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憧れた彼女の体はカセットテープだった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:髙久裕美子(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
待ちに待ったランチの時間。
お得ですよ、と勧められるがまま注文したランチセットが目の前に運ばれてくる。
「うわ、意外と量あるなあ。食べきれないかも」
ご飯少なめでオーダーしなかったことを後悔しながら、箸に手をつける。
案の定、2/3食べ終えたときにはお水を飲むのも苦しいほどの満腹感に襲われていた。
 
「1日誰かと入れ替われるなら誰になりたい?」
誰もが人生で一度は考えたことのあるテーマではないだろうか。
 
かつては「人気アーティストになって東京ドーム満員の観客を舞台から見てみたい」なんて思ったこともあったが、今の私が切に願うのは「大食い体質の人になって、無理なく一人前を食べきりたい」である。
 
食に関する古い記憶として、幼少期に4歳年下のいとこより食べられないことを指摘されて
落ち込んだことが思い出される。そのとき、初めて自分は人より食べないのだと気づいた。
家族全員があまり食べる方でなかった上に、末っ子の私が一番少ない量を食べているのはごく自然なことだったため、自分が少食の部類に入るとはまるで思っていなかったのだ。
 
自分が少食であることを認識した私は、大人になってから様々な試練に出くわすこととなる。
 
カレー屋さんのナンはなぜあんなにも大きいのか……。
「見て見て、顔より大きいよー!」なんてお決まりのセリフを言っているうちはまだいい。次の瞬間には食べ切れない未来が頭をよぎり、食べる前から申し訳ない気持ちになっている自分がそこにいるのだ。
帰り際店員さんに「オイシクナカッタ……?」と悲しそうな笑顔で話しかけられて、心が痛くなったのも一度や二度ではない。
 
結婚式のコースメニューもそうだ。
自分史上最高の空腹状態で行くにも関わらず、メインの肉料理あたりには満腹感がじわじわと顔を出す。
 
さらに就職すると、会社の飲み会では「若い女の子は甘い物好きでしょ?」とおじさんからデザートをもらうというピンチにも遭遇した。
メインすら食べ切れていない私には非常にありがた迷惑だったが、そんなことを新入社員が言えるわけもなく、感情を押し殺して無理に食べたものだ。
 
「残すことが良くない」そんなことは百も承知である。
ただ、無理して完食した結果、記憶に残るのは「美味しかった」ではなく「苦しかった」
であり、「また食べたい」という気持ちは到底生まれてこない。
 
いつのまにか誰かとする食事は「きちんと完食できるかどうか」ばかりに気持ちが向いてしまい、心から楽しめなくなってしまった。
食後の感想も「美味しかった」ではなく「よかった、食べ切れた」へと変わった。
 
そんな私が憧れる理想の大食いスタイルは「ゆっくりと美味しそうに味わいながら、たくさん食べる人」である。
 
大学時代に、見た目からは想像もつかないほどに食べる友人に出会った。
お寿司は25皿、つるとんたんではうどん3玉ぺろりだという。
当初はいわゆる赤文字系ファッション誌(CancamやViViなど)からそのまま出てきたような彼女と、大食いのイメージはどうにも結びつかなかった。
しかし、多くの時間を過ごすうちに彼女のすごさを目の当たりにすることとなった。
 
彼女は言った。食べ放題でとうにおかわりを諦めた私と対照的に、時間をかけてゆっくりと食べ続けたその後のことだった。
「あー、背中いっぱい!」恐らく私の聞き間違いだろう。
「お腹、いっぱいになったの?」
「ううん。お腹はすでにいっぱいでね、お腹がいっぱいになったらその後は背中に入るの。」
はて、目の前のこの人は何を言っているのだろうか。
人体構造の記憶を必死に思い起こすが、何の参考にもならない。
 
彼女曰く、ある程度の量まで食べるとさすがに満腹感は感じるらしい。
しかし、その後も背中に入っていくイメージで食べ続けることができるのだと。
 
「俺の胃袋は宇宙だ」ひと昔前のドラマでそんな決めゼリフがあったが、
そのとき私が感じたもの、それは「彼女の体はカセットテープだ」ということ。
カセットテープ、なんとも懐かしいフレーズである。
口にしたのはいつぶりのことだろうか。
物心がつくかつかないかくらいの頃、歌が大好きだった私のために母はいつも音楽をかけてくれた。A面が終わるとひっくり返してB面をセットする。
そうやってたくさんの童謡が私の記憶に刻み込まれていったことを思い出す。
 
「A面が終わったらひっくり返してB面をセットする」
それくらいの自然な感覚で、お腹がいっぱいになった彼女の体は当たり前のように
消化経路を背中へと切り替えているように見えたのだ。
 
残念ながら私の体は上げ底の箱のようだ。まだ入ると思っていても蓋を開けてみれば最初から70%ほどのスペースしかない。
限られたスペースをいかに有効活用するか、まだまだ改善の余地がありそうだ。
 
 
食べ放題に行ったときから月日は流れ、彼女の結婚式に出席することとなった。
初めて会った新郎に軽い挨拶とお祝いの言葉をかけた後、私は一言伝えた。
「彼女に背中いっぱい食べさせてあげてくださいね」
きっと彼の耳には「お腹いっぱい」と届いたはずだ。でもそれでいい。
 
カセットテープだった彼女の体はもしかしたらCDに進化しているかもしれないし、
もはやハードウェアではなくなっているかもしれないからだ。
「最近背中いっぱい食べてる?」と聞いたらなんて返ってくるのだろう。
 
結婚式からの帰り道、重たくなった上げ底の箱を抱えながら、彼女の末永い幸せを願った。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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