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母のパラレルワールド


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記事:くらもと けいこ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
母は、時々パラレルワールドに行ってしまう事がある。
 
チョキン、チョキン、チョキ……
その母は、今日は私もいる世界で庭木の手入れをしている。
 
「これ、咲いたから切ってあげるわ」
 
そう言って、黄色いバラを3輪ほど切ってくれた。
 
母は植物の世話が好きだ。
庭にはバラが何種類か、赤、黄、ピンクと咲いている。牡丹も紫陽花も水仙もある。紅葉も椿もツツジもある。
あらためて数えてみれば、四季折々の花を楽しめている。
 
私が大学に入り、弟も専門学校に進み、母親としての子育て期間が終わった頃だろうか。
母は部屋に観葉植物の鉢の数を増やした時期があった。
「どんどん増えるわよー 」 そう言って楽しそうに植物たちの世話をしていた。
吐き出し窓の前には、そこから庭に出るのが大変になるくらい鉢が置かれ、それを父が「邪魔だよ 」 とぶつぶつ言っていた気がする。
 
その頃から少し不安定だったのだろう。
 
私は大学を卒業し、就職して3年ほどで結婚することにした。
その頃くらいから、母は、不思議なことを口にし始めた。
 
結婚した翌年に妊娠がわかったころ、母は誰かに見張られていると言い出していた。
あまりに真剣に訴えてくるので、聞いている私も半分信じ、でも半分懐疑的でモヤモヤしていた。
そこで、実家で私の“ご懐妊おめでとう会”を開いて集まり、その会の前に探偵社の人に盗聴器は無いか調べてもらうことにした。
 
結果は案の定「無し 」だったので、母が現実と異なったものを見ていることがはっきりした。弟の部屋がPC関係の機器だらけで、電磁波の影響に気を付けなくてはいけないよ、と調査にきた人に教えてもらったことは良いおまけだった。
 
その後は出産までの間、母の言っていることが本当なのか思い込みの話なのか慎重に聞くようになった。そして話したいことを話してもらい、ただ聞いた。
そんなことがあるまでは、こんなに母の話をきちんと聞く事はなかった。
 
母とはあまり仲良しべったりな母娘では無かった気がする。
よく父の愚痴を聞かされてはいた。どこどこの女の人と歩いていた、飲み屋の女の人にプレゼントしていたのだ、とか。
今となってはどこまでが本当で、どこから思い込みなのか、というところだが。
とりあえず「はいはい 」と聞き流していた。子どもにそんな話を聞かせる親、という点で少し嫌だったのだ。
 
私も我慢出来なくなり、一度父を問い詰めたことがある。
ちょっと、どうなのホントなのはっきりしてくれる⁈ と腕組みして部屋の隅に追い込んだ。
「そりゃあ、若い頃はよぉ…… 」
あったんかい!
まぁ、相当前のことを娘に詰め寄られて、白状せざるを得ない父もちょっとかわいそうになり、その話は妄想ではなく事実であった、と確認したところで終わった。
 
でもそれも、半世紀も前の出来事。それだけ忘れられないことだったのだろう。
ずっと母は愚痴を言いつつも父が大好きなのだった。
 
母は時々不思議な世界を見ている。
隣に住む私の家の外壁がデコボコし始めていると言ってみたり、男の子がパタパタとかけっこしていると言って、その子のための靴下を買ってきてくれたりする。
実際は外壁の改修工事もしていないし、息子は一人暮らしを始めているから、小さな男の子もいないのだが。
 
でも、壁がデコボコしていると言った辺りは、最近私の仕事部屋に模様替えした納戸にあたるところだったのだ。私の最近の精神的なエネルギーが集中しているといえば、そこ。
そして、息子宛に食料や下着の差し入れをしようかと考えたり、部屋を片づけて、小さな頃の事を思い出していた頃。
 
もしかして、ナニか、見えているのか?
偶然とはいえ全く関係なくもないと言えば言える所もあり、オカルトな話か? とそう思いたくなることもある。元が心配性なところもあるから、いつも私や息子のことを気にかけてくれているのは確かだ。
 
そんなことを言い出さない時は、至って普通に暮らしている。食事も洗濯もできている。
たまに天ぷらを揚げたから、タケノコ茹でたから、とおすそ分けをしてくれる。
気候の良い時期は一緒に早朝散歩をして、百段を超える階段を上る事もある。至って普通の日々を送っている。
 
認知症の、初期段階は本人のできることはしてもらった方が良いと、サポートセンターの相談員の方に聞いたことがある。危ないからと先回りの心配をして取り上げて、やれることを狭めるのは良くないとも。
 
母は、その入り口に差し掛かったらしい。
今までに妄想を言うこともあったから、それが混ざっているのかもしれないが、それが母のペースだ。
 
私は、そんな母の見る、もう一つの世界を時々見せてもらっている。
自分では発想しない方向の話が飛んでくるたびに、気持ちがザワザワしたりびっくりしたりするが、そのまま受け入れていこう。
 
そういえば、バラを切ってくれたときに母がこぼしていた。
「もう何十年と使ってるから切れないわ、このハサミ 」
確かにそれは、昔から見覚えのある剪定ばさみ。少し錆が出ている。
 
花ばさみを探しに、久しぶりに母とお出かけするのもいいかもしれない。
これは、私も母も同じ世界で。

 
 
 
 
***
 
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2022-08-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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