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イタリアの空港で死にかけながら囲碁を教えた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:柳澤理志(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
その時、私はイタリアの空港で、
「終わった……」
としゃがみこんだ。
 
家族が迎えに来ている人がいる。
熱いキスを交わしている男女がいる。
ビジネスで来ているであろう人もいる。
 
その誰もが、
見るからにイタリア人ぽい特徴の人たちだ。
 
13時間のフライトでローマ国際空港へ。
そこで1泊して国内線へ乗り継ぎ、
今はピサ空港にいた。
 
「ピサの斜塔」で有名なピサだ。
 
アジア人とおぼしき見た目なのは、
周りにどう見ても私しかいない。
 
私を見つけられないはずがないのである。
 
それは、来ているはずのお迎えが、
来ていないということを意味していた。
 
悪いことに、携帯の充電も切れていた。
 
これは私の準備不足としか言いようがないが、
まさか迎えが来ないと思っていないし、
「まあ何とかなるでしょ」と思っていた。
 
しかし、1時間ほどウロウロした結果、
さしもの楽天家の私にも、
「これは本当にどうしようもないかもしれない」
と絶望感が押し寄せてきた。
 
私は囲碁のプロ棋士である。
 
「ヨーロッパ碁コングレス」
という囲碁イベントに、
講師として参加するために、ここに来た。
 
囲碁というと、日本の伝統文化、
波平さんや友蔵さんが縁側でやっているもの、
のようなイメージが強いかもしれない。
 
しかし今や囲碁は世界の「GO」であり、
その会も、延べ人数にして1400人が
世界中から参加する大イベントなのだ。
 
しかも、この時が第62回目である。
60年以上前からこんなイベントが
続いているということだ。
 
開催地は、各国の持ち回り。
旅行がてら、毎年参加する人も少なくない。
 
夏のバカンスの期間に、
2週間にわたって開催される。
 
お酒を飲みながらだったり、
コスプレしながらだったり、
みんな自由に囲碁を楽しんでいる。
 
一般に地味で暗くて難しい、
という囲碁のイメージが先行しがちだが、
これらのことも、
もっと知られるべきと思っている。
 
そんな囲碁普及の夢に燃える私だが、
今は真っ昼間のにぎやかな空港の中で、
一人絶望している。
 
受付(?)みたいなところで助けを求めたが、
私の言語能力では、
相手が何を言っているのか
全く聞き取れず、あきらめた。
 
そして、お迎えの人は、
時間を間違えているのではなく、
これは本当に忘れられている、
と確信せざるを得ないくらい時が流れた。
 
進退きわまって、しばらく放心した。
 
「日本国内だったらなんとでもなるけど、
海外でこうなったら本当にどうしようもないんだなあ」
と他人事のように考えた。
 
待てど暮らせど、
一向に問題が解決する気配はない。
 
何かをしなければならない。
でも何を……?
 
という自問自答を繰り返した結果、
一つのアイデアが生まれた。
 
考えれば考えるほど、
これだ、これしかない、
という確信に変わった。
 
「タクシーに乗ってしまおう!」
 
1400人も外国から人が来るイベントなら、
それなりに現地でも有名に違いない。
 
空港からタクシーを利用して行く人も少なくないだろう。
 
運転手のおっちゃんが知っていれば、それで解決である。
 
さっそくタクシー乗り場に向かい、
「ドゥユーノーゴーコングレス?」
と、おっちゃんに投げかけた。
 
囲碁を打つ真似をして見せたり、
とにかく必死に訴えた。
 
おっちゃんAは最初は怪訝な表情を見せたが、
「ちょっと待て」
というジェスチャーをして、
おっちゃんBを呼んできた。
 
何か二人で2、3言話し合った末に、
スキンヘッドでサングラスという風貌の
おっちゃんBは満面の笑みをこちらに向けて、
 
「乗れよ!」
 
といった感じに
自分のタクシーを親指で指した。
 
おお!……ほんまかいな!!
 
この伝言ゲームは本当に大丈夫だったのか?
 
そして本当に、
この軽いノリの怪しい男が、
私の救世主なのだろうか?
 
しょうがないので乗り込んだが、
間違って変なところに着いたら終わりである。
 
下手をすると、
人気のない場所に連れていかれ、
「さあ、荷物を置いてきな」
とナイフを出される可能性も否定できない。
 
そうだよなあ、
自分なんかどう見てもカモだよなあ。
 
後部座席で、
最悪のケースの想像は止まらない。
 
心臓はバクバクいっている。
 
ああどうしよう……
 
しかし、そんなことを考えても
どうしようもないので
しばらく頭をカラッポにして、
イタリアの石造りの街並みを楽しんだ。
 
そんな悟りの境地に達したころ、
「European GO Congress 」
の垂れ幕が不意に目に飛び込んできた。
 
自分の死の覚悟と不釣り合いに、
実にあっけなく、
目的地が姿を現したのだった。
 
そして、心の中で土下座しながら、
我が救世主に極めてまっとうな
料金を支払った。
 
かくしてなんとか生き延びた私は、
イタリアで囲碁を教えるという
職務をまっとうすることができた。
(※観光もした)
 
思い返せば、もう4年前のことである。
 
とても良い経験だったので、
この翌年のコングレスにも志願して
また参加するはずだった。
 
しかし折しも、
疫病の流行が始まって開催は見送られた。
 
そして、その国は戦地となり、
もう当分行けない場所になってしまった。
 
その開催予定地は、ウクライナだった。
 
今年の夏は4年ぶりに、ルーマニアにて、
ヨーロッパ碁コングレスは開催された。
 
不安定な状況にも関わらず、
各国から400人ほどが集まって、
囲碁を楽しんだそうである。
 
今年は自分は行けなかったが、
また参加したいと思っている。
 
今度は死ぬほど準備して。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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