相手であっても先入観を捨てて、謙虚に向き合うしかないからね。その調子よ」
と優しく微笑まれた時には、なんだか父にも認められたような気がした。
 
プライベートにおいても家族、恋人、親友などに対し、時に自分でも制御できないような怒りを示してしまうことがある。逆に、相手から大きな怒りを向けられることもある。
大切な存在だからこそ、許せないこと、求めてしまうこと。
でも、それは「もっと相手のことを解りたい」「私がそうであるように、あなたにも大切な存在として認められたい」と願う、そんな気持ちの裏返しだったりするのかもしれない。
そんなふうに想像してみることで、怒りに対して同じく怒りで向き合うのとはまた違った、どこか心に余裕をもった接し方ができたなら、人間として一回り大きくなれそうな気がするのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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