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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ちー(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「おまえ、なんか変わったな」
おしぼりで手を拭いて、Mが言った。
「え。どんなところが?」
私はメニューを見ながら、聞き返した。
 
私とMは家の近くにある、コメダ珈琲に来ていた。
Mとは小学校からの幼なじみだ。
いつも一緒に学校に行き、一緒に遊んでいた。
Mは大学進学を機に、私たちの故郷を離れ、上京した。
私たちは頻繁に訪れていた喫茶店で三年ぶりに再会した。
 
「少し穏やかになったかな」
「そうかなあ」
自分は昔のままだと思っていたわたしは、少し意外だった。
「コナンくんになりたいってもう言ってないの?」
と茶化すようにMが尋ねた。
私はその時、ハッとした。
そして、ゆっくりメニュー表から顔を上げた。
私はかつての自分の夢を思い出していた。
 
 
 
「僕の将来の夢はコナンくんです!」
教室がどっと湧いた。
発表をした私に冷ややかな視線が注がれた。
「アニメのキャラじゃん」
「なれるわけないよ」
バカにするような声も聞こえてきた。
普段静かな教室に、ヒソヒソとした空気がざわめいていた。
「なれるもん。みんなコナンくんのこと何にも知らないくせに!」
泣きそうになる私の慰めるように、先生が手をパンパンと叩いた。
そして、「素敵な夢ですね、ありがとう」と言った。
 
小学生の頃、自分の将来の夢を発表する授業があった。
ほとんどの子供は、消防士、とか、サッカー選手、とか、具体的な夢を自信満々に発表していた。
しかしその中で、私はアニメの主人公である、コナンくんになりたいと宣言した。
 
 
名探偵コナンは子供にも大人にも大人気のアニメだ。
天才的な頭脳を持つ高校生探偵が、ある薬のせいで小学生コナンくんになってしまうが、
小学生の体でもあらゆる難事件を解決していく、というストーリーだ。
 
「かっこいい、あんなひとになりたい……」
 
子供のころ、私はコナンくんのようになりたかった。
コナンくんは頭がいいだけではない。スポーツも万能だし、容姿もとてもかっこいい。
スマートな立ち振る舞いで、みんなの人気者だ。
頭脳と身体を使って、難事件を解決し、困っている人を助ける。
好きな人のためなら火の海にでも飛び込む。そして、クールに笑ってみせる。
私は子供ながら、痛烈にその姿に憧れた。
 
高校生になっても、私の理想像はコナンくんだった。
もちろん、高校生になってもアニメのキャラクターになりたいとは、家族や友人には口に出して言うことはできなかった。
しかし、私が何かを頑張る理由は、コナンくんへの憧れにあった。
進学校を目指したのも、コナンくんのように賢くなりたかったから。
サッカーを始めたのもきっと、コナンくんの影響を受けたから。
 
「コナンくんみたいな人になるんだ」
 
私の成長の過程には、コナンくんになりたいという意思が強く働きかけていた。
 
 
しかし、実際にアニメのキャラクターのようにはなることできない。
私は大人になるにつれて、現実の厳しさを知った。
そして、私は幼い頃抱いていた夢を、徐々に諦めていった。
 
 
 
「お待たせしました! サンドイッチとナポリタン大盛りです」
Mの前にはサンドイッチが置かれ、私の前にナポリタンが運ばれた。
こんもり盛られたナポリタンはホカホカと湯気を上げている。
 
「よくそんなに食べられるな」
「Mも昔は大盛りパスタ食べてたじゃん」
「今はもう食べられないよ」
Mは苦笑いしながら言った。
その表情は昔に比べて、少し大人びて見えた。
東京での生活が、Mを変えてしまったのだろうか。
 
「俺、コナンくんになりたいとか、自分の夢とか、どうでもよくなったんだ」
前に置かれたパスタに視線を落として、私はMに打ち明けた。
「そうか、おまえも大人になったんだな」
「いつまでもアニメのキャラになりたいとか言えないから」
私は元気のない声で続けていった。
「まあ、少し空しいけどな」
 
昔の夢を諦めてしまったという事実は、私を空虚は気持ちにさせた。
大切な何かを失った気持ち。
それは、自分が幼い頃から大切にしていた宝物が、突然捨てられてしまった悲しみに似ていた。
 
 
冗談のつもりで訊いたのに、落ち込んでいる私を見て、Mは困惑しているようだった。
Mはサンドイッチを頬張りながら私の顔を見ていた。
しかし、しばらくすると、ゆっくり話し始めた。
「悲しいけどさ、大人になったって事は悪いことじゃないよ」
そして、少し考えてから、呟くように続けた。
「おまえが夢に向かって努力したことは、無駄じゃない。どこかでおまえを支えてくれる」
 
確かにそうだ。
コナンくんのようになりたくて勉強を頑張ったことは、大学進学に役立った。
スポーツに勤しんだ日々は私の心身を鍛えてくれた。
 
持っていたサンドイッチをおいてMは言った。
「落ち込んだ時はさ、またこうやって一緒に飯食おうぜ」
そして
「おまえに会いに、いつでも帰ってくるよ」
と微笑んだ。
 
私はMの顔を見た。
私は夢を見失ってしまった。
大人になってしまった。
大切な何かを失ったかも知れない。
しかし、私には大切な友達がいる。
そして、これからの未来がある。
 
私はスパゲッティを頬張った。
「美味いな」
コメダ珈琲には変わらないパスタがあった。
そして、高校生の頃から変わらない無邪気なMの笑顔があった。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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