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大嫌いだったスカートが私を連れ出してくれた


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記事:筒井美桜(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
小さい頃の私はスカートが大嫌いだった。ピンク色も嫌い。髪が長いのも嫌で、元美容師の祖母に髪を切ってもらう時はいつも「男の子みたいにしてね」と頼んでいた。
 
その理由は単純。
私は女の子らしい格好をするのがたまらなく恥ずかしかったのだ。
 
というのも、4月生まれだった私は同い年の子たちよりも縦横ともに大きかった。肌も日焼けしやすく、いつも浅黒かった。だから鏡に映る自分と他の子たちとを見比べるたびに、「お前には可愛いものは似合わない」と突きつけられているような気持ちになっていたのだ。
 
小学校の6年間は、毎日お気に入りのジーンズを履き、紺色のランドセルを背負って学校に通った。入学準備でランドセルを買いに行った時、紺色のランドセルを欲しがる私に向けられた、母の悲しそうな表情は忘れられない。
 
「普通」という名の型から外れた人を世間は良しとしない。そのことを知っていた母は、あえて生きづらい道を選ぼうとする娘を心配せずにはいられなかったのだろう。
 
だが、そんな母の心配をよそに、私はまわりから浮くこともなく、自分らしい格好でのびのびとした学生生活を送ることができた。今にして思えば、それは実に幸運なことだったし、周囲の友人たちにだいぶ恵まれていたのだろう。
 
そんな私も中学からは制服になった。何の変哲もないセーラー服。もちろん女子はみんなスカートだ。スカートはやっぱり嫌だったが、制服だから履かないわけにもいかなかった。中学に入ってもそんな調子だった私だが、あるスカートとの出会いをきっかけに私の価値観は大きく変化することとなる。
 
ある日の放課後、友人たちの行きつけの服屋さんで買い物をすることになった。ピンクと白が基調の店内に足を踏み入れると、そこには美しい模様のレースのスカートやギンガムチェックのワンピースなど、可愛いものに苦手意識を持っていた私ですら、ついときめいてしてしまうような洋服や小物が所狭しと並んでいた。
 
可愛いがぎゅっと詰まったような空間に圧倒されている私をよそに、友人たちは慣れた様子で試着室に消えた。しばらくして試着室のカーテンが開くと、そこにはピンクの小花柄のワンピースに身を包んだ愛らしい友人のA子の姿があった。「かわいい……」。私の口から思わず心の声がこぼれた。
 
「せっかくだから試着してみなよ」そんな声にふと隣にいた友人の方を向くと、彼女はA子と同じワンピースを私に差し出していた。私は突然の展開にパニクっていたが、友人はそんなことにはお構いなしな様子で私を試着室に押し込み、さっさとカーテンを閉めてしまった。「これはもう着替えるほかない」そう腹をくくった私はスカートに足を通した。
 
「まだ〜?」着替え終わったものの人前に出る勇気が出ずにモジモジしていた私は、友人の不満げな声に意を決してカーテンを開けた。友人たちの視線が一気に私に注がれた。
 
「どうかな……?」緊張気味に尋ねる私を前に、友人たちは「いいんじゃない」「似合ってるよ」と褒め称えた。何だか気恥ずかしくなった私は「じゃあ着替えるね」とすぐさまカーテンを閉めながら、心の中で初めての高揚感を味わっていた。
 
そんな時だった。試着室の外からくぐもった笑い声が聞こえてきたのだ。嫌な予感に耳を澄ませてみると、小声ではしゃぐ友人たちの声が聞こえてきた。
 
「まさかあんなに似合わないとはね」「あんまり笑っちゃ気の毒だよ」
 
私は嫌な汗が出てきたのを感じながら、恐る恐る鏡に目を向けた。柔らかなシフォン素材は、私のコンプレックスだったずんぐりむっくりとした体格を、ピンクの小花柄は私の浅黒い肌を強調していて、お世辞にも似合っているとは到底言えなかった。さっきまでの高揚感が猛烈な恥ずかしさに変わっていった。
 
そんな時だった。「あんたたちサイテー!!」一際大きな声が店内に響き渡り、試着室のカーテンからA子が顔をのぞかせた。
 
「騙されたと思ってこっちのスカートも履いてみて。今度こそ絶対似合うと思うから」
A子がそう言って手渡してきたスカートは慣れ親しんだジーンズ素材のものだった。正直、私はもうスカートなんて履きたくなかったが、動揺していた私はつい受け取ってしまった。
 
仕方なく着替えてみると、さっきとは打って変わって、そのスカートはすんなりと私に馴染んだ。再びカーテンから顔を覗かせたA子は満面の笑みを浮かべていた。
 
「やっぱりすごい似合ってるじゃん!」
A子のそんな一声を皮切りに、バツが悪そうに俯いていた友人たちが顔をあげてこちらを見た。「え、可愛いよ!!」「今度は本当に似合ってる!」彼女たちの驚いたような表情からは本心であることが伝わってきた。
 
再び試着室に戻り一人になった私は、笑みを浮かべた鏡の中の自分と目が合った。
「こんな自分も悪くないかも」初めてそう思えた瞬間だった。
 
この出来事を機にそれまでのコンプレックスが消えてなくなったり、今までの価値観が一新されたりしたわけではもちろんなかった。だけどそれ以降、私の中で女の子らしい格好への抵抗感がゆるやかに薄められていったことはたしかだった。
 
それから10数年経ち、今ではすっかり女性らしい格好の自分も好きになれた。だが、今でも私はスカートなんて一生履かなくたっていいとも思う。ただ、あの時A子が差し出してくれたジーンズのスカートが、私に新たな世界を見せてくれたのもまた事実だ。
 
新しい自分と出会えるきっかけは、きっとそこかしこにあふれている。でも、自分の価値観とは異なるものに手を伸ばすには、少しの勇気が必要だ。だから私は、新しい出会いに躊躇した時はジーンズのスカートを思い出すことにしている。あんなにも嫌いだったスカートでさえ、私の世界を広げてくれたのだから。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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