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メディアグランプリ

桃、栗、三年。柿、八年。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ちー(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
12月の上旬は、山が最もカラフルになる季節だ。
土の茶色、落ち葉の赤、黄、緑、そして、空の青。
少し遠くに目をやると、柿やミカンがきれいなオレンジ色の実をつけている。
山から来る風はヒンヤリ冷たくなった。
しかし、体を太陽に当てていると、自然と体は温まる。
 
私は、その日、山間にある桃畑に来ていた。
私の大学四年生で、実家は桃農家だ。
授業がない日は、こうして父や祖母と一緒に桃畑の仕事を手伝っている。
その日は、桃の苗木を植えに来ていたのだ。
 
桃、栗、三年。柿、八年。
という言葉があるように、桃はおよそ三年をかけて、成長する。
 
私は穴を5つ掘り、そこにそっと、5本の苗木を植えていった。
私の腰くらいの背丈の苗木は、まっすぐピンと伸びている。
まるで新しいランドセルを背負った、小学一年生のようで、かわいらしい。
 
 
 
 
私は、小さな工場でアルバイトをしていた時期があった。
段ボールを積んで、指定された場所に運ぶ、簡単な仕事だった。
短期の派遣登録のアルバイトだったので、若者や学生は少なく、いろんな年代の人が働いていた。
その中に、彼がいたのだ。
 
 
「おい!さぼんじゃねえよ!」
「チッ」
短い舌打ちが聞こえてきた。
怒号を飛ばされていたのは、若い男だった。
私よりも少しだけ歳が上にみえる。
長身で、清潔感のある髪型で、たくましい体つきをしていた。
制服の青紺色の作業着がよく似合っていたが、表情だけはかなり不満げだった。
「うるせえな、じじい」
男はそう呟くと、だるそうに、段ボールを積み始めた。
 
単純な作業とは言え、この仕事はかなりキツい。
湿気のこもる工場で8時間の肉体労働だ。
座ることもできず、常に段ボールを持って歩き続ける。
仕事が終わる頃には、私はヘトヘトになっていた。
 
 
ある日の夕方、仕事が終わり、着替えるためにロッカールームに行くと、長身の彼がいた。
彼はもう既に着替え終わっていて、スマホをいじりながら、スポーツドリンクを飲んでいた。
私たちは別に話すこともなかった。
彼と同じ空間を共有している時間は、なんとなく、居心地が悪かった。
ロッカーの開く、ガチャ、とか、ギィという音だけが、かすかに響く。
「気まず……」
私がそう思っていると、彼が話しかけてきた。
「おまえ、学生?」
少し間が空いて、
「はい」
と私は短く答えた。
 
彼の話を聞くと、いろいろなことが分った。
彼が25歳であると言うこと。
彼は学生時代野球部で、私くらいの歳の頃は、毎日白球を追っていたこと。
彼は、前の仕事を辞めて、今は再就職先を探しながら、この工場でバイトをしていること。
そして、前の会社も、この工場のことも「クソだ」と思っていること。
 
私は疲れていたので早くかえりたかった。
一方で、男は饒舌だった。
久しぶりに人と話すかのように、イキイキとしていた。
20分ほど、止まらない勢いで語り続けていたが、
「この仕事はクソだな」
と、最後にそう言って、彼は帰って行った。
 
 
次の日から、私たちが親しくなる、と言う事は無かった。
以前と同じように、朝から晩まで、段ボールを運ぶ毎日が続いた。
男も変わらず、いつも表情だけは不満げだった。
 
 
 
 
一週間ほどして、彼は突然、工場に来なくなった。
サボりすぎてクビになったのか、「クソだ」と思っている工場でこれ以上働きたくなくなったのかは、わからない。
 
それからしばらくして、私も学校が忙しくなったので、工場のバイトを辞めた。
 
 
 
 
その後、男には、一度も会っていない。
その男は今何をしているのだろうと、私は、ふと、考える。
そして、三年後、私はどうなっているだろう、とも。
 
私は三年後、男と同じ25歳になっている
仕事が見つからずにフリーターをしているかも知れない。
もしかしたら、結婚をしているかも知れないし、酒に溺れてダメになっているかも知れない。
私は、25歳になった自分を、上手く想像することはできなかった。
 
私は、植えたばかりの5本の苗木に目をやった。
桃の木も、全てが立派に成長するとは限らない。
病気になってしまったり、台風で折れてしまう木も、少なくはない。
新一年生の苗木たちは、四年生に進級する前に死んでしまうかも知れない。
 
「立派に育って欲しい」
私は苗木に土をかぶせながら、そう思った。
苗木に向けて。そして、私自身に向けて祈った。
 
その時、山風が吹いて、苗木がかすかに揺れた。
落ち葉が浮いて、大きな雑木はさわさわと鳴った。
「まあ、がんばろうよ、一緒に」
苗木がそう言ったように、私は感じた。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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