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メディアグランプリ

恋の終戦記念日


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:杉本陽子 (ライティング・ライブ 東京会場)
 
 
「陽子ってさ、特別美人なわけでもないのに、なんで陽子ばっかりモテるの!?」
 
夜の11時過ぎ、居酒屋で飲み過ぎて酔っぱらった同じ大学のサークル仲間のYちゃんは、商店街を歩きながら私に向かって吠えた。
(それって褒めてるの? それともけなしてるの?)とちょっと複雑な気持ちになった。
 
私は確かに歩けば周りの人が振り向くような美人なわけでは決してない。中学・高校時代はスクールカーストで言えば最下層にいるような超地味な優等生タイプの女子だった。ずっと一つ上の先輩に片思いをしていて、一世一代の勇気を振り絞ってバレンタインにチョコレートをあげても、丁重にお断りされ相手にもされなかった。
 
それが、大学生になって初めて美容院に行き、少し髪を明るめに染めて髪型を変えた頃から流れが変わりだした。1年の夏にはサークルの4年生の背が高い素敵な先輩から告白されて、サークル内公認カップルとなって、私は人生最高の有頂天にいた。
 
でも、その有頂天は長くは続かなかった。
 
いわゆる「大学デビュー」。少し見かけが変わったところで底抜けのネクラな性格は簡単には変わらない。自分の根本的な自信の無さを、彼といることで埋め合わせをしていたにすぎなかった。結果的に彼に精神的にしがみつく「重い女」になってしまい、付き合って半年後のクリスマスイブに振られてしまった。天国から地獄に突き落とされるというのはこういうことかと思った。
 
胸に直径20センチくらいの弾が貫通して穴が開いているような喪失感を、起きている間に常に味わうことになった。色彩は消え、目に映るものすべてがモノクロに見えた。夜は眠れなくなり、死にたくなるような辛い気持ちに耐えかねて、ついに心療内科を受診することになった。
 
診断は予想通りの「うつ病」。私には診断名などはどうでもよくて、ただただ今の辛さを和らげてくれる薬がもらえればそれでよかった。
 
たしかに薬を飲むと、「ただ生きているだけで死んだ方がまし」と思ってしまうような苦痛が少し緩和される気がした。それでも彼への想いは消えず、電車の中で座っているだけで自然と涙がこぼれてしまうような有様だった。
 
そんな状態の私をほおっておけないと思ったのか、そばにいてくれる同じサークルの男友達が現れた。よく一緒に週末に飲んでいた飲み仲間の一人だった。心療内科にも車で送ってくれたりした。
 
先輩に振られて2週間も経たない頃、その彼に告白された。私は振られたショックの真っ最中にいたので他の誰かを好きになる余裕などゼロだったのだが、いつも一緒にいてくれた為、そのまま「なんとなく」付き合う流れになってしまった。
 
ただ、やっぱり元カレを忘れられず、3ヵ月ほどで別れることになってしまった。彼には本当に申し訳なかったと思うが、振られた直後の痛みを乗り越えるためには彼の支えが必要だったように思う。
 
その彼と別れた後、不思議とまたすぐに彼氏ができた。私が所属していたサークルは他大学サークルとの交流も盛んだったため、出会いは多かった。私はその頃、お酒で失恋の辛さを紛らわすようになっていたので、飲み会になると人が変わったように陽キャになり、その勢いで男子と仲良くなり付き合ってしまう、といういわゆる「軽い女」になってしまっていた。
 
付き合っては短い期間で別れ、付き合っては別れを繰り返し、交際相手が途切れることがなかったが、その間最初の元カレを忘れたことは一度もなかった。
 
元カレは大学を卒業して就職して、高速バスで二時間ほどの地方都市の支社に勤めていた。その街を一人でこっそり訪れては、彼の会社の前をふらふらと歩いてみたり、うわさに聞いた彼の住んでいるらしき住所のあたりをうろついてみたりした。その頃はまだ無かった言葉だが、自分はいわゆる「ストーカー」になってしまっていたんだな、と後で気づいた。
 
そんな状態なので、勉強にも身が入らず、結局1年留年することになってしまった。
 
元カレと別れて3年半がたった5年生の夏のことだった。他の男性と何人付き合ってみても、元カレへの気持ちは全く薄れることがないため、私はこのまま元カレのことをずっと好きなまま、辛い気持ちを抱えたまま人生を終えるのだろうか? と恐ろしくなってきた。「失恋を癒すのは新しい恋が一番」などというが、私にはこれっぽっちも当てはまらなかった。
 
そこで、最後のチャンスに賭けて、元カレの親友であるサークルの先輩に電話して、もう一度元カレと話をさせてもらえないか頼んでみることにした。
 
私は「たった1度電話で話すだけでも」と、しがみつくような思いだったのだが、先輩の答えは「それは難しいと思う」だった。先輩は穏やかに辛抱強く話を聞いてくれたが、私はその答えをしぶしぶ受け入れるしかなかった。
 
電話を切って私は大声でわんわん泣いた。母親がびっくりして部屋に来たので、そのまま胸をかりてわんわん泣いた。母親は何も聞かずによしよししてくれた。
 
それでも彼を忘れることはできなかった。
 
だから「彼を好きなままの私」を殺したことにして、新しい自分として生きるという決断をした。「彼を好きなままの私」を心の中で葬りさったのだ。
 
その日は奇しくも終戦記念日だった。私の長い闘いは終わった。
 
 
 
不思議なことに、次の日から嘘みたいに心が軽くなった。彼を引きずる気持ちが消えてしまった。それからは、寂しさを紛らわす恋ではなくて、本当に相手を大切に思う恋ができるようになった。
 
あの時、勇気を出して行動を起こして本当に良かったと思う。
燃えくすぶっていた私の恋をやっと成仏させることができたのだと思う。
 
それから25年が経った今でもふと、その元カレのことを思いだすことがあるが、それは決して辛い思い出ではない。何年もあきらめられないほどの幸せな時間を過ごさせてもらったことに今も感謝しかない。どうか幸せでいてほしいと願っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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