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メディアグランプリ

夫が不倫相手からプレゼントされたシャツに、妻、アイロンで挑む


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山野とこ(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
家事の中でアイロンがけが一番好きだ。びしっと決まると、ひとりニンマリしてしまう。
 
脱水あがりの濡れたままの服にアイロンをかける。スーとシワが伸びて、なんとも気持ちがいい。熱気で洗剤の香りがフンワリとたちこめる。高温にやられて衣類に残ったバクテリアにも、ジューっと焼きが入ることだろう。よし。私はなんて手際の良い賢い妻なんだ。これが、正しい生活者のあり方だ。そして夫は明日一日をこのパリッとしたシャツで過ごすのだ。たかがアイロンがけと言うなかれ、女一匹、人生の知恵の凝縮なのだ。
 
脱水が終わって濡れたままの衣類に、アイロンをかけるようになったのは、ゆうちゃんの教えによるところだ。同期入社のゆうちゃんは、いつもアイロンのきいた白いシャツを着て、シュッとしていた。頑固な合理主義者で、酔うと「人生 男よりマンション!」と豪語したりするくせに、乙女なところもあった。意外にも、アイロンはクリーニング屋さんに任せずに自分でしているらしい。「面倒臭いんだけどさ、これだけは自分でやるのよ。濡れたまま直接かけちゃうの。乾いた服にかけるより楽よ。大体さ、せっかく乾いたのに、どうしてスチームかけて、もう一度湿らせるのよ」確かにそうだ。そう言われて、こちらの背筋もピンと伸びる。ゆうちゃんは、大事な時には人をあてにしない。自分の流儀を貫く人だ。
 
通っていた女子高には家庭科でアイロンがけ実習があった。
「そこ、おしゃべりヤメ。手を動かしなさい」と、先生に怒られながら、しぶしぶ順番でアイロンがけをしたものだった。飯島は砲丸投げの選手。気が優しくて力持ち。見かけによらず女子力も高めで、ぎゅぎゅっとアイロンを押して、あっという間にきれいに仕上げてしまった。
「家でもやってんの?」
「まさかやるわけないじゃん」と、笑って、私とバトンタッチ。ところが私は、飯島みたいにはいかなかった。ぜんぜんシワが伸びない。壊れたか? と、コードをたどって唖然とした。コンセントが入っていない。飯島は己の力だけでシワを伸ばしていたのだ。実直な彼女らしい。疑うことをせず、努力を惜しまないタイプなのだ。風の便りで離婚したと聞いたが、あの腕っぷしなら、どこに行ってもパワフルなシングルマザーになっているはずだ。
 
いわゆるツンデレの里香は、結婚するにあたって、オットとルールを作った。お互い大人同士、仕事もあるし「自分のことは自分でしましょう」と。その言葉のとおりにオットの世話焼きは一切しなかった。ところがある日、ヨレヨレのシャツで仕事をしているオットの姿を、偶然に見かけたそうで、それから芸風が変わった。オットがあまりにみすぼらしくて、クールな彼女も「これはいかん」と、悲しい気持ちになったらしい。今ではシャツだけは、アイロンをシテアゲテイルそうだ。彼の為じゃなくて自分のためだと言いながら。照れ屋の里香らしい言い訳だ。そこに深い愛情を感じる。気持ちがルールを越えたのだろう。
 
「明日これ着るから、アイロン頼む」
夫のあっけらかんとした顔は、スキだらけだ。夢にも私が不倫の実態を掴んでいるとは、思っていない。
私は、ふうっと奥歯のかみしめを緩めて、深呼吸をしてから答える。「いいよ。置いといて」
 
夫の綿シャツ。間違いなく彼女のお見立てだ。一緒に出掛けた時にでも買ったのだろう。白のボタンダウンで、ポケットと袖の折り返しだけがタンガリー地のデザイン。ボタン糸が全部違う色だ。ひと味違うことをさりげなく主張しているあたり、しっかりマーキングされている。なるほどねぇ。シャツに彼女のメッセージが透けてみえる。
 
さて、どうしたものか。
今まで培った経験のすべてを注ぎ込んで、心の中で、友人たちと戦いのフォーメーションを組む。
ゆうちゃんだったらどうする。飯島なら力技にでるのか。里香の愛ならこれをどう越える。正解をさがしながら、私はアイロンのダイヤルを高に合わせる。行く手を阻むデコボコをならして、進行方向に集中し、一筋のヨレも見逃さず、焼けた鉄の塊をすべらせる。まるでアホな女をじりじりと捻り潰していくかのように。そして、来た道を確認する。真っさらで汚れのひとつもあってはならない。
 
みよ! 完璧。私の右にでる者がいるなら、連れてこい。
 
レフリーのいないゲームにはルールがない。勝負はどうやって、決まるのか。
明らかに勝つと分かっていても、勝った実感がなければ、決着はつかない。
殴り合いになる予定もないのに、延々と挑戦状だけが、心に届く。
 
アイロンのきいた一枚のシャツのように、些細な生活のひとコマが、ぴしっと決まった時は自分を褒めることにしている。大丈夫だ。それで合ってる。しっかりやってるぞ。
 
そうなのだ。私は、彼女にアイロン対決を挑んでいるわけではない。地に足をつけて自分の生活を確認したいのだ。重ねていく日々のなかに、自分の気持ちを焼き付けながら過ごしていきたいのだ。
 
心に湧きあがる正体の知れない感情に問いかける。いったい私の敵は何なんだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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